映画

ハロルドが笑う その日まで -人生いろいろ、家具屋もいろいろ-

概要

長い間、高品質の家具を販売する小さな家具屋を営んできたハロルド。

しかし、彼の店のすぐ近くに家具量販店のイケアができたことで、ハロルドの小さな家具屋は一瞬で倒産してしまう。さらに不幸は重なり、認知症を患っていた妻も亡くなってしまう。

自暴自棄になったハロルドは、自分も自殺を試みるが失敗。一人息子の家を訪ね、銃を盗み、イケアの創始者カンプラードを誘拐するため、イケア誕生の地、スウェーデンのエルムフルトへと車を走らせる。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • 悲劇と喜劇が紙一重であることを端的に表現する演出
  • 実在する「イケア」がネタにされているのが面白い
  • 人間の素朴な弱さ・強さ・温かさが淡々と描かれている

低評価

  • 明快なカタルシスがなく消化不良気味
  • ストーリーとしての流れが悪く、個々のエピソードがバラバラに感じる
  • 登場人物たちの動機がよくわからず、感情移入できない

ナニミルレビュー

オススメ度:B

こんな気分の時オススメ:まったりしたコメディが観たい時。北欧映画が観たい時。悲劇的なコメディが観たい時。皮肉っぽいストーリーが観たい時。ダメ人間の温かさが観たい時。

静かなブラックユーモア

基本的にはハロルドの悲劇がベースになったストーリー。

映画序盤は、長年大事にしてきた店が潰れ、妻にも先立たれるという不幸続きで暗いムードから始まる。

さらに、傷心のハロルドは、自分の店に引火性のニスをまき、自分もニスを被って焼身自殺を図る。

しかし、ちょうど自分の頭上に消火用スプリンクラーがあり、自殺未遂に終わってしまう。

文章で書くと深刻な感じに響くが、この自殺に失敗するシーンは、わりと笑えるシーンになっている。

というのも、古き良き家具屋がである自分の店が、現代的な店の代表格であるイケアに駆逐されてしまったというのが、彼の不幸なわけだ。その自殺の瞬間も、ハロルドは窓の向こうに見えるイケアの看板をにらみながらマッチに着火する。

しかし、まさにホームである自分の古い店の「現代的な設備」によって、自分の自殺が失敗するから面白い。

この2重の皮肉(古き良き店なのに消火設備が現代的なこと。自分のホームだと思っていた店ですら自分の思い通りにならなかったこと)が、実にユーモラスに描かれていて、ハロルドの哀愁を一層濃いものにしている。

 

この映画、この物騒な出来事と、それが間の抜けた雰囲気で進行するこのブラックユーモアが全編に渡って続いていく。

 

ハロルドは最初、カンプラード宅で彼の帰りを待ち受けるが、ついついソファで眠ってしまう。

すると住人が帰ってきて、そこはカンプラードの家でないことが発覚する。そして、あろうことかハロルドは施設から抜け出した問題老人だと勘違されてしまう。

ここでの住人のハロルドに対する可哀想な人を見る視線もとても可笑しい。

 

そして、偶然誘拐できたカンプラード(この「偶然」も笑えるのだが)が、ハロルドの隙をついて逃げ出すシーンの間抜けさ。

一応、ハロルドもカンプラードも真剣なのだが、老人がじゃれてるようにしか見えない映像になっている。

 

こんな風に、ハロルドの絶望と、自暴自棄から来る犯行の緊張感がありつつ、しかし、行き当たりばったりでグダグダな犯行。誘拐されるカンプラードの余裕があるのか必死なのか分からない態度。

ドタバタで愉快というより、静かでコミカルな雰囲気のコメディになっている。

どうしようもない家族

この映画は、これ見よがしではないのだが、テーマとして家族が描かれている。

ハロルドが最初に向かう先は息子夫妻のところである。この息子も失業中で、バーでケンカをしてしまうようなタイプの男であり、映画が終わる頃には妻に逃げられている。

そして、スウェーデンへの道中で出会うキーキャラクターとして、エバという女性がいる。

このエバの母親も、過去の栄光にすがり、今ではダメ男にばかり引っかかる残念な女性になってしまっている。

誘拐されたカンプラードも、自分の息子達が自分のビジネスを奪おうとしている愚痴を話し「まったく忍耐を知らん奴らだ」と悪口を言っている。

 

このダメなんだけど、どことなく温かい家族の風景が、ハロルドの殺伐とした誘拐計画の間に差し込まれることで、ドラマとしての幅が出ている。

ハロルドは、ひとつの家具屋を長年運営し実直に生き、真面目に実績を積み重ねてきた男である。そういう彼から見ると、この映画に登場する他のキャラクターたちは、しょうもない人間に見えるだろう。

しかし、エバ親子と過ごしたり、カンプラードの愚痴を聞いたりしているうちに、ハロルドの心境に変化が起こる。

そして、ラストでは、ハロルドは息子のマンションを訪ねている。

イケアの描かれ方

実際のお店、そして、実際の創始者の名前を使ったストーリー。それっていろいろ面倒があるのではないか、と思うのだけど、イケア側はこの件を承諾したそうだ

その上で、イケアとカンプラードは、ストーリー内で良くも悪くも描かれている。

 

イケアは、序盤ではハロルドの店を潰した商売敵として描かれ、イケア製品は粗悪品だとさんざん叩かれている。

カンプラードの描かれ方も、コミカルとはいえ、バカにするような描き方もあって、見方によっては本人が怒り出してもしょうがないものである。

しかし、同時に、カンプラードは憎めない愛らしい性格で、好感のあるキャラクターとして描かれている。さらに、カンプラードが話す彼の生き方や理念、イケア製品に対する気持ちは、それはひとつの尊敬に値するものとして描かれている。

なので、そのあたりのバランスは上手く取られていて、ハロルドも、カンプラードの考え方に賛同はできないとしても、ひとつの信念だと最後は認めた感がある。

その変化も、ハロルドの変化として映画のラストに繋がっている。

 

ハロルドが視野を広げ、絶望の中から立ち直るロードムービーを、静かなブラックユーモアを効かせながら描いた楽しい作品だ。

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