概要
FBI捜査官のケイトは、上司の推薦を受けて国防総省で働くマットの特別部隊に参加し、メキシコの麻薬カルテルを追う捜査に参加する。巨悪の根源を叩ける仕事に熱意を燃やすケイトだったが、マットはケイトを相手にせず、ケイトは疎外感を感じる。非合法で強引な捜査に憤るケイトを尻目に、マットはどんどん麻薬カルテルの親玉に迫っていく。
レビューの印象
高評価
- 単純な勧善懲悪ではないストーリーと、そんな世界の不穏さが、緊張感を持って描かれている
- メキシコのある地域の治安の悪さ、そのヤバさを感じられる
- 影の主役アレハンドロがカッコいい
- 主人公であるはずのケイトの、正義感だけではどうにもできない無力感がよく伝わってきた
低評価
- 右往左往するだけのケイトに魅力を感じない。感情移入できない
- 麻薬カルテルの事情や、アメリカにおける捜査事情など、ある程度前提が分かっていないとついていくのが難しい
- ラストのアレハンドロの強さにリアリティがなく、それまでのシリアスさと乖離している
- 爽快なアクションサスペンス映画を期待していたら裏切られた
ナニミルレビュー
オススメ度:B
こんな気分の時オススメ:渋いおじさんの容赦ない戦いが観たい時。麻薬戦争の強さを味わいたい時。危険地帯の緊張感を味わいたい時。
全体的なレビュー
ケイトの混乱こそが描かれるストーリーなので仕方ないのだけど、やっぱり序盤はもどかしさやモタモタした印象を受けた。
しかしストーリーを追っていけばこの映画のコンセプトが理解できるので、そういう一見ネガティブな感覚や退屈さも、見終わる頃には「なるほど」と納得できる。
つまり「無力感を描きたかったのか」と。そして、その狙いは成功している。
序盤はストーリーに乗りにくいといっても、メキシコ国境を越えて捜査をするシーンの緊張感が凄まじいので、十分引き込まれる。
車列を組んで道路を走るシーンの「止まったら死ぬ」感が凄かったし、そこから渋滞に巻き込まれた際の静かで手際の良すぎる戦闘も素晴らしかった。ドンパチではなく、無駄のない無慈悲な戦闘。そのシーンだけで、ケイトが参加したチームのただ事じゃない感が十分に表現できていた。
特にアレハンドロの魅力は大きなポイントになっている。無表情で渋いおじさんだが、時々見せる暖かさ、スーツを丁寧にたたむなど、ジェントルマンな雰囲気が漂う。単に粗暴な男じゃないからこそ、捜査中に見せる無慈悲な行動から強い信念が浮かび上がる、という構造になっている。
そして、チームのしていることが分かってくると、観客はケイトと共にこの超法規的な作戦に違和感を感じつつも、確かに相手の強大さ・凶悪さを考えるとそれも仕方ないのか、とも考えさせられる。無法者と戦うことの難しさを痛感させられる。
さらに捜査終了後のラストシーン。それまで一応はチームの一員として活動してきたケイトは、自分もまた法律に守られない存在なのだと思い知らされる。
この映画では、ケイトの立場の変化が丁寧に描かれている。正義の捜査官から、形ばかりで無力なチームの一員、そして最後には自分もまた路上で殺されるマフィアの下っ端と同じ程度の存在でしかないと分かる。
法の執行者の一人から、法の届かない世界へ。麻薬カルテルとの戦いを軸にして、この落差が上手く描かれた作品になっている。
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