概要
謎の宇宙生命体ギタイに侵略される地球。ギタイは人類の戦略を見透かすかのように侵攻を進め、人類は最終決戦へと追い詰められている。
軍報道官のケイジは戦闘経験のないヘナチョコ軍人。ある日、将軍に楯突いたことで最前線に送られてしまう。最初の出撃で呆気なくギタイに襲われ、地雷でギタイもろとも自爆したケイジは、なぜか出撃前日へタイムスリップする。
最初は戸惑うケイジだが、戦地へ赴き、殺されるたびに出撃前日に戻って目を覚ます、というループに陥ったことに気づく。
ケイジは戦場で味方を助けながら行動するうち、「戦場のビッチ」と恐れられる女性リタに接触。リタはケイジの言動から事情を察し、彼女も以前ケイジと同じ状態に陥ったと説明。2人は人類の敗北を回避するため共に行動し始める。
観る前ポイント
SFアクション娯楽大作。タイムループもので、へなちょこ主人公が、人類の敵エイリアンを倒すという王道ストーリー。強くてカッコいいヒロイン。ラブシーンがない。
レビューの印象
高評価
- 主人公の成長、ヒロインとのロマンスなど、王道なストーリーが面白い
- ゲームをしているかのように成長していく感覚が楽しい
- コミカルさとシリアスさのバランス、テンポが良く見易い
低評価
- 結末が陳腐でしりすぼみな印象
- 展開が王道すぎてつまらない
- SF設定やキャラの行動に説得力を感じられない場面が多かった
ナニミルレビュー
全体的なレビュー
人類滅亡の危機。ヘナチョコ主人公が英雄へと成長。気の強いヒロインとの協力。パワースーツでの戦闘アクション。ラストは一発大勝負。
近未来SFでループ物という設定を活かしながら、楽しい要素を詰め込み、悪者退治の英雄物語。危機的ストーリーの中にコミカルなシーンもあり、クライマックスはアツい展開。まさに娯楽アクション大作。
ヘナチョコな主人公や圧倒的不利な戦況など、全体的に状況設定が分かりやすい。その中で、ループによってゲームを攻略しているような楽しさが展開し、ループの中に閉じ込められた主人公ケイジの孤独感も、重くなりすぎないバランスで描かれている。
ケイジがヒロインのリタとだんだん親密になっていく様子も良い。本来であればリタは毎回ケイジと初対面のはずで、「だんだん親密になっていく」という展開は難しいはずだが、場面の切り取り方の工夫によって一本のロマンスとして見られるようにしている話運びも上手い。
「戦場のビッチ」と一目置かれる、せっかちで気難しいキャラクターのリタもとても魅力的で、リタとケイジのコミカルな掛け合いが楽しい。さらに、リタの名声はクライマックスで仲間集めをする際にも重要なキーになっている。
ループするという設定が過不足なくストーリーを推進させながら、「人類を救う」というシンプルなゴールに向かって、飽きさせることなく展開していく。ケイジが悩むシーンはありつつ、ウジウジしたシーンや面倒なロマンスシーンが少ないのも含めて、アクション大作として素晴らしい。家族や友達とも見易い映画。
一応ネガティブなことにも言及すると、ある場面で作戦が上手くいかずケイジがやさぐれた後、リタに「あなたならできる」と励まされると急に作戦が上手く進む展開や、クライマックスのキーアイテムである交信デバイスなど、やや無理矢理に感じる展開もある。
が、そのくらいはスルーしてもいいと思えるくらい、全体的によくできている。
ただ、後日談はぬるい。
これは客観的に見ると絶対ダメな展開で、この後日談があるために本編では上手くまとまっていた設定にいろいろツッコミを入れたくなってしまう。
でも、そこを切り離して楽しむことができる作りではあるので、やはり本編の良さは推しておきたい。
ケイジの成長
全体的に、設定とストーリー、キャラクターの見せ方がすごくスマートだな、と感じた。
まず、主人公の成長物語。これは、「ヘナチョコ」から「英雄=救世主」へ、という分かりやすくギャップの大きい成長だ。
成長率が大きいほどドラマとしては面白そうだけど、当然その成長に説得力を持たせるのは難しいはず。弱い人間が大きな困難に立ち向かうには、それ相応の理由が必要だ。
本作では「時間ループ」「人類の最終決戦」という設定を使って、上手くケイジの行動に理由づけしている。
なぜヘナチョコなケイジは困難から逃げないのか。いや、「逃げられない」のだ。そしてこの「逃げられない」という状況を、ストーリー上で丁寧に描いている。
まず序盤で、ケイジは卑怯な手を使って前線から逃れようとするが失敗する。さらに、ループすることで、自分が立たされている日が、実質的に人類の勝敗を決する日であることが分かる。
「軍人の義務として逃げられない」という状況と、「そもそも逃げても人類が負けて死ぬ」という状況を重ねることで、ケイジがヘナチョコであるにも関わらず、人類のために「挑戦しなければいけない」という強制的な状況を作って、説得力のあるドラマを作っている。
それでも、ケイジが「もう人類なんかどうでもいい」と思うかもしれない。
その逃げ道をも塞ぐため、ケイジが途中でやさぐれてバーで酒を飲むシーンを挟んでいる。しかしここも、バー付近までギタイが迫ってくる展開になることで逃げ場として機能しなくしている。
こうやって、ケイジの苦悩を描きながら、同時に「本当に、どこにも逃げ場がない」と観客に納得させる丁寧なストーリーになっている。
ヘナチョコだったケイジの成長は、鍛錬シーンもそうだけど、それ以上に「死の繰り返し」というこれ以上ない経験を経ることで納得できる描写になっている。
序盤ではギタイに殺されたりリタに撃ち殺されたりしているだけだった受け身のケイジが、途中で1人でオメガの元を訪れる。さらにオメガの罠にかかった際、自ら溺死するシーンを挟むことによって、「目的のために苦しみに耐える力」を獲得している、ということをしっかりと描いている。
さらに、ループによる訓練や作戦を通して、ケイジはだんだんとリタに恋心を抱いていく。ループを繰り返すことで、ケイジの中に「リタを守りたい」という強い動機と、「自分なら守れるかもしれない」という自信を生じさせていく。
ループによる心身の成長とリタへの思いを、人類救済と重ね合わせることで、ケイジが大きな困難に立ち向かうことに、より大きな説得力を持たせている。
だから、死んでループするという設定も、リタとのロマンスも出落ちにも蛇足にもなっていない。
リタへの思いがあるからこそ、クライマックスでの英雄的選択も重みが増している。人類を救うため、単に自分を犠牲にするだけでなく、リタをも犠牲にしなければいけない、という苦い選択がドラマチックになっている。
だからこそ後日談のヌルさは少し拍子抜けなのだが、まあ、人類のために頑張ったんだから許してあげようよ。
エイリアン退治
そして、どうやってギタイに勝つのか、というメインストーリー。
ここでも「ループ能力」という設定が、緊張感を失わないように絶妙なバランスで上手く活かされている。
ケイジは、ギタイの中でも「アルファ」と呼ばれる上位個体の血を浴びたことでループ能力を手に入れる、という設定になっている。
そしてリタは、その能力を持っていたが、失ってしまったキャラクターとして登場する。
ここに、「なぜリタだけが唯一ケイジの話を信じてくれるのか」に対する論理的な説明と、「ループ能力は失われる可能性がある」という伏線が含まれている。
リタしかケイジの話を信じてくれない(もう1人科学者の協力者がいるけど)、という設定は、このストーリーを面白くするのに決定的に重要な要素である。
というのも、もしケイジの協力者がもっと多かったらギタイに勝つのはずっと簡単だからだ。極端な話、上層部がケイジを信用すれば、敵の弱点を探って、そこにミサイルを打ち込めば簡単にギタイに勝ててしまう。
だから、「絶対に誰も主人公の話を信用しない」という大前提は、ギタイとの戦いをドラマチックに描くために必要な要素。その中でリタだけが信じるのを「リタが優しい人だから」とかではなく「経験者だから」としているのは設定の置き方として必然性があってスマートだ。
さらに、ケイジはクライマックス手前でループ能力を失ってしまう。
これもクライマックスを緊張感のある展開にするためには絶対必要な展開だ。
この映画の中盤は、ループを通してどんどん解決へ近づいていく様子がテンポ良く描かれている。
逆に言えば「このままループを繰り返していれば、まあどこかで勝てるんだろう」という雰囲気が生じて緊張感が薄れていく。
だからこそ、最後をドラマチックに見せるためには、能力は手に入れたり、失ったりするようなものにしなければいけない。
正直言って、ケイジが能力を失ってしまう展開は、ややご都合主義的である。というのも、「せっかく新しい情報を手に入れたのだから、さっさとケイジを殺してリセットすればいいじゃん」と、注意深い観客は思ってしまうはずだから。実際、リタという女性はそういう合理的なキャラクターとしてずっと描かれている。
このご都合主義感を薄めるため、ここはパワースーツと銃撃戦とカーアクションが入り乱れる迫力のあるシーンになっている。ある意味目くらましなのだが、この状況だったら焦って逃げる方を優先するのかもしれない、と思わせる映画らしい工夫になっている。
何にしても、クライマックスでは「もうループできない」という最後のチャンス感を演出して、しっかり「ラスト」になるように展開させている。
ループ能力や、主人公とヒロインのキャラクターを上手く配置して、過不足なく展開していく見事なストーリーだ。
ギタイの強さの設定と、ループの設定がバトルストーリーとして上手い。
主人公ら数少ない人数でもギタイを倒せる、という力関係に説得力を持たせながら、「ならもっと簡単な方法で倒せるのでは?」というツッコミを「誰もループのことを信じないから」という前提で回避している。
へなちょこケイジと気が強いリタのラブコメ
ギタイのボスを倒すため、リタはボスの元への案内人としてケイジを訓練する。
リタは、ケイジを訓練装置に放り込んでは、怪我で訓練続行不能になるたびに銃で撃ち殺す。
このシーンは、リタのスパルタ加減をコミカルに描写するシーンであるのだが、ラブコメ的な空気があって、ある種究極のSMプレイみたいになっている。
訓練の途中でケイジが「体液を移せばループ能力を移せるかもよ」と遠回しにリタにセックスを迫り、「とっくに試した」と呆気なく断られるシーンが挟まれていることからも分かるように、ここのプレイ感は明らかに意図されたものだ。
ヘナチョコなケイジとツンデレのリタのロマンスも、この映画の面白さの1つである。
2人の交流は、序盤こそコミカルで痛快に展開されていく。だが中盤に差し掛かかると空気は深刻になっていく。
ケイジがだんだんと強くなっていき、さらにリタの死に何度も直面することで、2人の関係性に変化が生じていく。
ケイジはリタに嘘をつき、もう何ループもしている場面で、あたかも初めての場面であるかのように振る舞う。リタはそのことに勘づき、2人はケンカになると。ここで、リタとケイジの立場が完全に逆転していることが示される。
ここは、ループという設定を上手く使った展開になっている。
それまでケイジの視点でストーリーを見ていた観客は、リタと同じく、この場面が初めての場面でないということに驚く。ケイジの経験を観客の想像より先に行かせることで、観客が思う以上にケイジは苦悩しているのだろうと感じさせる。
これがこの後、ケイジがリタとの協力を諦めて1人で行動し始める展開に説得力を与えている。
ただ、そのせいで、幻覚がオメガの罠だと分かった後、ケイジがすぐまたリタたちに協力を求めている展開が、やや軽薄に感じてしまうというのはある。
しかし逆に、一度リタを諦めたケイジが、またリタに協力を求めるということは、この場面はケイジにとっても本当に初めての場面なんだろう、と観客に再度ストーリーを信用させる展開になっている。
こうしてクライマックスに至る。
赤の他人であったリタが、最初は瀕死の自分からバッテリーを奪って見捨てていく冷たい人物として現れ、その後、唯一自分を信じてくれる人物になり、リタへの思いを感じ始め、しかしどうしてもリタを救うことができず、苦しみを避けるためリタから離れる。だが新しい手がかりをきっかけにリタとまた協力を再開し、最後はそれぞれの役割を果たして命に代えて人類を救う。
エイリアン退治だけでなく、リタとの関係性もしっかり起伏に富んだものになっていて、大きな見ドコロになっている。
ケイジの一番最初の出撃の際、英雄として紹介されるリタが呆気なく殺される。
どんなに特別な英雄として紹介されていたところで、最初のリタの死は「他人の死」である。しかしストーリーを通してどんどん「愛する者の死」になっていくのも良い。
この「死」の感じ方の変化を通して、ケイジの思いを描いているのも面白い。
戦場ではあっちこっちで人が死んでいる。リタの死は、「あっちこっちで起こる死」の1つだった。それが「看過できない死」へと変化していく。
そんな繰り返される「死」を媒介にした恋愛っていうのも、ループ物ならではだ。
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