映画

キャロル -年の離れた恋愛と、優柔不断な若い女性の成長-

概要

舞台は1950年代のある冬。夫と離婚協議中のキャロルは、娘へのクリスマスプレゼントを買いに入った店で、店員であるテレーズに出会う。キャロルがレジに手袋を忘れ、それをテレーズが郵便で送ったことから、2人の交流が始まる。

心惹かれ合っていく2人だったが、キャロルの夫は離婚を望んでおらず、さらに娘の親権を盾にキャロルに離婚を思いとどまらせようと抵抗する。

離婚闘争から逃れ、キャロルとテレーズは2人の逃避行に出かけ、楽しい時間を過ごすが、一枚の電信から2人の幸せな時間は終わりを迎える。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • 同性愛でありながら、それを特殊に感じさせない王道のロマンスを描いている
  • 映像が美しく、登場人物の心の機微を視線や仕草で描く演出も見事
  • 愛するとはこういうことか、と思わされる説得力がある

低評価

  • 王道すぎてやや物足りない。同性愛というモチーフが際立っていない
  • 年上のキャロルが若いテレーズを体よく利用しているように感じる
  • ストーリーが単調

ナニミルレビュー

オススメ度:A

こんな気分の時オススメ:重厚感のあるロマンス映画が観たい。歳の差カップルが観たい時。若い女性が成長する姿を描くストーリーが観たい時。儚く美しい雰囲気に浸りたい時。

良い点!

映像や音楽、何より主演2人のルックスが素晴らしい。凄く重厚で、映像で物語る映画を観たぞ、という気持ちにさせてくれる。

そして、同性愛の映画で、かつ今より社会的な理解が乏しかっただろう1950年台を舞台にしているわりに、社会的な側面があまり描かれていないのが、逆に良かったと感じた。

あくまで、年の離れた女性の2人の恋愛として、変に社会的な視点を入れることなく、パーソナルなタッチで描いている。ノイズが少なく、ラブストーリーとしてスッキリみることができた。

と同時に、女性同士ならではのイチャつきも表現されていて、かつ、年の差カップルならではの師弟関係的なロマンスも堪能できる。

イマイチな点・・・

障害物が多いものの、ロマンスとしては一本道のストーリーなので、もったいつけた退屈なストーリーだと感じる人もいるかもしれない。

ただ、このもったいつけた部分こそ、演出や音楽や映像美が相まって、映像によるストーリーテリングを味わっている、と感じられる部分だと個人的には思う。

あと、キャロルの不倫やテレーズの浮気に関して、道徳的にどうかという視点で見てしまうと、2人の恋愛に乗り切れないかもしれない。しかし、そこを気にする映画ではないと思うが。

正統派ロマンス

この映画で描かれるロマンスは2つ特徴がある。ひとつは同性愛であること。もうひとつは年が離れた2人の話であること。

年上であるキャロルは、既婚者だが、すでに女性との恋愛経験もあり、社会的地位もあり、風格のある大人の女性。一方、年下のテレーズは、まだ自分にその気があるかも認識しておらず、優柔不断な若者。

 

2人の関係はキャロルが忘れていった手袋から始まるが、恐らくこれはキャロルの策略だっただろう。

テレーズの視線で彼女にその気があることを察したキャロルは、彼女に話しかけ、住所を書き残し、手袋をわざと忘れ、テレーズが針にかかるのを待っていた。

包みをポストに投函する前、テレーズが少し悩んでいる描写があるが、これは多分、直接渡しに行くか、郵送するかで悩んでいるんだと思われる。

結局テレーズは郵送を選ぶ。ここに、押しが強く策略家のキャロルと、控えめで優柔不断なテレーズの最初の関係性が描かれる。

そう考えると、初めてのランチの際、「手袋を送ったのは男性店員だと思った」というキャロルの言葉も、その後の「男性だったらこのランチはなかった」というセリフを導くための嘘のはず。そういうさりげない甘い言葉で、キャロルはじわじわテレーズににじり寄っていく。

とにかくキャロルは恋愛上手でナンパ師だ。そのキャロルに、魅力的でピュアなテレーズがほだされていき、2人は恋に落ちる。

しかし、いつの間にか関係が逆転し、最終的にはキャロルの方がテレーズに愛を乞うようになっていく。

2人の関係性や、ロマンスの流れを見ていると、同性愛や年の差、不倫などの要素がありながらも、ストーリーは超王道ロマンスそのものである。

テレーズの成長

このストーリーでは、テレーズが大きく成長していくところも、大きな要素となっている。

自信なさげで、優柔不断であることが序盤でどんどん示される。

突然の恋人の訪問に振り回され、勝手な旅行の予定にハッキリとした意見を示せず、恋人の弟からのキスも拒めない。全てが受け身である様子が執拗に描かれている。

そして、最初はキャロルとテレーズの圧倒的なパワーの差を感じさせるシーンが続く。

初めてキャロルの家に遊びに行ったテレーズ。そこにキャロルの夫ハージが帰ってきて、夫婦ゲンカが始まってしまう。そこでのテレーズのいたたまれなさは凄くて、親のケンカに怯える子供のようである。

その後、写真をやっていると知るとカメラを買ってもらい、しかし、写真についてはあまりハッキリ意見を言ってくれない。ここでも、あまり対等に意見してくれるような関係になっていない雰囲気が醸し出されている。

そして、現実逃避のために旅行に行こうと言われれば即答でついていき、キャロル夫婦関係の問題でその旅行が打ち切られると、テレーズは道中に置き去りにされてしまう。

全体的に見ると、このテレーズの振り回されっぷりはなかなかのものがある。

 

しかし、この旅を通して、徐々にテレーズが成長する様子が描かれる。

象徴的なのが、ホテルで2部屋取ろうとしたキャロルを遮って、1部屋にしたらどうかと提案するところだ。

また、ホテルのレストランで、部屋番号を聞かれたキャロルがまごついている間に、テレーズが「625よ」と答えてしまったりする。

旅を通して、テレーズは主体性を発揮し始め、だんだんと自分の意見を主張できるようになる。

 

旅の後、キャロルとテレーズは会えなくなってしまう。最初は引きずるテレーズだが、写真を現像し、その写真に写っているキャロルを直視しながら、整理していく(キャロルの写真もその他多くの写真の一枚として整理される)課程を通じて、だんだんと気持ちを吹っ切っていく。

そして、2人がようやく対等な立場になったところで、映画は美しいラストシーンを迎える。

映像による表現

映像で見せられてるな!というのをひしひしと感じる映画である。

例えば、最初の2人の出会いのシーン。視線の交錯だけで、かなりの情報量が詰まっている。

キャロルに見惚れるテレーズ。その視線に気づき何かを察するキャロル。そこに他の客がやってきて視線が外れる。その後またすぐにキャロルを探すテレーズの視線。

この視線の交錯は、映画のラストでも繰り返される。

最初のシーンでは、テレーズはレジの中に囚われ、自分から歩み寄ってキャロルを探すことはできなかった。他の客のせいで見失ったキャロルはいなくなり、再び会えたのはキャロルがテレーズの元へ来たからだった。しかしラストでは、テレーズはキャロルの方へ自分から歩み寄っていき、そして、目が合った2人を邪魔するものはもう誰もいない。

 

また、キャロルとテレーズが旅行に出る前、キャロルは弁護士から「素行調査があるかも」という忠告を受けるが、その後のシーンから、怪しい雰囲気が映像から漂ってくる。

明確に尾行している人物が描かれるわけではなく、ただ道を歩いているキャロルの周りの通行人の視線が不自然に感じたり、アビーとの食事中、後ろの席に座っている男が1人だけ写っていたり、「なんか怪しい」と思わせるような映像が、その後の事件に繋がっていく。

 

その他、細々した仕草や表情、ある行為をするときの間から、人物の心情を描写していく丁寧な映像は、本当に見応えがあるものになっている。

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