映画

サバイバルファミリー -電気はない。成長と絆と希望はある-

概要

東京のマンションに暮らす鈴木家。ある朝、家中の電化製品が止まってしまう。不便な朝に苛立ちながら父は会社へ、息子は大学、娘は高校へ。しかし街へ出てみると、停電は鈴木家やそのマンションだけでなく、街中に広がっていることが分かる。

これが単なる停電ではなく、電池も含め電気自体が使えないことも分かってくる。車もエンジンがかからない。テレビもラジオも電話も使えず、何も情報を手に入れることができない。

最初は復旧を待っていた鈴木家も、数日が過ぎるうちに家を出ることを決める。目指す先は妻の父が住む鹿児島。イマイチまとまりのない家族は、荷物を詰めて、不安な表情で自転車を漕ぎだす。

みんなのレビュー

高評価

  • リアルではないが、「自分だったら」と考えさせられる設定
  • シリアスな展開もありながら、全体的にコミカルで楽しく、家族で観られる雰囲気のディザスター映画
  • ぶつかりながらも再生していく家族の絆が感動的

低評価

  • 設定にリアリティがない
  • 家族にフォーカスされていて、ディザスター物としての面白さが薄い(露悪的なエピソードやサバイバルの面白さがない)
  • 陰惨な出来事はないが、身勝手な人や足元をみる人が登場する。もっと気楽なコメディに振り切ってもよかった

ナニミルレビュー

全体的なレビュー

見ているこちらも「今この瞬間、電気が使えなくなったら」とついつい想像してしまう設定が面白い。同じ日本の都会側に住んでいる身としては、感情移入しやすい設定だった。

さらに、「まあ、せいぜい1週間くらいのストーリーかなぁ」と思って見ていたのだが(まさに鈴木家と同じ考え)、予想以上に長い期間を描いたストーリーで驚きがあった。

内容的には、良くも悪くも楽しく見られるエンタメとしてチューニングされている。災害ではなく家族ドラマを描いた映画。

ディストピア物として、もっと醜い世界を見たい人もいるかもしれないが、そういう期待に応える映画ではない。

本作では、パニック時の人間のエゲツない姿や悲惨な世界はほとんど描かれていない。そういうシンドい人間模様を見たくない時でもオススメできるディストピア物である。家族の旅は、比較的のほほんとしている。

では、全体的に緩い展開かというとそうでもなく、家族に降りかかる災難として、結構厳しい展開もある。要所要所で緊張感を持たせる展開があるので、最後までダレずに観ることができた。

日本がパニックになったら、というリアリティを追求したタイプの作品ではない。電気が消えた世界観で、家族のロードムービーを緊張感とコミカルさを織り交ぜながら描いた、いつでも、誰とでも観られるようなエンタメ作品。

気楽に観られて、かつちゃんと困難もキャラクターの成長も描いている。観客に思考を促す設定でもある。面白い映画だった。

いそうな家族

仲が悪くはないけど、そこまで密にコミュニケーションをしているわけでもない鈴木家。

大学生の息子は家族と食事を取らずファストフードを食べて帰ってくる。父は母のお願いをテキトーに聞き流し、娘は部屋で友達とLINE。

関係崩壊している家族ではなく、「いそう」と思わせるくらいの絶妙にまとまりのない家族関係。

家族がサバイバルする設定のコメディなので、家族が共に非日常を過ごし、その中で家族としての絆を深めていく、という内容なのは観る前から想像がつく。

鈴木家が良いのは、キャラクターに極端さがないことだ。いい意味で普通の4人家族。

息子は無口で無関心だが、絶対に口を聞かないとか、心を開かないというタイプではない。

娘も家族のすることにいちいち文句をつける女子高生だが、素直さや協調性がないわけでもない。

父は頼りないがサバイバルで家族を引っ張るし、口うるさいが強権的ではない。

母は器用なタイプだが、過剰に1人で抱え込んで落ち込むタイプでもない。

家族関係のドロドロした感じはなく、時々ケンカしつつも仲は悪くない。

その上、圧倒的に落ち着いて行動する母の存在のお陰で、「この家族は大丈夫だな」という楽観的な空気が終始流れている。

この家族の感じが、映画全体のトーンとあっている。

ディストピアだが悲劇的ではない感じ。個々にシンドいエピソードはあるが、絶対的に不幸にはならない感じ。

家族の成長

ストーリーを通して、頼りない父は責任感を獲得し、息子と娘はたくましく成長していく。

特に、家族のすることに文句を言ってばかりだった父と娘は、自分で問題を解決しなければいけないんだという主体性を持ち始める。

それらの成長が、エピソードやシーンでしっかり語られていく点が映画らしくて良い。

父は始め軽薄な男として描かれている。母のお願いを聞き流し、なんの根拠もないのに「俺についてこい」と家族に言って旅に出る。

そして、自分の考えに固執するプライドの高いタイプである。

マッチがないと心配する息子に「火なんかすぐ起こせる」と豪語し、木の枝で火起こしを試みる。しかし思うように火がつかない。息子が発煙筒を拾ってきて「これでつければ?」と提案した後も意固地になって火起こしを続ける。

そして、サバイバル慣れしている家族に出会った時、自分の家族より上手く事態を切り抜けている相手家族に無愛想にしている。

ストーリーが進み、ある場面で息子と娘が父にキレる。ケンカになる3人を母が仲裁する。

このケンカの後、炊き出しに出会う。父は、息子と娘のため、土下座して食べ物を恵んでくれと頼む。

ここで父は家族のためにプライドを捨て、同時に軽薄さを克服する。

「家を出る」「鹿児島に向かう」など、何かしようとするたびに消極的で勝手な文句を言ってばかりだった娘も、終盤で川を渡ろうとするシーンでは無言でやるべきことをやり始め、成長を示す。家族に無関心だった息子も終盤では家族をまとめる役として、母の手を引く行為で成長を示す。

困難にせよ、成長にせよ、1つ1つシーンの積み重ねで見せているところが良い。

説明的な部分が少なく、サバイバルという設定を活かした奮闘を見せながら、「この経験をしたら、たしかに強くなるだろう」という説得力のある展開を積み上げている。

自転車を漕ぎ続けるという肉体的な大変さに加え、持ち物を失ったり、生き物を殺したり、力仕事をしたり。

それらの成長を、キャラクターの行動を対比させながら見せている。

息子が自転車のパンクを修理する際にケータイを捨てるシーンは、荷造りの際、ケータイを丁寧に梱包材に包んでいるシーンと対比される。

娘が涙を流しながら豚の燻製にかぶりつくシーンは、映画冒頭で魚を見て「私そんなの食べないからね」と毒づくシーンと対比されている。

イカダを作るシーンで、何も言わず黙々と作業を始める父の姿も、小さなことでいちいち家族を怒鳴っていた父の姿と対照的。

魚が捌けないシーンと、家族で豚をさばくシーンも対比的に置かれている、

1つ1つのエピソードを、家族の様子の変化として分かりやすく配置している。

ただ正直、娘の友達との関係、息子の意中の相手とのエピソードは蛇足に感じた。

「友達」と「家族」を対比させて、「家族で一致団結する」という展開を盛り上げるためだったのかな、と感じたが、イマイチ意図がよく分からない。娘側はまだ、娘の性格を見せたり、事件中の学校がどうなっているかを見せる展開として分かるけど、息子側はストーリー的な意味が本当によく分からなかった。

この展開のせいで、序盤が妙に間延びして感じた。

ストーリーの緩急

サバイバルのテンション的にも緩急がついてる。

停電初日の「こういうのもたまには良いわねぇ」という呑気なところから始まり、東京を脱出しようと決めた時にも、余計な物資を自転車に積み込む緊張感のなさ。そして、「サイクリング久しぶり」という感じで、非日常を楽しむ雰囲気が流れている。

そこから目当ての飛行機が飛んでいないことが分かり、公園で野宿することになって、少し暗い話が出てくる。空港で群衆が騒いだり、水を欲しがっている人に嘘をついたり、夜中に水を盗まれたり。

嵐に見舞われ、荷物が飛ばされて、ほとんど手ぶらになってしまう。父は倒れ、猫缶を食べて飢えをしのぐ。疲労感が高まる展開。

食料にも困り始めたところで、サバイバルを楽しんでいる家族に会い、こんな状況でも楽しんでる人がいるのだ、と少しだけポジティブな空気が流れる。

しかし、電気が使えると信じていた大阪に着き、そこも東京と同じ状態だと分かって家族は絶望する。

父が土下座してまで食料を手に入れようとするが、願いは叶わず、家族は空腹のまま畑道をトボトボと歩く。

苦難が続く中、空腹で芋虫を食べようとするところまで追い詰められた家族は、牧畜をしている現地のおじさんに助けられ、衣食住のある共同生活が始まる。ここで一気に幸福感のある空気が流れる。

そこで体力を回復し、一家は希望に満ちた様子で鹿児島へ出発する。

しかし道を間違え、イカダで川を渡ろうとして、父が溺れて流されてしまう。

父を失った悲しさを引きずりながら3人が線路沿いを歩いていると、犬に襲われ、母は足を骨折。もうダメか、という絶望感が再び漂う。

そこに蒸気機関車が通り、3人は助けられる。程なく父も生きていることが分かり、蒸気機関車に助けられ、ハッピーエンドへ向かっていく。

こんな感じで、非日常の楽しさから、非常事態の不穏な出来事。嵐で持ち物を失い、さらに最初の目的地だった大阪にも救いがない絶望。そこからの牧畜おじさんの助け。希望に満ちた出発からの父との別れ。母の怪我。機関車に助けられ、父と再会。

普通の生活を送っていたら絶対家族が一緒に経験しなかったであろう多くの出来事を、浮き沈みのあるドラマとして上手く描いている。

コメディ

この映画、コメディ映画になっているが、笑えるシーン自体はそれほど多くない。全体的にコミカルな空気は流れているのだが、終始ゲラゲラ笑いながら見られる感じの雰囲気ではない。

ただ、ストーリーの文脈も込みで、しっかり笑わせるポイントがある。単発のギャグをポンポン出してくるというより、ストーリーの流れで見るからこそ笑える場面がしっかりあって、そこも見ドコロ。

気が立っている父、息子、娘の3人に対して、おっとりしている母。しかしサバイバルに最も役立っているのは母の機転であり、このキャラクター配置も上手い緩急になっている。

特に、3人が大阪で大げんかになった際、母が「分かってるでしょ! お父さんは、そういう人なんだから!」というパンチラインで笑わせるシーンは、絶望的なシーンで、1番の笑いどころがくるというコントラストが効いていてとても良い。

さらに、父が川で流されたあと、息子が川岸で父のカツラを見つけ、それを見て家族3人で悲しみ泣くシーンも、最も悲劇的なシーンで最も間抜けな映像で笑わせていて、素晴らしい。

文脈のアリナシで全く違った意味を帯びてくるシーンをコメディに仕立てている。ストーリーで笑わせる(泣かせる)面白さをしっかり作っているのは本当に良い。

父のカツラは、このシーンだけに取ってつけたように登場するのではなく、序盤からその存在が丁寧に描かれ、ラストでは「不要なもの」として捨てられることで、成長前の父の象徴的な役割も果たしている。

この映画においては、カツラは父の虚栄心や軽薄さの象徴として、意味を背負わされている。それを上手くコメディとして使っている点は凄い。

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