概要
結婚願望はないが子供が欲しいマギー。彼女は旧知の男性から精子を提供してもらい妊娠しようと考えていた。
ある日、書類の手違いから同じ大学で働いているジョンに出会う。ジョンは妻ジョーゼットと上手くいっておらず、2人は不倫関係になったのち、ジョンは離婚してマギーと結婚。子供も生まれ3年の時が流れる。
マギーは、自分に育児や家事の大部分を任せ、小説の執筆に明け暮れるジョンに嫌気がさし始める。ジョンは、未だにジョーゼットと親密に連絡を取り合っており、マギーは、ジョンとジョーゼットを復縁させようと思いつく。
レビューの印象
高評価
- ダメダメなのになぜか憎めない主人公に魅力があり、悪役がいないストーリーなので気持ちよく観られる
- 不倫という題材を描きながら、ドロドロさせずコミカルに描いている。また夫の不倫を促すというマギーの発想も面白い
- ファッションや小物など、見ていて楽しいヴィジュアル
低評価
- 主人公含めメインキャラクターが幼稚でストーリーに乗れない。透けて見える「純粋であれば許される」という価値観が嫌
- 子供の方が大人を冷静に見ているところにリアリティがない
- 迷惑を被っている人の気持ちを想像してしまうと、主要キャラクターたちに好感を持てない
ナニミルレビュー
ポジティブ
夫を元妻と復縁させようとする妻、という奇抜なアイデアがまず面白い。
さらに、主人公マギーのどこか能天気で実直なキャラクターのおかげで、かなり身勝手なマギーの行動にも関わらず、映画全体に軽快でコミカルなトーンが流れている。
どのキャラクターも完璧とは言い難いが、憎めないキャラクターたちばかりの映画で、いやぁな悪役もいない。起きていることのドロドロぶりとは裏腹に、わりとハッピーな雰囲気に仕上がっている。
雪や、シャボン玉など、比喩的なモチーフが多用されていたり、おしゃれで可愛らしいアイテムが配置されていて、映像的にも見ていて楽しい。
ネガティブ
この事件の最大の被害者である子供たちの視点があまり描かれていないので、そこに不誠実さを感じる。
一応、終盤で、ジョンとジョーゼットの長女が「もうちょっと考えて行動しなよ」と怒るシーンがあって、そこで子供の苦労が描かれてはいるが、起こっていることの重大さに対しては、十分な描写の量とは感じない。
ただ、映画をこの軽快でコミカルなトーンに仕上げることを優先して、あえてそこは最小限に抑えているのだろうと思う。実際、子供の心境を描いていたら、この不思議な空気感に仕上がっていなかっただろう。
「親としてどうなんだ」という視点を置いておいて、もっと軽快に人生歩んでもいいんじゃないか、という前向きさを前面に押し出している。その重心の置き方をどう取るかで見方が変わるのではないか。
善人の陰謀
不倫によってジョンをジョーゼットから奪ったマギー。
その後ジョンに嫌気がさし、ジョンをジョーゼットと復縁させようとする、というマギーの計画は、見方によっては(というか、普通に見れば)かなり身勝手な計画だ。
実際、最初にこの計画をジョーゼットに話しに行ったマギーは「不倫した挙句、ジョンに飽きて、罪悪感を避けるため復縁させようとしてる」とジョーゼットに怒られる。
これが普通の反応である。
しかし、それでもマギーが悪人に見えないのがこの映画の不思議なところであり、この映画全体の軽妙な雰囲気を作っている。
マギーは、この計画のことに関しては、確かにやや勝手である。しかし、マギーは基本的には、家事や子育ての苦労を引き受け、自分の役割を誠実に果たしている。
一方で、ジョンやジョーゼットは、そもそもが身勝手な性格である。マギーがジョンに嫌気がさしたのは、彼の身勝手な振る舞いのせいである。
この3人のバランスが、マギーを共感できるキャラクターにし、さらに、マギーとジョン、ジョーゼットのケンカや協力関係を面白くしている。
マギーが唯一身勝手なのは、この三角関係を都合よく終わらせようとした一点だけだ。そしてその計画も、マギーにとってはそれが全員にとって最善だと思えるものであり、完全に自分勝手な計画というわけでもない。
マギーはジョンに対して「どうして誰も私のことを慰めてくれないの」と言うと、ジョンは「君には必要ない。パニクらないから」と答える。
マギーは、しっかりした女性だからこそ、周りから頼られ、身勝手なジョンに好かれてしまった。
このマギーの苦境は誰にでも理解できるものだ。
頑張れる人間であるがゆえに、頑張っても評価されない。一方でしっかりしていない人(ジョーゼット)はジョンに構われ、優しく慰めてもらえる。
このマギーの苦境を見ていれば、マギーのたった1つのわがままは、十分共感できるものとして、多くの人には受け入れられる。
そもそも、シングルマザーになろうと決め、精子をもらう相手も自分で決め、さらに施設などに頼るのではなく、自分のバスルームで妊娠を試みているマギーは、やはり賢く強い女性だ。
このストーリーは、そのマギーが、強さゆえに苦しみ、賢さゆえに自分の考えを理解してもらえない、と言う状況をコメディとして描いたストーリーだ。
できる人間がゆえにダメなことをやってしまう、という逆転が、憎めないマギーのキャラクターを形作っている。
ままならない人生
この映画のタイトルに「プラン」とついているのは、プラン通りにいかないマギーの行動に対する皮肉である。
(でも最後まで行くと、結果オーライで計画通りに言っているというストーリー的な楽しさもある。)
この映画の大きなメッセージは、「人生は計画通りにいかない」ということだ。
マギーは、ガイになぜ数学者を諦めたのかと聞く。ガイは「数学は美しいが、全体が見えず、欲求不満に陥った」と話す。
数学は論理を意味していて、マギーの計画を象徴している。
数学の中で欲求不満に陥ったガイの状況は、計画通りにいかず、グダグダになっていくマギーの状況にリンクしている。
マギーはまず1人で妊娠しようと計画する。しかしそれはジョンとの出会いによって中断され、マギーはそのままジョンと結ばれる。
そして今度はジョンとジョーゼットを復縁させて、ジョンとうまく別れようとするが、これもジョンに計画がバレて失敗する。
マギーの計画は両方とも失敗する。
しかし、この2つの失敗の中でマギーはジョーゼットとの奇妙な絆を手に入れたり、結局、最終的にはマギーの計画とは違う形で、マギーの思惑は達成されたりする。
さらに、振り返ってみてみれば、最初の妊娠計画は失敗していたんだろうか・・・、というエンディングになっている。
マギーの計画は失敗に終わってしまうが、マギーは計画していなかった多くの果実を手に入れている。
マギーが、ジョンとジョーゼットの復縁計画を親友のトニーに話すと、トニーは「愛は非論理的で、無駄が多くて、とっちらかってるものだ」と言って怒る。
全てを丸く収め、ジョンやジョーゼットの気持ちを計画的・効率的に処理しようとしたマギーに対して、トニーは「いい子ぶるな」と怒りつつ、泣き出したマギーをトニーは優しく慰める。
そして、怒ったジョンがいなくなり、思いつめたマギーを、「諦めなさい、なるようにしかならないわ」とジョーゼットが慰める。
マギーは、計画が失敗したことで、「他者からの慰め」というずっと手に入れられなかったものを手に入れる。
そして、その中で語られることは「諦めて、受け入れる」ということ、「うまくやろうとせず、素直にやる」ということだ。
そうして身を任せているうちに、結局、全ては丸く収まる。いや、収まっていないこともあるかもしれないが、それも含めて、もう成り行きに任せるしかない、と思えているマギーは救われている。
人生は計画通りにはいかない。でも、それは必ずしも悪いことじゃない。そういう前向きさが、この映画には描かれている。
憎めないキャラクターたち
マギーが憎めないキャラクターなのと同時に、ジョンやジョーゼットも嫌なキャラクターではない。
確かに、2人はマギーを悩ませる存在だが、しかし悪人ではない。
ジョーゼットは自分のキャリアのことばかり考えて、家庭やジョンに十分な関心を払わず、それがジョンが彼女に愛想を尽かした原因になっている。
この身勝手な部分にだけ注目すると、確かにあまりいいキャラクターとは言えない。
しかし、人間は変わる。
ジョーゼットは、離婚をきっかけに、結婚していた頃の自分の態度を反省している。
そして、復縁計画を相談しにきたマギーを最初は怒って追い返すものの、時間が経つ中で彼女とよく知り合い、最後は精神的に追い詰められるマギーを慰めてくれる。
またジョンも、しっかり者のマギーと結婚したことで、ジョーゼットの二の舞になってしまう。
しかし、ジョンが必死に小説を書いていたのは、マギーに期待されていると感じていたからだったと分かる。
マギーの親友トニーも、皮肉っぽく、マギーに厳しいことを言うが、誠実なキャラクターだし、マギーが精子提供を受けるガイも、押しが強いのか弱いのかよく分からない不思議な雰囲気の良いキャラクター。
主要キャラクターも、脇役も、全体的にキャラが立っていて、かつ全体的にとても優しい雰囲気に満ちている。
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