概要
『ビフォア・サンライズ』『ビフォア・サンセット』に続く3作目。
ジェシーとセリーヌ、双子の娘2人、ジェシーと前妻の息子ハンクは、ギリシャでバカンスを過ごしていた。ジェシーはアメリカへ帰るハンクを見送り、残りの休暇過ごす。
ギリシャへは、ある老作家パトリックに招かれて訪れ、彼の別荘で過ごしていた。同じく彼の別荘で過ごすパトリックの孫や、友人、夫妻と一緒に食事をしたり、小説談義をして楽しい休暇を過ごす2人。
一緒に滞在していたステファノス夫妻から、ホテルでの一泊をプレゼントされた2人は、食事の後、娘2人を預け、ホテルに向かって久しぶりに2人きりで歩き出す。
2人は出会いの時を思い出しながら、さまざまな話をしながらホテルに向かってゆっくりと歩く。
観る前ポイント
リアル路線の中年ロマンス。キリキリとした夫婦喧嘩がある。観光地を歩きながらひたすら会話する映画で、明快なストーリーがない。
レビューの印象
高評価
- リアルすぎる会話に共感する
- 厳しくも救いのあるストーリーで、大人な映画
- 時間の経過による愛情の質の変化を描いている
低評価
- シリーズ前作までのロマンチックさが剥がれ、見たくないものを見せられた
- リアルな関係性になったせいか、男女二人の会話のお洒落さが薄く、夫婦の小言を聞かされている感じ
- 家族となり、二人以外の人物も関わることで、前作までのシンプルさがなくなっている
ナニミルレビュー
ポジティブ
ときめきの前2作から一転、家族としての生活を経て、より現実的になった2人の関係がリアルに描かれている。
本作もほぼ会話によって進行して行くストーリーだが、前作に比べれば場面転換も多く、少しずつ目的地に近づきながら、時間が刻々と過ぎていく様子が背景として描かれていて、映像的にも見応えがある。
本当にありそうな何気ない会話の端々から、今の2人の状況や関係性が描出されていき、なおかつ、これまでの作品と対応するようなセリフもあって、前2作以上に退屈さを感じさせないストーリーになっている。
また、序盤で2人以外のキャラクターたちとの交流が描かれることで、お互いの関係だけでなく、社会の中で2人がパートナーとして生きることの厄介さも説得力を持って描かれている。
ネガティブ
他人の夫婦ゲンカを見せられて、他人事なのにうんざりさせられる(褒め言葉)。
ジェシーとセリーヌ、どちらも説得力があるところと、なんでそれ言うの?と思うところがある。パートナーと一緒に見ると、どちらに肩入れするかでケンカになってしまうかもしれない。
夫妻の緊張感
前作までは、まだお互いに夢を見ているときめく2人が描かれていたのとは対照的に、本作では9年連れ添い、お互いのことを知り、その上で理解できない部分が出てきた2人の関係が描かれている。
お互いの生活に大きな影響を与えられる存在になったからこそ、そこに献身の気持ちや、責任感や、妥協や配慮が大きく入り込み、そこからすれ違いが生まれる様子が、積み重なって行く会話によって絶妙に表現されている。
お互いのことをよく知っている(と思っている)だけに、相手の言動の裏側が見え過ぎてしまい、それによって思考が空回りしていく。相手を気遣ってついた嘘が、別の会話の中では矛盾として噴出し、それがお互いを苛立たせる様子は、見ているだけでも歯がゆい。
ストーリーの中でひとつのキーポイントになっている「シカゴへの引っ越し」。
映画序盤で軽く話されている時にはちょっとした言い合いだったものが、ストーリーを通して様々な意見や問題を吸収し、映画ラストでは離婚の危機を引き起こすまで大きな話になっている。
ジェシーは「ひとつの考えだ」と話し、セリーヌは無茶な要求をされていると感じる。ジェシーは何も強制していないと言うが、セリーヌは食事の席で「ジェシーが勝手なお願いをしてくる」と皆に話す。ジェシーは息子のためにできるのはそれしかないと話し、セリーヌはそれは拙速な考えだと諭す。さらにセリーヌは、自分のキャリアを壊すために引っ越しの話を持ち出したんだろうとジェシーに言い、ジェシーはイカれてると返す。
どちらの言い分にも一理あり、どちらも合理的な部分と感情的な部分がある。意見の不一致は夫婦ゲンカの種でありながら、実はお互いの欠点を補い合っている証拠でもある。でも雰囲気は最悪。
この、夫妻の間にしかありえないような奇妙な関係が、たった1日に満たない時間の会話の中で見事に描かれている。
映像が物語ること
前2作に比べると、登場人物も場面転換も多いこの映画。映像によって物語られる面白さがある点も大きな見ドコロになっている。
冒頭の、空港を出るとセリーヌが車の脇で待っているという場面で、前作からのつながりを一気に想起させるシーンは気持ちいい。
また、ホテルでサインを求められるシーン。ここでの屈辱的なセリーヌの態度は、作家の妻として生きてきたセリーヌの苦労を一発で表すシーンになっている。
そして、ケンカによって中断されるベッドシーン。そこで服を脱いだり着たりする様子が面白い。会話としては緊張感のあるケンカのシーンなのに、映像的には妙に間抜けなものになっている。と当時に、10年近く一緒にいる40代男女の現実的な空気感として妙に説得力がある。
仲直りの手紙
映画は、仲直りのためにジェシーが小芝居をするシーンで終わる。
ここでジェシーはタイムトラベラーを演じ、未来のセリーヌから手紙を預かってきたと話して読んで聞かせる。
映画を一気に観る観客にとっては、この3部作は、まさにタイムトラベルをしながら2人の関係を覗くかのような映画である。
そしてそういえば、1作目でジェシーがセリーヌに一緒に列車を降りようと誘う時、「一緒に降りなければ、君はきっと将来振り返った時に後悔するはずだ」という話をしていなかったっけ、と思い出す。
ジェシーはセリーヌと初めて出会った時の口説き文句を、9年連れ添ったあとにも彼女に使っている。
でもよく考えれば、映画の中盤でセリーヌが「もし41歳の今の私を列車で見たら、同じように声をかけたか」という質問に対し、ジェシーは「仮説的な質問なんて意味ない」と返したりしている。でもジェシーの口説き文句は、仮説的なものだったりする。
ジェシーの祖父母が70年以上連れ添ったという話を聞いて、セリーヌはこれから先、自分たちはそんなに長く続くだろうかと質問し、ジェシーは前向きな答えを返す。
2人が18年という長い関係を持っているからこそ、こういう時間を超えた質問に重みが生じていて、だからこそ、未来から来たタイムトラベラーの手紙には、ジェシーの思いがちゃんと乗っかっている。
ジェシーは、「完璧ではないが、現実的な愛だ」とセリーヌに話す。セリーヌは最後はジェシーの小芝居に乗って2人は仲直りする。
完璧ではない現実の中で、2人の仲を取り持ったのは、小芝居を通したフィクションだった。
セリーヌはケンカの中で、ジェシーの重荷にならないように本心を見せず良い母親を演じていたと吐露した。人間関係はお互いのフィクションによって成り立っている。しかしフィクションだけでは現実が壊れてしまう。
現実とフィクションのバランスを上手くとっていく必要がある。そう感じさせてくれるラストシーンになっている。
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