映画

ヤング・アダルト・ニューヨーク -「上っ面」と「中身」のどっちを取るか?クリエイターの幸福論-

概要

こだわりの強いドキュメンタリー映画監督のジョシュ。妻コーネリアとの間に子供はおらず、自由だが、どこか退屈さを感じる日々を送っていた。

ジョシュは大学で講義を行い、受講生の若きドキュメンタリー監督のジェイミーとその妻ダービーに出会う。2人は若く積極的で、早速ジョシュを食事に誘い、そこからジョシュら中年夫妻とジェイミーら若者夫妻の交流が始まる。

エネルギッシュで自由で文化的な毎日を過ごすジェイミーらに影響を受け、ジョシュらはライフスタイルを見直していく。4人はどんどん仲良くなり、ジョシュとコーネリアは、ジェイミーのドキュメンタリーに協力することになる。

しかし、ジョシュはジェイミーの態度にだんだんと違和感を持つようになり、強い疎外感を感じるようになっていく。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • そこそこ歳を食ってしまった主人公に強く感情移入できる
  • 夢を追う厳しさを示しつつ、苦悩する主人公を優しい視点で描いている
  • 主人公の生き方に勇気をもらった

低評価

  • 両義的なストーリーで、最後まで観てもスッキリしない
  • 中年が苦悩する暗い話で、疲れるしモヤモヤする
  • ラストが納得できない

ナニミルレビュー

オススメ度:A

こんな気分の時オススメ:夢と年齢についての映画を観たい時。コミカルで考えさせられるドラマを観たい時。クリエイターを描いた映画を観たい時。自分の生き方に疑問がある時。自由に生きている人を観たい時。

良い点!

人間の(社会の)しょーもなさを辛辣に描きながら、最後は暖かさを残しているストーリーが良い。

順調に行かないキャリア。ライフステージを上がっていく周囲の友人たち。世界から置いていかれるような、ジョシュとコーネリア中年夫妻の漠然とした不安がよく描かれている。

不安の中にいるからこそ魅力的に見える20代のジェイミーら夫妻との楽しい交流。同時に、自分の作品に対する真摯さゆえに、ジェイミーほど大胆になりきれないジョシュの哀愁が切ない。

この交流と挫折を通じて、2人は自分たちの人生を受け入れる。失ったものを諦め、まだある可能性を見据える。ラストで描かれるジョシュとコーネリアの素晴らしい夫妻愛が、この映画の救いになっている。

と同時に、やはりどんどん新しい世代が誕生し、自分たちが端へ追いやられる焦りも予感させるコミカルなラストになっている。

イマイチな点・・・

ある意味で「諦め」を「受容=成長」として描いているようなストーリーなので、カタルシスがあってスッキリというストーリーを期待してみると、モヤモヤするだろう。

中年夫妻の疎外感

ジョシュとコーネリアは、かたや映画監督かたや映画プロデューサーという夫妻で、一般的な夫妻に比べれば華やかな場所に近い夫妻である。

そんな2人は同世代の友人夫妻のように、赤ん坊を抱えて幸せいっぱいになれるような感性の持ち主ではない。つまり、世間一般的なライフステージを登っていくことで満足できるような人間たちではない。

ある意味で言えば、大人になりきれない2人。

そして、そういう2人だからこそ、若く、自由で、情熱的なジェイミーとダービー夫妻の生活に共感し、彼らのライフスタイルを模倣し始める。

しかし、ストーリーが進むにつれ、ジェイミーらの価値観もまた、自分たちにフィットするものではないということが分かってくる。

同世代の友人たちの価値観にものれない。若者夫妻の価値観にものれない。

そこに、ジョシュら中年夫妻の疎外感が現れている。

この、どこにも属することができない夫妻の孤独感が、映画前半では描かれている。

一番象徴的なのは、赤ちゃんのための音楽教室に耐えられないコーネリアが、ダービーに連れられてヒップホップダンスのレッスンに参加するが、そこでも結局上手くは踊れない、というシーンだ。

ママ友の中にも入れず、とは言え、若者のようにキレキレにダンスが踊れるわけでもない。このシーンに、夫妻の居場所のなさがよく表されている。

ジョシュのこだわりと世間の軽さ

映画後半は、焦点がだんだんと映画監督としてのジョシュの苦悩に移っていく。

ジョシュは1つの作品にこだわって作り続け、もう10年以上が経っている。逆に言えば、10年以上、作品を出せていない状態にある。

そして、出資をお願いしようと作品の売り込みをしても、難解なコンセプトに相手は全く興味を示さない。

真面目に作っているがゆえに妥協できず、さらに、長く関わっているせいで作品に対する客観的評価も希薄になり、義父からの真っ当なアドバイスも素直に聞くことができなくなっている。

このジョシュの陥っている状況は、物作りをしている人なら共感できる状況のはずだ。

一方でジェイミーは、気楽で楽しい作品を作りながら生活している。それだけならまだしも、偶然、昔の友人に会ったら、それが素晴らしい題材になり、トントン拍子で作品が出来上がっていく。

これがジョシュには耐えられない。

とは言えこの時点では、まだジョシュの苛立ちは単なる嫉妬でしかない。自分より上手く作品を作っている人に嫉妬してしまうのは、嫉妬する側の問題でしかない。

だが、実はジェイミーのこの作品は、ヤラセだと分かる。さらに、ジェイミーは自分の作品のために周りを利用するような人間であり、ジョシュは自分もそうやって利用されていたのだと気づく。

そこでジョシュの嫉妬は、義憤を帯びてくる。

だが悲しいのは、ジェイミーがそんなクズだとしても、それでもジェイミーの作品は高評価を得ており、さらにジョシュの誠実さなど誰も気に留めてくれないところだ。

自分のこだわりとその作品は顧みられず、そんなこだわりなんて気にしないでズルして作品を作っている(少なくともジョシュにはそう感じられる)ジェイミーは、世間的な評価を受けている。

こうしてジョシュは、若さでも、人生の充実感でも、監督としての名誉でも、ジェイミーにコテンパンにやられてしまう。

さらに最悪なのは、そんなジェイミーを責めているジョシュも、ジェイミーのドキュメンタリーの中で演出のため、嘘の演技をした場面があり、一貫性を欠いている。だから自分の信念をよりどころにするのも難しい。

映画序盤の講義シーンで、ジョシュは「ドキュメンタリーは自分自身を映し出すべきだ」と生徒に語っている。ジョシュとジェイミーでは、この言葉の解釈が異なるだろうが、それでも、ジェイミーはジョシュのこの言葉を地でいく作品を作っている。

自分よりかなり年下の人物が上手く成功を収めているのに嫉妬してしまう人。何かこだわりを持ってやっているのに、それを誰にも理解してもらえない人。

そういう悔しさを感じて生きている人は、ジョシュのこの状況に共感してしまうのではないだろうか。

しかし、厳しく見れば、ジョシュの怒りや行動は子供じみている。こだわりといえば聞こえはいいが、見方を変えれば単なるわがままであり、作品に対する誠実さは、社会と折り合うことを拒否する口実になっている。

そのことは、妻コーネリアとジョシュがケンカするシーンで、コーネリアから指摘されている。

作品づくりに対して真剣だからこそ、自分の中の幼稚な部分を克服する機会を失ってしまうジョシュ。「こだわり」という認識は、一面は正しくとも、反面、反省を回避するための言い訳になってしまう。

そういう作り手ならではの普遍的な苦悩や問題点が、ジョシュのこの苦境を通じて、上手く描かれている。

上っ面の幸福と、悪くない現実

この映画は、SNSというツールををメインに映し出す映画ではないが、まさにSNS時代の映画だと言える。

映画の終盤で、ジョシュが「僕は自分を尊敬してくれる弟子が欲しかったんだ」とコーネリアに語る。

そして、それは叶わなかったが、ジョシュにはコーネリアという承認者がおり、そのことに気づいてジョシュが救われる、という結末になっている。

ジョシュがジェイミーを許せない理由は、もちろん、作品づくりへの態度の問題もあるが、多くの承認を集めるジェイミーへの嫉妬が裏にあったのだ。

孤独なジョシュに比べ、ジェイミーは輝いている。いわばフォロワーの多いインフルエンサー。

この映画は、インフルエンサーの虚像に憧れ、裏切られ、そして現実の妻への愛に帰っていく物語になっている。

そういう観点で見ると、友人夫妻の描かれ方も面白い。

クライマックスで、友人夫妻の夫が1人で赤ん坊を世話しているシーンがある。そこで、彼は子育ての愚痴を漏らし、「子煩悩じゃなかったの?」と聞くジョシュに、「やっぱり自分が一番好きさ」と答える。

ここでジョシュは、自分たち夫妻と違って子供を産み、幸せそうに生活しているように見えた友人も、実は裏では苦労し、苦悩し、思い通りにならない人生にぶち当たっていたのだと知る。

ここにもSNS的な、自分の人生の良い側面だけを対外的にはアピールし、そのアピールによって多くの人(その代表としてジョシュ)が不満を募らせているという構図が見える。

つまり、人々は、自分の幸福を演出している。ヤラセで感動的なシーンを演出しているジェイミーのように。

ジェイミーは、この上っ面を極めることで人々を魅了し、承認を集め、社会的に成功を収めている。

一方ジョッシュは、そうはならず(もしくは、そうなれず)、現実である妻コーネリアや、養子を取るというリアルな方法での幸福を模索する。

この映画では「上っ面」と「中身」がずっと対比的に描かれている。

大衆は上っ面が好きだ。そして、それは世間の現実としてしょうがない。いいとこ取りは出来ないのだ。ブライトバートがいうように、その現実を受け入れて厚かましく、容赦なくなるか、それが嫌なら、名声は諦めて自分の道を行くしかない。

ジェイミーは彼の道を行き、ジョシュも彼の道を選択したのだ。

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