映画

大統領の執事の涙 -20世紀アメリカ。革新と保守、親と子、対立と理解-

概要

1926年、アメリカ・ジョージア州。少年セシルは、黒人奴隷の両親と共に棉農園で働いていた。ある日、母を乱暴した雇い主の青年に口答えした父が目の前で殺される。その青年の母は、セシルを憐れみ、農園から家働の下男としてセシルを働かせる。セシルは給仕の仕事を覚えた後、農園を離れる。

セシルはホテルで給仕の仕事を得て、上司の推薦でワシントンD.C.にある高級ホテルの給仕の仕事に就く。さらに、そのホテルに来ていた政府関係者に見出され、ホワイトハウスで執事の1人として働くことになる。

同じ頃、アメリカでは黒人差別の問題も社会的問題として立ち現れていた。

セシルの息子の1人ルイスは人権活動に傾倒し、セシルは危険を犯し、家にも寄り付かないルイスと不仲になる。もう1人の息子チャーリーはベトナムに従軍する。妻グロリアは一時アルコール中毒になってしまう。

家庭と仕事の両立の難しさ。そして、黒人としての立場と大統領に仕える執事としての立場に苦悩しながら生きる、セシルの人生が描かれる。

みんなのレビュー

高評価

  • 権力の中枢と、民衆の側両方から、アメリカの黒人差別の歴史を概観できる
  • 登場人物たちに人間臭さがあって、ドラマとして興味深い。特に父子のドラマが対比的に描かれており面白い
  • 底辺から這い上がるサクセスストーリーの面白さがある

低評価

  • 頑固な主人公に好感が持てない
  • お話として出来すぎていて、よく出来たダイジェストという雰囲気。現実問題を深掘りできておらず、全体的に軽い印象
  • 政治家が美化されていてプロパガンダに感じる

ナニミルレビュー

オススメ度:B

こんな気分の時オススメ:ドラマに絡めて政治や歴史の問題を描いた映画を観たい時。アメリカにおける黒人差別に興味がある時。被差別階級からのサクセスストーリーを観たい時。長い期間にわたる物語を観たい時。『フォレストガンプ』のような映画が観たい時。

良い点!

奴隷の息子から、大統領の執事にまで登りつめたセシルのライフストーリーと、アメリカにおける黒人差別の問題が重ね合わされており、サクセスストーリー、家族ドラマ、アメリカ政治の3要素が織り込まれた見応えのある作品。

大統領の執事というセシルの視点から、公民権運動の前後の歴史を見つつ、その歴史がリアルに家庭内に反響してくるストーリーが面白い。

セシルは社会を取り巻く差別問題を、トップと草の根両方(歴代の大統領と、活動家の息子ルイス、現実と理想)の思いを受け取りながら見ている。

その中にはセシル自身のキャリアに起きる変化や、ルイスの活動の変化、そして、セシル自身の感覚の変化があり、それが家族ドラマとしても展開されていく。

終盤で、給仕する側からされる側になり、その経験を通してルイスの見方に共感していく流れがとても良かった。

そして、ラストではオバマ大統領の誕生を目にするセシルの姿までを描いている。差別問題のゆっくりとした変化を、少年から老人になったセシルの人生に重ねて思いを馳せるようなエンディングになっている。

イマイチな点・・・

それぞれ重みのある3つの要素を重ねていることで、やや手薄になっている部分がある。

そもそも、なぜセシルはここまで執事として評価を受けているのか、という根拠を示す場面が少ない。あくまで周囲の評価が高まっているという描き方になっていて、観客の目から「この人すごい!」と感動できる場面が少ない。

あるのはホワイトハウスで初日に丁寧にお茶を入れている場面くらいで、執事ならではのプロフェッショナリズムを感じさせる場面をもう少し見たかったという印象。

そして、妻との関係が改善するシーンもかなり唐突な印象があり、「妻は不安だったのだ〜」というセシルのモノローグで力技の展開になっている感は否めない。

1人の一生、20世紀アメリカ

ストーリーは1926年から2008年までを描いている。

当たり前のように奴隷として黒人が農園で働かされ、尊厳を踏みにじられている時代から、オバマ大統領誕生までを、セシルの人生を通して垣間見ることができる。

驚くのは、たった1人の人生分でどれだけ社会が動いているのか、ということだ。

よく考えれば、2008年から見れば、第二次大戦終結は63年前。第一次大戦終結ですら90年前だから、アメリカだけでなく、世界を見ても激動している。

セシルは、ある意味で言えば、少し引いた視線でアメリカ社会の中を生きている。

少年時代こそ、まさに黒人奴隷として、この差別に渦中にあったセシル。

しかし、執事になってからは、反差別運動に参加することもなく、どうやら第二次大戦に出征することもなく、そこそこ平和で豊かな生活を営んでいる。

このセシル視線が、ちょうど現代の観客の視線と近く、共感できるような視線なのではないかと思う。

差別問題で大変なことがあったのは知りつつ、自分がデモに参加したわけではなく、遠くの出来事として報道で知るくらいの距離感。差別による事件の痛ましさは理解しつつ、自分の息子の安全の方を優先する感覚。

まさに差別に苦しむ側の20世紀アメリカを生きる黒人を描きながら、多くの人が共感できるような人物として主人公セシルが設定されている。

良くも悪くも、20世紀アメリカのエネルギッシュさを感じられる映画だ。

酷い偏見が残り、それが白人達を狂気へと追い立てている様。そして、その不条理に敢然と立ち向かう反差別主義者たち。

その酷い惨状の報道を見て、反差別的な方針を打ち出していく政府と、しかし、それですぐに鎮火するわけではない差別者達の怒り。それに伴う暗殺事件。それをきっかけに巻き起こる暴力に訴える反差別活動。

それぞれのパワーが吹き荒れる喧騒が、常にアメリカ社会を覆っていたのだなぁ、と思わされる。

そして、なるほど、こういうパワーが、現在のLGBTの活動も生み、そしてトランプ現象もあるのか、と思うと、アメリカという国がまた違う視点で見えてくる。

ストーリーの中でも、差別の撤廃は簡単には進まない。

しかし、少なくとも反差別で平等な社会に向かって、着実にアメリカが歩んできているような希望がある。

オバマ大統領の勝利で、とりあえずハッピーエンドとして終わっている映画だが、それをトランプ政権下の今見るのも、また不思議な感覚がある。

父セシルと子ルイスの対立に見る保守と革新
セシルの息子ルイスは、10代の頃から差別問題に関心が高く、大学進学を機に本格的に反差別デモに参加し始める。

セシルはそれをよく思っておらず、デモばかりで大学に行かないルイスを苦々しく思っている。

ストーリーを通して、2人の溝は一度は深まり、そして和解していく。

ルイスは、白人に仕える父セシルを尊敬できずにいる。一方でセシルは、奴隷の身分から這い上がり家族を支えている誇りがあるし、大統領が差別解決のために腐心している姿も見ており、ルイスの憤りに納得できない。

最初はルイスの活動を全く理解しないセシルだったが、デモの報道によって大統領の判断が影響を受けているのを目の当たりにし、ルイスの行動の意義を少しずつ認めていく。

同時にルイスも、キング牧師の「執事は勤勉さや威厳によって黒人のステレオタイプを変えた戦士だ」という言葉を聞いて、セシルの仕事を違った視点で理解していく。

ルイスは結局、過激化していくでも活動から身を引き、セシルの言っていた通り大学に戻り、修士まで収め、政治家になることで社会を変えていく道を選んでいる。

そしてセシルも、客としてホワイトハウスのパーティーに招待され、そこで執事達の姿を、給仕を受ける側からの角度で見たことによって、ルイスの感じていた疎外感を理解する。

自分にとっては生き抜くスキルであり、プロとしての振る舞いであったものが、息子の目からは白人に媚びる黒人の姿に見えていたことを、身を以て実感するこのセシルの描写は、とても説得力のある展開になっている。

人生をかけて迷いなく続けてきた自分の職能に、セシルは初めて迷いを感じ、仕事に身が入らなくなる。

彼は仕事を辞め、ルイスのデモに参加し、一緒に投獄されることで、2人はようやく和解する。

セシルとルイスの対立と和解は、不正を正すために行動する革新派、日常を守りたい保守派(ナショナリストではなく、生活保守)の対立と和解を象徴していると言えると思う。

それを、同じ黒人の、しかも親子の対立として描くことで、純粋に革新と保守の対立として描いている点がとてもいいと思う。

この対立に民族対立や、社会的立場の対立を重ねると、話がややこしくなってしまう。同じ家族内の2人の対立にすることで、すっきりと、立場による視線の違いを描いている。

その上で、2人が少しずつお互いの見方を理解し、最終的には、真ん中より少し革新寄りに決着させ、「差別は良くない」という当たり前の価値観の中で2人を和解させている。

民主主義を信じるアメリカ的価値観を軸に据えつつ、家族ドラマと社会的メッセージを上手く織り交ぜたストーリーになっている。

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