映画

6才のボクが、大人になるまで。 -時間と共に変わるものと変わらないもの-

概要

母子家庭で姉と暮らす少年メイソン。6歳から18歳までメイソンと、彼の家族を描くライフストーリー。

テキサスに住んでいたメイソンは、母のキャリアアップのためにヒューストンに引っ越す。メイソンはそこで中学、高校と成長し、大学進学と共に母を残して家を出る。

結婚と離婚を数度繰り返す母と共に暮らすメイソンは、家族の形を変えながら成長していく。不安定な生活をしながらもメイソンや姉との面会を重ねる父や、アル中になってしまう母の再婚相手。父の再婚相手や、その両親とも家族としての交流を重ねる。

大人になっていくメイソンは、やがて写真にはまり、写真家になることを目指して大学へと進学する。メイソンだけでなく家族それぞれが少しずつ変化していくさまを丁寧に描く。

みんなのレビュー

高評価

  • 人生における時間の早さや密度について考えさせられる
  • 少年が成長していく姿がリアルで、人生を疑似体験しているかのような感覚になる
  • 主人公だけでなく、母や父のキャラクターも魅力的で家族の温かさを感じられる

低評価

  • 劇的な展開がなく物足りない
  • 手法は面白いが、ストーリー自体は既視感があってやや退屈
  • 長すぎる。また急に時間が飛ぶので混乱する

ナニミルレビュー

良い点!

とりあえず、12年に及ぶストーリーを本当に12年かけて撮ったというのは、すごい。その試みがどんな結果になったのか、という好奇心だけで観ても十分な映画だ。

そのうえで、この映画はとてもちょうど良い映画に仕上がっていると思う。

ほとんどの人生のように、過剰に劇的ではなく、かといって何もないわけではない。楽しいことも嫌なこともある。どうにもならないことも、どうにかなったこともある。最高でもないし最低でもない。

12年という時間を実際にかけることで生じるリアリティと、ストーリーとして描かれる人生のリアリティのバランスが取れている。この手法で撮るなら、これくらいの温度のストーリーがベストなんだろう、という納得感がある。

といっても、本当に無作為に見えるほどリアルという作り方ではなく、登場人物は作り手のメッセージを伝えるためにチューニングされているな、という感じ。

変わる印象

この映画は、「人間は変わっていく」ということを描いた映画だと言っていいと思う。

もちろん、少年メイソンが大学生になるまでの変化をメインで描いているのだが、その背後で、母や父も変わっていくし、母の再婚相手も、メイソンの姉も、みんな変わっていく。

そして、観客がその人物を勘違いするように、第一印象を描いている。

例えば、父が最初に面会に現れるとき、すごく身勝手な男に見えるように描かれている。一旦2人を自分のもとに帰してと言う祖母の要求も聞かず、自分の考え通りに2人を直接母親のもとへ帰すと言い張る。

「ああ、このタイプの男か」という印象を抱く。シングルマザーの苦労も知らず、都合がいい時だけ良いパパ面で現れる、自己中心的で無責任な男なんだろう、という感じがしてしまう。

いや、実際彼にはそういう側面があると思うけど、彼はしっかりと子供たちと面会を繰り返し、子供たちとの関係を築き、最終的には母が唯一メイソンの卒業パーティーに招待した男になっている。

一方で、そのほか2人の母の再婚相手は、第一印象こそしっかりしている。片や教師、片や元軍人で、いかにも「ちゃんとした人」として描かれている。が、その2人は両方ともだんだんと酒浸りになり、母は離婚を決意し、子供たちとも縁が切れている。

ここには明らかに作り手の意図を感じる。そういう意味で、すごくリアルだという感じはしないのだ。

また、この映画が良いのは、こういうある種悪役として描かれる人物たちとの間にも、「楽しい時間」をちゃんと描いていることだ。

例えば、最初の再婚相手とはゴルフやジェスチャーゲームを楽しんでいる場面が描かれているし、2人目の再婚相手は、門限を破ったメイソンに「12時を過ぎたから今日誕生日だな」と粋なことを言っている。でも時間の中で変わっていく。

子煩悩に見える父も、メイソンとの約束を忘れていた。子供のころメイソンから家族の注目を奪って彼を苦しめていた姉も、思春期のメイソンの独特なファッションを「クールだし、いいじゃん」とかばっている。

「こういう役回りだから、こういう振る舞いをするだろう」という固定的なキャラクターを超えて、数年もあれば人は変わるし、人が変われば人間関係も変わる。そういうリアリティをしっかり描きつつ、だから第一印象で人間は決まらない、という主張を暗に示しているように感じる。

そんな中、ラストで登場する父の友人のバンドマンは、変わっていないことで勇気を与える存在になっている。変わらず頑張ってるやつもいるよっていう。

良い意味で個性的すぎない主人公

メイソンは、アート写真を志向しているし、ファッションもやや独特な青年へと成長していく。そう考えれば個性的だ。

しかし、よくよく考えてみれば、彼には分かりやすい性格がない。すごく素直というわけでも反抗的というわけでもないし、人との間に壁を作りやすいタイプだけど協調性がゼロという感じでもない。主体性はあるけど、とんでもない熱意を持っているのでもない。嫌われ者でも人気者でもない。天才でもバカでもない。

ラストで受賞する写真の賞が「銀賞」というのも、あえて極端を避けた描かれ方になっている。

おそらく、この映画が退屈に感じるとすれば、その大きな原因は主人公としてのメイソンの非劇的なキャラクター性にある。

メイソンは大きく成長・行動しない。子供の間、母の行動によってほぼメイソンの人生は決まっていく。大学進学などでも両親と大きく対立することもない。母が離婚した2人の男に立ち向かったりすることもなかったし、新しくできた家族との間で葛藤に苦しむ様子もない。

メイソンの人生はあまりドラマチックではない。でも、だからこそそこに妙なリアリティがある。

例えば、最初の再婚相手で酒を飲んで横暴に振舞いだしたとき、もっと大きな悲劇が起きたり、メイソンが立ち向かったりする展開を、ついつい期待してしまうのは、「映画はそうなるだろう」という期待感を観客であるぼくが持つからだ。

しかし、この問題でメイソンは特に何もせず、母の頑張りによってどうにか姉弟は救われる。

そして、普通はそうなはずだ。子供に暴力を振るうのは「映画」の中ではありふれていても、そんなに簡単に起こることではないだろうし(コップ投げてたのは暴力だけど)、普通に考えたら親同士が解決する問題だ。

進学を親に反対される、というのも「映画」ではよくある話だが、実際は普通に許可して応援してくれる両親だって多いはずだ。

これが平均っていうわけでもないだろうけれど、とはいえ、こういう劇的すぎない人生だってあるのだし、むしろそっちの方が数としては多いだろう。

この映画は、リアルに12年を使って、リアルな人生を撮影する。だから、メイソンは過剰にキャラクター化された人間ではなく、それゆえにドラマとしてはやや薄味で、人によっては退屈に感じるのかもしれない。

でも、メイソンの人生を見ていて、ぼくはむしろ「なんて充実しているんだ」と思った。

たくさんの人間関係があり、いろんな形の家族がおり、危ない遊びも少しやり、レストランで皿洗いもし、やりたいことも見つかる。

「ここで大事件が起きるんじゃないか」と思わせる場面(刃物で遊ぶシーンとか、パーティーとか)、「こいつ悪人なんじゃないか」と思わせる場面(配管工やバイト先の上司、父の友達とか)、「これがあとで回収されるのかな」と思わせる展開(生き別れた元兄弟とか)をたくさん描きながら、しかし大したことは起きないし、だいたいの人は善良だし、人生には見えなくなっていく過去もある。

子供は危なっかしいものだけど、過剰に心配しなくても、だいたいはちゃんと育っていくよね。そんな主張が垣間見える。

だからメイソンを始め、この映画に登場する人物や起こる出来事は、そんなに劇的ではなく、でも劇的でなくても、十分豊かであり得るのだ、という確信がこの映画からは伝わってくる。

イマイチな点・・・

何度も書いているが、あまり劇的なことが起きない映画なので、退屈だと思う人は退屈だろう。160分以上あるし。

あと2人目の再婚相手との関係がさすがに端折られすぎだろうとは思った。

まとめ

160分は長そうだと思ったけど、退屈せずに観終わることができた。家族関係の多様さに驚かされたし、この子がこういう風に成長していくんだ、という感慨はやっぱり見ていて面白かった。

人生における、順当に進むところ、予想外のところが両方描かれていて、個別の出来事としてはそれほど劇的でなくても、やっぱり12年というスパンで見れば劇的であり、どんな人生でも劇的なのかもしれない、と感じさせる内容だった。

レコメンド作品

そして父になる

子の取り違えを題材に、2つの家族の対比と、父としての自分を真剣に考えるようになる男を描くストーリー

ローラーガールズ・ダイアリー

母の期待に応えるため、自分の本心を隠して生きてきた高校生が、ローラーダービーと出会い青春を謳歌するストーリー

レディ・バード

少し変わり者の女子高生が母とぶつかりながら高校最後の年を過ごすストーリー

歩いても 歩いても

帰省した実家を舞台に、家族ならではの温かさと、家族だからこその緊張感を描く作品

レイチェルの結婚

家族の鼻つまみ者を主人公に、姉の結婚式で噴出する家族の問題を描く作品

海よりもまだ深く

前妻に未練たらたらな男が面会日に息子と過ごす1日を描くストーリー

トゥルーマン・ショー

生まれてこのかた、テレビショーの主人公として生きてきた数奇な運命の男を描く作品

得意な体質で生まれた男が生まれてから死ぬまでと、人間関係の変化を描く作品