映画

横道世之介 -人間関係の織物が紡がれていく様子を見せる-

概要

80年代の終わり、大学進学のために長崎から上京してきた横道世之介。優しくオープンな性格で、大学生、アパートの隣人、同郷の先輩などさまざまな人と関わっていく。

入学式で知り合った倉持、ダブルデートに誘われて出会った祥子、ナンパされたと思いきや体よく利用されただけだった年上の女性千春。さまざまな形で出会い、さまざまな距離感の人間関係を持つ世之介。

そんな世之介と周囲の人々の1年を描きつつ、その16年後、世之介を思い出す当時の友人・知人たちの姿も垣間見せる。

みんなのレビュー

高評価

  • 軽快に生きる主人公のキャラクターと、その周囲に集まる人々の関係が温かい
  • ある大学時代として憧れや懐かしさを感じる
  • ヒロインが魅力的で初々しいロマンスがいい
  • 全体的に幸福感のあるストーリーだが、ある事実による切なさもあって胸に残る

低評価

  • 明確なストーリーがなく、説明がなされない展開もあって不満
  • テンポが悪く長い
  • 共感できないキャラクターや展開が多かった

ナニミルレビュー

良い点!

全体的に優しい雰囲気で、悪役が登場しないタイプのストーリー。

ときどき不穏な出来事があったり、ちょっと厄介そうな人物も登場しつつ、結果的には悪らしい悪は描かれず、心穏やかに見ることができる作品。

出会った時点では、「ちょっとめんどくさそうだな」と思える個性的な人物たちだが、その後の付き合いを通して、だんだんと愛すべき人物へと変化していく描き方は、人と関わることに対するポジティブな気持ちを感じさせてくれて良い。

それは世之介自身もそう。

例えば、倉持との出会いでは、倉持のほうがやや面倒なやつとして描かれる(やたら話しかけてきたり、失礼な発言をしたり)が、加藤との出会いでは世之介のほうが面倒なやつになっている(強引に昼食に誘ってくる)。

結果的にどちらもいい友達になっていて、第一印象で全ては決まらないし、このめんどうを受け入れることでしか友達はできないというメッセージにも受け取れる。

これはヒロインである祥子もそうで、口調から振る舞いから何かとツッコミどころの多い人物として登場しながらも、食事をし、プールにでかけ、海に行き、といろいろ時間を過ごしているうちに、彼女の持つさまざまな魅力が発見され、それと共に世之介も祥子と真面目に付き合おうと決意する過程が描かれている。

人間関係が深まっていくのには時間がかかる。その当たり前の事実をちゃんと描いているのが良い。

ドラマチックにしようと思えば、もっと劇的に出会い、素早く関係が構築されたほうがテンポは良くなるはず。だが、この映画は関係が固まるまでの時間をちゃんと取ることで、人物同士の関係性に真実味と魅力を与えていると感じた(その分上映時間は長い)。

そのゆるゆる進んでいく時間と、世之介ののんびりとした性格が相まって、とても心地よい雰囲気の映画に仕上がっている。

またこの映画は、世之介視点のストーリーを描きながら、それから16年後の、世之介と関わった友人や元恋人の視点も描かれている。

映画が進むにつれ、16年後に思い出される出来事と、世之介のストーリーがより明確にリンクしあっていき、だんだんと世之介のその後の人生を想像させるような作りになっている。

この映画は登場人物が多く、世之介も多くの人と関わるが、16年後に世之介と顔を合わせる人はいない。

だれもが「そういえば、そんな人がいた」と思い出す人物として、世之介は存在している。

だから、ストーリーも断片的で、明確なストーリーがないように感じるし、実際ない。世之介は特に目的を持って行動しているのではないし、ストーリー全体を通して何かが成し遂げられる映画ではない。

しかし、この断片的な出来事の連続こそがなんとも言えず懐かしさを感じさせる。

実際、ぼくたちの人生は、振り返ってみればこういう断片的な出会いや出来事の連続だよな、と気付かされる。そこに自分の人生との共通項を感じて、懐かしさを感じるのだと思う。

16年も前のことを振り返れば、その中で今まで続いていることは多分少ない。明確なストーリーはそこにはない。

この、一見するとのっぺりとして断片的で退屈な出来事の連続こそ、ほとんどの人にとっての人生であり、そして、そこにも温かさや優しさがあり、そこで影響しあって今がある。だから過ぎ去ったことでもまだ充実していて、その心地よさがこの映画の肝なのだ。

この映画を観ていて、端が未処理でまだ糸が伸びている状態の織物を見るような感覚になった。その先にまだ新しい出会いや人間関係が編まれていく可能性を持った未完成な感じ。そして、今まで織られた部分は、糸の先が遠く離れてもしっかり面を構成して残っているような、そんな力強さを感じる映画だった。

イマイチな点・・・

個人的にそんなに悪い点は感じなかった。

たしかに上映時間が長いことや、断片的で説明が省かれた部分(観客の想像にお任せしますな部分)に不満を持つ人がいるのも理解できるのだけど、しかし、この映画の場合はそこにちゃんと意味があったと感じられた。

強いて言うならば、祥子が世之介を指して「普通の人だよ」というように、誰の人生にもありそうな懐かしさを感じさせるストーリーでありつつも、同時に「こんな素敵な出来事は普通の人生にはない」という矛盾する感覚も感じていて、そのモヤモヤがあるといえばある。

だから本当は、この映画は劇的なストーリーがないように見せかけて、個別の出来事はかなりドラマチック。出来事が断片的なので全体としては何も起きていないように感じるが、ひとつひとつの出来事の充実感は大きいのであって、劇的なことがないのではなく、劇的なことを細かく刻んでいる作品なのだ。

平凡を装ったドラマチックなストーリーなのかと思うと、ちょっと騙された気分にはなる。

本当に非ドラマチックな人生は、なかなか映画にならないだろう。

まとめ

とにかく温かく優しい映画であり、初々しさもあり、切なさもありで充実感がある。人と関わることに前向きな気分になれるストーリーで、それを支える登場人物たちも魅力的。明確な何かが見たいときに観る映画ではないと思うけど、160分を長く感じさせないだけの中身がある映画。

レコメンド作品

ベンジャミン・バトン 数奇な人生

世之介と対象的に「非凡」な主人公を描く映画だが、ひとつひとつの人生を特別に感じさせてくれるストーリー

6才のボクが、大人になるまで。

6歳から18歳まで成長してく少年のストーリーを温かく描くストーリー。12年の中に現れては消えていく人間関係と主人公の変化が興味深い作品。

レディ・バード

やや田舎の高校に通う女子高生の高校最後の夏を描く作品。親子関係を軸に、地元やそこでの人間関係を優しく描く作品。

ビッグ・リボウスキ

主人公デュードは決して立派な人間ではないが、困っている人がいれば助ける良いやつ。ある誘拐事件の捜査をすることになったデュードと友人たちのドタバタを描くコメディ。

ビフォア・サンセット

青春時代に偶然出会って1日を過ごした2人が、9年後に再開してまた1日デートをするストーリー。懐かしさと可能性を感じさせる作品。

レイチェルの結婚

誰かの不在によって、ある人間関係の意味を考えさせてくれるようなストーリーの作品。