映画

A GHOST STORY ア・ゴースト・ストーリー -恋人を失い、土地も失った地縛霊-

概要

郊外の家で暮らすCとMの夫妻。家では時々不審な音がなり、妻のMは家に対してネガティブな感情を抱いていたが、Cはこの家を気に入っていた。

ある日、夫Cは不慮の交通事故で死んでしまう。しかし、彼は幽霊となって自宅へ戻り、嘆き悲しむMを眺め始める。

時と共にMはだんだんと立ち直り、ついに引っ越しを決める。引っ越す前、Mは割れた壁の隙間にあるメモを挟み、上からペンキを塗って隠す。取り残されたCはどうにかペンキを剥がしてメモを取り出そうとするがなかなかうまくいかない。

さらに時は流れ、その家にはある母子が引っ越してきたり、さらに時間が経って取り壊されてしまうが、Cは行き場所もなく、幽霊のままその場に立ちすくむ。

レビューの印象

高評価

  • 表情が見えないがただ歩き回っている幽霊に感情移入させるストーリーが斬新
  • 存在することの切なさについて、いろいろ考えさせられる。退屈な部分もあるが、引き込まれる部分も多い
  • 静かな演出・カメラワークが良い

低評価

  • 派手さもなく、明快さもなく、解釈も委ねられる映画で娯楽性が低い
  • 冗長に感じるシーンが多い
  • 幽霊の表現の違和感がぬぐえない

ナニミルレビュー

正直、退屈さがないとは言えない。

特に何も起きていないのに、シーンだけは長く続いていたりする、何か起きるシーンも、余計に時間を取るような演出なので(例えば死んだCがシーツで起き上がるシーンとか)、単に情報に対してシーンの時間が長すぎる。

ゆえに退屈に感じてしまう場面がある、というのは素直な感想としてはある。

ただ、映画全体として退屈だったかといえばそんなことは全くなく、非常に面白い映画だと思った。

特に終盤にかけてはどんどん展開が早まっていき、ちゃんとクライマックスでは盛り上がっていくし、ところどころビックリさせる演出もあり、変な構成のアートっぽい映画のようで、実はエンタメ感がちゃんとある。

さらに、ラストはちゃんとカタルシスがあって(解釈によってはスッキリできない人もいるだろうが)、わりと気持ちよく観終われる。映画の変さに比べると、「おお、面白い映画だった」という、わりと普通の感覚を持つことになった。

内容を簡単に要約してしまえば、地縛霊になってしまったCを通して、「なぜ人間は生きてるんだろう」という、誰もが一度は思い悩んだことがある考えを、観客に注視させる物語だった。

もちろん、妻Mに対する一途さや、取り残される切なさも描かれているのだが、それは導入であって、この映画はむしろその先を描いている。

思うべき相手もいなくなり、思い出の場所もなくなり、自分が属していた時代も移り変わりる。

そういう、「自分という存在を定義していたさまざまなもの」が流れ去っていき、単に「個」になってしまった存在としての「私」の寄る辺なさを、時空を超えて存在するゴーストになったCを通して描いている。

ややこしい話に聞こえるが、別にややこしくはない。

自分が死んで数百年もすれば、自分が生きていたことなんて誰も覚えていないだろう。いや、もっと時間が経てば地球もなくなるだろう。いつかは宇宙もなくなり、自分と関係があるものは全て消滅するだろう。いつかは全てが無に帰すことは確実で、だったらなぜ今自分は生きているのだろう。

そういう素朴な虚無感の話である。

これは、映画が始まって1時間ぐらいのシーンで、ある男が長々と説教をするシーンで語られることなので、この映画は単にそういう映画なのだ。

いつかは無くなるこの世界に自分は存在している、という普遍的な虚無感を、ゴーストになった主人公Cの苦悩を通してストーリーに仕立ててある。

結末から言えば、そのことについては諦めるしかない、という結論が描かれているように思う。

といっても、どう諦めるのかの答えは描かれない。CはMの手紙を見て消滅するが、手紙の内容は描かれない。

自分の人生をどのように諦めるのかに、誰にでも当てはまる答えなんてないのだから、「描かない」以外の描きようがなかったのではないかと思う。

そして、それは怠慢なのではなく、「人間は答えがないことを考えて苦しんでしまうよね」という映画なのだから、最後に答えを見せられないのはしょうがなく、むしろその過程を共感可能な形でちゃんと描いているんだから、それでいいのだと思う。

Cの隣人のゴーストは、家が取り壊されたところで「もう戻ってこないみたい」といって世界から消える。期待していた何かを諦めることで、ようやく消滅できる。

C自身は、ラストでMからのメッセージを見ることで消滅する。長い年月をかけて、ようやく執着を脱するストーリーだ。

Cは次の周回の世界に入っているから、世界が終わって、また始まって、そしてちょうど自分が生きたところまでの長い時間をゴーストとして過ごしたはずだ。

その途方もない長い時間の中で、CとMが過ごした時間は一瞬のことに過ぎない。

そして、この一瞬の中でMが描いたメッセージが、Cにとっては決定的に重要だった。

その一瞬は、途方もない時間の中で、他とは比べられない重要な意味がある一瞬だったのだろうと想像できる。

この映画は悲観的な内容に見ることもできるが、逆に「そんな一瞬が、それ以外のどんな時間よりもかけがえない」という形で、人生の時間をロマンチックに肯定していると見ることもできる。

そう考えてみれば、序盤から中盤にかけて、やたらと長く退屈なシーンがあることも、実は逆に、その「かけがえなさ」を描いているのだ、と受け止められる。

例えば、傷心のMがパイをヤケ食いするシーンがある。ここは異様に長い。この映画のテンポ感に慣れてきていてもなお、このシーンは異常に長く、言ってしまえば退屈だ。

しかし、ストーリーが進み、Cが世界に取り残されたあとに、あのシーンを思い出すと、あの退屈だった時間の意味が変わってくる。

あの時には、自分の死をあそこまで嘆き悲しんでくれる人がいた。自分と世界の間には濃密な関係があった。その濃密さがあの時間の長さに現れていた、という風にも見られる。

逆に終盤に近くなると、時間が一気に飛ぶシーンが続く。家が取り壊され、急速に開発されてビルが建ち、気が付くと開拓時代にいる(恐らく次の周回の世界)。

そこでは、Mのヤケ食いのシーンと対比されるように、死んでしまった少女が一瞬のうちに腐って土に還っていく。

そこには自分に関係あるものが何もなく、時間がスカスカになっている。

この広大な時間の中で、自分にとって重要なのは、この自分が生きる時間だ。

この物理的に見れば一瞬に過ぎない数十年という時間は、それが自分の人生なのだという事実によって、何兆年よりも濃密な時間になっている。

そういう意味では、自分の人生の価値やそのはかなさを、宇宙規模の時間軸で議論してもしょうがないのではないか。

などと考えを進めるかどうかは観客それぞれの勝手なのだけど、しかし、そういうことを考えさせる映画になっている、と言っても間違いではないはずだ。

この映画は、退屈さはあるが、難解な映画ではない。

みんなが思春期の頃に考えて、考えてもしょうがないか、と捨て置いたあのアイデアを、わりとストレートに、ストーリーに仕立てた、間口の広い映画なのだ。

もう一点、ストーリー自体というより、ストーリーの作り方として面白いと思ったのは、主人公の能動性の低さと目的のなさだ。

普通、物語の主人公は、能動的に動くのが基本。最初は消極的だったとしても、少なくともクライマックスでは能動的に動いて成長するものだ。そして、ストーリーにはなにがしか達成されるべき目的がある。

しかし、この映画では、主人公は世界と関わることができないゴーストなので、能動的になりようがないし、さらに主人公が死んでいるので、本質的には目的もない。

この映画の最も変なところは、ゴーストのデザインでも、やたら長ったらしいシーン回しでもなく、この「主人公の能動性の低さと目的の欠如」がベースになっているにもかかわらず、それなりにエンタメっぽいストーリーになっていることだと思う。

主人公は基本的にただ傍観しているだけ。だから、観客も一緒に傍観するしかない。

にもかかわらず映画として、ドラマを追って、感情移入できるのが凄い。

主人公の死後、Mが嘆き悲しみ、立ち直り、Cの心から去っていく姿と、何もできないCの苦しさや歯がゆさ。そしてそこから解放されるカタルシス。

そのストーリーを追えるから退屈な映画になっていない。

ゴーストになったあと、CがMと取るコミュニケーションは、本の中のテキストを通して訴えかける場面くらいだ。あとは曲を聴かせる回想シーンが差しはさまれるという構成上の工夫がある。

とはいえ、客観的にはCとMの間には何も起きていないに等しい。なのに、ちゃんと2人のドラマが巻き起こっている。

Mがいる間は、Mの生活の変化や立ち直りを描き、Mが退場した後は、壁の中に隠されたMからの手紙をCがどう読むのか、という引きでストーリーを繋いでいく。

ただそれだけのことなのに、ちゃんと面白く演出し、終盤にかけてドライブをかけ、ループするという意外性(さらなる考えたくなる要素)もあり、ちゃんとラストはカタルシスがある。

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