映画

ザ・ギフト -隠された過去、虐げられた者の復讐、悪い奴vs悪い奴-

概要

妻ロビンと共に故郷近くに引っ越してきたサイモンは、そこで高校時代の同級生ゴードと再会する。

ゴードは世話好きな良い人だが、人との距離感にやや難がある人物。ロビンはゴードに理解を示し良い隣人だと思うが、サイモンはゴードを厄介者だと感じる。

サイモンはある日、ロビンの制止も聞かず、「もう自分たちに関わらないように」とゴードに宣告する。その日を境に、サイモンとロビンの家では不審な出来事が頻発。

!!これより下はネタバレの可能性があります!!

ゴードから送られた手紙にはサイモンの過去の罪を仄めかすような内容があり、ロビンはサイモンを問い詰めるが彼は何も打ち明けず、一時は夫婦仲も悪くなる。しかしなんとか持ち直し、ロビンが妊娠。しばらく平和な日々が続く。

サイモンの過去が気になっていたロビンは、ベイビーシャワーの際、サイモンの兄弟に過去を訪ね、そこからサイモンの過去に迫っていく。自分の知らない夫の一面をしり、ゴードの意図も理解できたロビンは、サイモンにゴードと関係改善を求めるが、自己中心的なサイモンは結局ゴードとの関係を悪化させてしまう。

サイモンはロビンにも上司にも嘘をつき、全ての出来事を上手くやり切ろうとするが、だんだんとボロが出始める。そこに、ゴードからのさらなる仕打ちが明かされる。

静かなスリラーで、極端な残酷さやエグい描写はないものの、比較的リアルさのある人間関係の厄介さを描きつつ、虐げられた側のやや異常な(フィクショナルな)復讐を描いている。

レビューの印象

高評価

  • 考えが読めない人物によって先が気になるストーリー
  • 胸糞ながら、因果応報で悪い奴が報いを受けるカタルシス
  • キャラクターの性格的問題の描写に説得力がある

低評価

  • 主要人物に大きな欠点があり感情移入が難しい
  • 復讐にしては手ぬるい
  • 胸糞悪い/復讐に巻き込まれる妻が気の毒

ナニミルレビュー

ミステリーらしい不穏な空気の演出がよく、ストーリーが進むに従って、キャラクター(サイモンとゴード)の第一印象が変化していくのが面白い。

「ゴードの真意」を全体を貫く謎にしつつ、途中から「サイモンの過去」をかぶせ、観客の好奇心がダレるのを防いでいる。

そのようなミステリーをしっかりやりつつ、妻ロビンの視線から「よく知っている人物が、実は全然知らない側面を持っていたら・・・」という、現実的にあり得る葛藤を描いていて、そのドラマも面白い。

ストーリーがやや退屈に(というか弱く)感じるとすれば、メインキャラクターが明確でないというか、3人(ゴード、サイモン、ロビン)の誰についての映画なのかが曖昧だからではないかと思った。

ロビンの葛藤も描くし、ゴードの恨みも描くし、サイモンの苦悩も描いている。

ロビンは善人だとしても、ゴードとサイモンは両方とも、共感できる部分も反感を持つ部分もある、という割り切れないキャラクターで、かつどちらも悪役。

エンディングもややぼかした終わり方なので、そこでモヤっとする人もいるかもしれない。

ただ、この監督の次回作『ある少年の告白』もそうだが、あえて良い者/悪者(敵/味方)を明確に分けずに、その曖昧さの中で決定的な出来事が起きて人生が変化する、というタイプの描き方を好む人なのかな、と思う。

今作はどっちも比較的悪よりで、次回作はどっちも比較的善人を描いている。

個人的にこの「曖昧さ」は、ドラマをより深めるものとして良いと思っているし、ミステリーである本作では、曖昧さと謎が相まって、ラストまで興味を惹かれたのでとても良かった。

2人の悪事が積み重なり、変化していく人間関係

ちょっとギクシャクしているが、表面的には何も問題ないかに見えた人間関係が、どんどん悪辣な方へと進行していくさまが、この映画の面白さだと思う。

端的にいえばこの映画のストーリーはこのように進む。

・ぎこちないが平和な人間関係(0分から)
・ゴードが加害者、サイモンが被害者(40分くらいから)
・ゴードが被害者、サイモンが加害者(60分くらいから)
・ゴードが加害者、サイモンが被害者(90分くらいから)

被害者と加害者の立場を入れ替えながら、明らかになる悪事の中身がどんどんエスカレートしていく。

立場の曖昧さによって不穏さやミステリーを引きながら、ストレートに増していく悪辣さによってグッと興味を惹かれ続ける。

「無害だが厄介な存在」である古い知人。

この面倒くささに共感できる人は多いのではないかと思う。その意味で、映画冒頭ではサイモンの感覚に少し共感してしまう。

ゴードのやや挙動不審な感じとか、やたら家に訪ねてくる行動。行き過ぎた親切の不気味さ。

この映画はもともと「Weirdo」というタイトルで制作されていたそうだ。「ブキミなゴード」は英語では「Weirdo Gordo(ウィアード・ゴード)」という韻を踏んだ意地悪なあだ名である。それにうっかり納得してしまうようなゴード役:ジョエル・エドガートンの演技は素晴らしいと思う。

視線の弱さとか、表情の乏しさ、あとピアスしてるとか。なんかこう、別に変人というわけではないんだけど、ちょっと普通ではないかも、と思わせる。微妙なニュアンスがよく出ていると思った。

いわゆる「ありがた迷惑」を体現するような、とはいえ、これを「迷惑」だと言ってしまうと、むしろこちらが悪者になってしまうような、そういう厄介さを、序盤のゴードは体現している。

この「親切/迷惑」という対立を「ロビン/サイモン」のゴードに対する立場の対立で描いている。

映画を素直に観ていると、ゴードというキャラクターは、サイモンが言うように「不気味で厄介な存在」にも見えるし、ロビンが言うように「不器用だけど親切な人」にも見える。

表層的には大人な人間関係、まあまあ有り得る普通の隣人関係を描きつつ、裏ではゴードに対するこの対立が描かれる。

ストーリーが進むに従って、この対立が表面化し、表層的な人間関係が壊れていく。それと共に、サイモンの本性が露呈し、さらにゴードンというキャラクターの本性がラストで明かされる。

ゴードに対する認識は、ストーリーの中で揺れ動く。

上に書いたように、序盤は中立的な認識だが、サイモンが決別宣言をした後、ゴードは他人の家を勝手に使っていたことが分かる。

ここでは「やはりおかしな人だった」というサイモン側の感覚に比重が移る。

その後、誘拐されたと思われていた犬が帰ってきて、さらにゴードから謝罪の手紙が届く。ここで、少しゴードに対する反感が弱まる。

と同時に、手紙の中にサイモンの過去を仄めかす内容があることによって、ゴードの行動の裏には何かの理由があるのではないかと思わされる。

ゴードの行動が異常に見えるのは、サイモンが過去を隠しているからであって、であれば「問題なのはサイモンの方なのではないか」という風に印象が変わっていく。

実際、ロビンはそのように感じて行動するのだし、観客もそう感じるように誘導されているはずだ。

これが映画中盤。

その後しばらくゴードは登場せず、むしろサイモンに疑いの目が移っていく。

とはいえ、一旦この不審は棚上げにされ、夫妻は「表層的」な生活に一度戻る。ロビンは妊娠し、幸せな時間が流れる。

ベイビーシャワーの際、ロビンはサイモンの姉からゴードとサイモンの過去を聞く。

その後、サイモンの部屋の引き出しの中からは「身元調査資料」という、一般人が持っているにはちょっと異常な書類が出てくる。

これらの情報により、ゴードはむしろ弱い立場の被害者であり、「問題はサイモンの方ではないか」という印象を強める。

さらにロビンにゴードと和解していくるよう言われたサイモンが、謝罪を受け入れないゴードに暴力を振るうことで、決定的にサイモンを擁護できなくなる。

最初、表面的には平らな関係を築いていたサイモンとゴード。

ゴードの異常さが分かった時点では、ゴードが加害者でサイモンが被害者だった。しかし、サイモンが暴力を振るった時点では、ゴードが被害者でサイモンが加害者である。

ゴードはちょっとおかしな人ではあったけれども、悪人というわけではなく、むしろサイモンの方がよっぽど悪人だな、という印象に変わっている。

そしてこの映画は、クライマックスでさらにもう一捻り加える。

サイモンの悪事が次々と明るみになり、キャリアに暗雲が立ち込め、さらにロビンからは別れを告げられる。

自業自得とはいえ、ややサイモンが不憫に見える。

そこでさらに、ゴードから新たな荷物が届く。

そこで、一旦は被害者かと思われたゴードの悪事が次々と明らかになる。

一方でサイモンは、ロビンに被害が及んだのではないかと心配し、妻と子を不安そうに眺めるサイモンの表情が映される。その後、サイモンは病院の廊下に座り込む。

ラストでサイモンの人間的な弱さを描くことで、粗暴で自己中心的なサイモンを、単なる悪役で終わらせず、同時に、サイモンに人生を狂わされたゴードも、単なる弱者では終わらせない。

だから結局、最後にどちらに肩入れして映画を観終わっていいのか分からない。

というか、どちらにも肩入れできない。しかし、どちらの苦しみもそれなりに理解できる、という居心地の悪さと共に映画が終わる。

映画冒頭では、表層的に取り繕われるご近所付き合いの居心地の悪さが描かれていた。

ラストでは、全てをさらけ出した2人の「悪人」に対するスタンスの曖昧さによって、この映画は観客に、居心地の悪さを観客は突きつける。

序盤もラストも、なんかモヤモヤとした居心地の悪さを描いているのだが、その内実が全然違う。

この変化が、この映画の面白さの核だと感じた。

どこまでが計算か分からない不穏さ

この映画は「分からなさ」を延々と描いているから、ミステリーの面白さが味わえる。

と言っても、探偵ミステリーのように、出来事の謎が面白いというわけではない。

というか大体のことは謎ではない。誰がやったのかも、どうやったのかも大体想像できる。

サイモンの過去はロビンによって捜査され暴かれるが、それは映画の一部に過ぎない。

キャラクター間のやりとりも、しっかり観客に示されていて、「裏で何かが起きているのか?」というのでもない。

では何が分からないかといえば、「真意」が分からない。

なぜゴードはギフトをくれるのか、やたらロビンを訪ねてくるのか、夫妻を家に招いたのか。何か意図があるのか、単に不器用なのか。

この映画を面白くしているのは、サイモンが悪いやつであるからだ。

サイモンの「ゴードに対する態度の悪さ」という要素があることで、ゴードが一貫して悪意を持っていたのか、サイモンの態度に怒り悪意を持ち始めたのかが分からない。

ゴードが明確におかしな人だと感じられるのは、サイモンがゴードに決別宣言をした後だ。

であれば、ゴードはこのサイモンのひどい態度への報復として、さまざまな悪事を働いたのだろう、と思える。

だが、サイモンの過去が明らかになると、ゴードはもうずっと以前からサイモンを恨んでいたのだろう、とも思える。

しかし、手紙に書いてあったように、ゴードはすでにサイモンを許していたが、ぞんざいに扱われてキレたのかもしれないとも思えるし、許したというのは嘘であって、最初から全て計画済みだったのかもしれないとも思える。

サイモンが善人であれば、ゴードは単に悪人だったということになる。しかしサイモンが悪人であることで、ゴードはその場限りの報復しているだけなのかもしれないとも思える。

映画を最後まで見れば、ゴードは最初から悪意を持っていたとわかる。

その上で映画を見返すと、ゴードは明らかに復讐を企んでいたのだと分かる描写がある。

ゴードが初めて家を訪ねてくるシーン。

ロビンが家の中を案内する中、ゴードは子供用のおもちゃを物色し「子供いるの?」と聞いている。(後日、テレビ設置を手伝うシーンでも子供の話をしている。)

ラストを知っていれば、ゴードはここで復讐方法を思いついたように見える。

さらに、その後3人での夕食時、ゴードはサイモンに、「グレッグに会ったか?」と聞いている。グレッグはサイモンと共にゴードを陥れた高校の同級生である。サイモンはこの話が出ると席を立っている。

また、不自然に「政府が個人宅を盗聴していた」という話題を始め、「目には目をだ」と口走っている。

ゴードは高校時代、サイモンの嘘のせいで性的な偏見で苦しんでいる。ゴードの復讐も性的な行為を仄めかすものだった。

分かってから見ればそうとしか見えないけれど、初見では分からない。

そういう「分からなさ」の面白さをしっかり持った映画だ。

「過去」という厄介さ

この映画の中で、現実的な怖さが2つある。

1つは身近な人の知らない側面を発見してしまうこと(ロビン)。
もう1つは終わったはずの過去の出来事に向き合わされること(サイモン)。

この映画では、不穏なことはたしかに怒るが、命に関わるような危機感というのはあまりない。

にも関わらず、何がこんなにスリリングなのかといえば、目の前の現実がひっくり返されるかもしれない、という恐怖感がずっとあるからではないか。

映画内で起きる出来事は、それほど現実的には感じない。だが、「過去の過ちが舞い戻ってくる」というような恐怖感自体は、わりと現実的である。

サイモンの行いは非難されるべきことだとしても、誰だって過去の過ちがある。それに踏ん切りをつけながら、人間は生きている。

その終わったはずの過去が急に舞い戻ってくるのは、誰だって怖いのではないか。

サイモンに同調する気はないけれど、彼がゴードを遠ざけたいと思う気持ちは理解できる。

また、目の前にいる人間が過去にどういう人生を歩んでいたのかなんて、普通は分からない。夫だとしても、細かくは知らないのはそれほど変ではない。

よく考えれば、ほとんどの人間関係において、相手のことを十分知っているなんていうことはない。

でもそれで大きな問題になることも、ほとんどない。

ゴードという存在は、人生における「起きて欲しくないし、実際ほとんど起きないこと」の象徴である。

でも、そういうことは起きえる。この「起きえるよなぁ」という感覚が、この映画から感じられるスリリングさだった。

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