映画

紙の月 -依存から進化する信念-

概要

パートから契約社員になり、銀行で真面目に働く梅澤。大人しく、美人で、夫と共働きで暮らす彼女は、一見幸せな普通の女性に見える。

ある日彼女は、営業先の裕福な老人の孫と出会い、彼と不倫関係に陥っていく。そして、彼が学費のために闇金から借金をしていることを知り、彼を助けるため、銀行から200万円を横領する。

しかし、横領はその200万円で止まらず、彼との楽しい日々を過ごすため、梅澤は次々に横領を重ね、そのために証券の偽造まで行い、とんでもない額の横領を、誰にも悟られることなく繰り返す。

同じく銀行で働く正義感の強い女性、隅は、ある日記録を整理しているときに不審な点に気づき、梅澤の行為を調査していく。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • 人間の内面の歪み、破滅していく様を美しく描いた清々しさがある
  • 犯罪に現実感があり、魔が差してしまう主人公に共感し、ハラハラした
  • やや説明不足なところはありつつ、テンポ良くグングン展開する面白さがある

低評価

  • 原作を知っていると、少し物足りない
  • キャラクターの行動や、人間関係に説得力がなく、ドラマに乗れなかった
  • ラストが不可解でスッキリしない

ナニミルレビュー

オススメ度:A

こんな気分の時オススメ:現実的な犯罪サスペンスでハラハラしたい時。セレブの豪遊を観たい時。何かに突き抜けていく人間を観たい時。アッと驚くキャラクターの変化を観たい時。

良い点!

普通の真面目な女性が、お金に取り憑かれてどんどん悪に手を染めていくストーリーとして、もちろん面白い。豪勢にお金を使うシーンも、その他細かい感情の演出も素晴らしい。

だがそれ以上に、そういうある意味ベタな展開を逆手にとって、ラストで強烈な印象を残す主人公梅澤のキャラクターとしての魅力が素晴らしい。

良い意味で「裏切られた」という後味。

イマイチな点・・・

梅澤と大学生の恋の始まりがやや唐突に感じる。

また、不倫相手のために金を横領してしまう気持ちや、女性蔑視的な空気の中で生きる女性たちの息苦しさ、ラストで明らかになる梅澤の信念の、どれにも共感したり感情移入したりできないのであれば、かなり置いてけぼりにされると思われる。

逆に、全てに共感できなくても、部分的にでも乗れるところがあれば、グッと胸にくるシーンがあるのではないかと思う。

超人化していく梅澤

いかにも大人しそうな、真面目そうな主人公の女性銀行員、梅澤。

彼女が、想像をはるかに超える変化を見せるのが、何よりもこの映画の魅力だろう。

「最も美しい横領犯」というキャッチコピーが付いていることから、彼女が横領をしてしまうことは当然分かっている。

だから正直、事件の成り行きについて、あっと驚く何かがある、と言う感じではない。しかし、この事件の中で起きる丁寧な描写の積み重ねを経て、ラストの彼女の変貌ぶりに度肝を抜かれる。

まあまあ、このくらいで落ち着いて映画終わりかなぁー、という予想をはるかに飛び越えていく。文字通り、飛び越えていくラスト。

 

彼女の可愛らしい声や喋り方。夫や上司の無理解な態度にもあまり反抗しない気の弱そうな感じ。そこから漂ってくる疎外感と、不倫相手への同情心。

この彼女の雰囲気は、映画のラストまでずっと残っている。そして、この雰囲気を残したまんま彼女の行動がエスカレートしていく様が凄まじい(夫と電話をしながら、詰まったプリンターにイラつくシーンが印象的)。

最後まで確信がない感じというか、真面目キャラの隅と、小悪魔っぽい相川の間に挟まれ、ふわふわして所在無さげな感じがずっと続く。とはいえ、やってることは大それている。

 

そして、彼女の過去のエピソードとクロスカットされる終盤で、「ああ、この人、そもそもちょっと狂った人だったんだ」と分かる展開。

そして、ラストの彼女の堕ちた佇まいに、凄まじいカッコ良さを感じる。

「最も美しい」というのは、この梅澤の美貌のことを言っているというよりも、このラストの彼女の覚悟と信念、普通の人間じゃない狂気の佇まいが、「美しい」ということか、とぼくは感じた。

豪遊シーンがめちゃ楽しそう

そして、これも金を横領して人生を持ち崩していくキャラクターの話と聞けば、全く想像に難くない事だが、梅澤もどんどん金遣いが荒くなっていく。

梅澤の横領は、最初、善意から始まる。

不倫相手の大学生の学費を払ってあげるために、200万円を横領し、しかもそれもちゃんと返してもらう約束で、その学生に金を渡す。最初のうちは学生も少しずつ金を返し、これがちゃんと返済しきれば、多分、それはそれで何事もなかったように済んだのだ。

しかし、この大学生が好青年だったからこそ、梅澤はお金持ちのフリをしてしまう。自分がお金に余裕があると思わせないと、彼がお金を受け取らないだろうと考えたからだ。

この、優しさゆえの嘘が、その嘘を隠すためのさらなる嘘を生み、その嘘のためにお金を使っているうちに、梅澤の金銭感覚はおかしくなっていく。

 

梅澤はオシャレな服を買い、高級なディナーを若い彼と楽しみ、ホテルに泊まって豪遊する。

この2人のデートシーンがとても楽しそう。

最初は高級ディナーから始まる。「ん!これ、なんの肉だっけ?」と嬉しそうに聞く彼。彼が食べたこともないようなものをご馳走し、その初めてに立ち会う幸福感。

女としての楽しさに加えて、子供がいない梅澤にとっては、若い男にいろいろな経験を与えることは、親のような楽しさもあったのだろうと想像できる。

そして高級ホテルで過ごす週末。買い物三昧。ベッドの上でゲラゲラ笑いながらの飲み会。ここで、カップヌードルを食べながらワインを飲むシーンの贅沢感がすごい。カップヌードルを贅沢感の演出として使えるという発見が凄い。

変わっていく彼氏、動じない梅澤

そして、これもお決まりのようだが、じゃぶじゃぶ贅沢させた大学生の彼は、どんどん駄目男へと堕落していく。

この彼氏の微妙な傲慢さの見せ方が上手い。別に怒鳴ったり、目に付くほど横暴に振舞ったりするわけじゃない。しかし、確実に何かを勘違いして肥大化していく様を見事に描いている。

テラスで傘の位置を移動させるシーン。そこそこ立派なマンションを前に「贅沢するのもいいけど、これくらいが落ち着くよねぇ」とコメントするシーン。そして結局、同じ大学の女性と浮気(この浮気に気づくシーンも名シーン)。

この彼氏の堕落ぶりは、序盤からある程度想像がつくことだし、それに振り回されている梅澤の悲劇のヒロインぶりも、まあ想定の範囲内なわけだ。

しかし、やっぱりこの映画が凄いのは、梅澤の狂気は、この彼氏の堕落さえも飲み込んでいたんだとラストで分かることだ。

 

ラストで梅澤の独白を聞くまで、梅澤は彼氏に振り回されているように感じる。実際、どこかの時点までは振り回されていたんだろう。しかし、梅澤はどこかでそれさえ乗り越えていた。恐らく「バイトなんかしなくていい」と彼氏に言ったのは、甘さから言ったのではなく、覚悟から言ったのだ。

梅澤は全ての結末や不幸を飲み込んで、最高の時間を彼と過ごしていたのだ。

逆に、この彼氏の方はあまりの贅沢に怖気付く。「あの部屋にいると、いつまでこんな生活が続くんだろうって不安でしょうがない」と彼は話す。この言葉は、だんだん追い詰められている梅澤を見て、観客が感じている感情と全く同じものだろう。

映画終盤では、周囲の人が梅澤に優しく接するシーンが続く。ここは「真っ当に生きていれば良かったのに」と梅澤を憐れみ、彼女の後悔を湧き上がらせるようなシーンになっている。。

しかし、一瞬でも梅澤を憐れんだ観客は、彼女を見くびっていたかもしれない。

梅澤は、そういう真っ当なところから抜け出す強さを持っていた。

全力で瞬間を楽しむことに対して怖気付いた彼氏と、その彼氏に気持ちを代弁された観客は、梅澤に置いていかれてしまう。

とにかくラストの梅澤の超然ぶりは、何とも言えない魅力がある。

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