概要
真昼の郊外でスナイパーによる無差別殺人が発生し、5人が命を落とす。警察は事件後すぐさま元軍人の容疑者ジェームズを捉える。ジェームズは容疑を否認し、かつて軍で一目置かれる存在だったジャック・リーチャーへの連絡を求める。
流れ者として生きるジャックは、弁護士であるヘレンと接触。ジャックは初めジェームズの犯行だと考えていたが、捜査を進めるうち、様々な矛盾点に気づいていく。
ジャックはジェームズは犯罪組織にはめられたと考え、組織を倒すために計画を練る。
レビューの印象
高評価
- 勧善懲悪の娯楽サスペンスアクション映画としてハイクオリティ
- やりすぎな派手派手アクションやラブシーンがなく、渋い主人公による比較的落ち着いたアクション映画のかっこよさ
- 力技ではなく、調査・捜査が丁寧に描かれているのが良い
低評価
- 敵の行動が間抜けすぎて、ツッコミどころが多い
- 展開が淡々としていて、派手なアクションもなく退屈
- 主人公が地味
ナニミルレビュー
オススメ度:A
こんな気分の時オススメ:渋い主人公のアクション映画が観たい時。謎解きもあるアクション映画が観たい時。はみ出し物と堅物弁護士のバディ感が観たい時。
凄腕でチャーミングなはみ出し物
ストーリーの発端となるのは、ある無差別殺人事件。すぐに容疑者の男が捕まるが、彼は犯行を否認。
その容疑者に呼ばれ、どこからともなく現れる元軍人の流れ者、ジャック・リーチャーがこの映画の主人公。
原題が彼の名前になっている通り、彼の活躍を観ることがこの映画の醍醐味になっている。
ジャック・リーチャーの魅力はなんだろう。
勲章まみれの元軍人でスーパーハイスペックなヒーローでもあり、どういう生活をしているのかを見せないミステリアスでミニマリストな流れ者でもあり、そして、なんだかんだで温もりのある優しい性格であるところ。
隠れた凄腕のキャラクターは、いつでも魅力的なキャラクターだ。
堂々としていて、淡々と事件の真相に近づいていく超然とした姿は言わずもがなにカッコいい。
ただ、ジャック・リーチャーの魅力は、それに加えて彼の限界が見えるところだと思う。
例えば、敵の雇ったチンピラの家に入った彼は、背後から攻撃されてしまう。そこを乗り切れたのはチンピラがドジだったからに過ぎない。
クライマックスの襲撃シーンも、作戦があるとはいえかなり無謀でギリギリの戦い方をしている。
その上、敵の中で一番強い男に対峙すると、プロに徹しきれないマッチョさを垣間見せる。「いや、人質の命かかってるから」とツッコませるくらいの愛嬌が、むしろ彼の魅力になっている。
途中で出てくるキャラクターたちに対する優しい眼差しもそう。冷徹なようで冷徹じゃないギャップがいい。
超絶強い。頭も切れる。でも血が通っている人間臭さがある。そんな男、ジャック・リーチャーの魅力を存分に味わえる。
映像で見せる演出
全体的に映像で物語る演出が多くあって、観ていて心地よい場面が多いのもこの映画の魅力。
冒頭の無差別殺人の一件は、事件の準備、事件現場、捜査、取り調べまでをセリフなしで過不足なく見せている。
特に、犯人の視線の動きと呼吸の音だけで、犯人の緊張感や冷静さを感じさせつつ、客観的に見ると心底ゾッとするシーンになっているのが素晴らしい。
映画冒頭のスピード感と緊迫感は、「この映画絶対面白いだろ!」という期待感を高まらせてくれる。
そして、この映画では、感情の機微がセリフよりキャラクターの動作で語られている場面も多い。
弁護士のヘレンがリーチャーの部屋で鍵を渡されて気まずくなる場面(その後、鍵をかける音で気まずさが増すのも含めて)とか、リーチャーが殺人の容疑者だと疑われる瞬間の視線の交錯、無言でリーチャーを助けたバスの乗客の笑顔。
チンピラの家で3人の男に襲われたリーチャーが、2人を気絶させたあと最後の1人に「お前の仲間を見ろ。俺を見ろ。また俺に会いたいか?」と凄むシーンがある。このセリフは「見れば分かるな?」という映画ならではな楽しさがたっぷり詰まった、この映画を象徴しているセリフのように思う。
小気味良い雰囲気
この映画、重すぎず軽すぎず、全体的にとてもいいバランスの映画だと感じる。
映画の軸になっている事件は、テロかと思うような無差別殺人事件でかなり重い事件だ。そして裏切りがあったり、強権的な黒幕が部下を追い詰めたり、あるキャラクターが残酷に殺されたり、シリアスな要素が含まれている。
アクションシーンが静かで緊張感を高めているのも、この映画の特徴だ。
と同時に、ジャック・リーチャーにせよ黒幕にせよ、戯画的なキャラクターが映画の両端にいるから、そこはフィクションとしての軽さになっている。
また弁護士ヘレンとリーチャーがだんだん仲良くなっていく描写が観ていて楽しい。
ヘレンの事務所で2人で推理を進めているときに、かかってきた電話をリーチャーが取ってヘレンに手渡すシーンなど、信頼感が生まれて仲良くなっていく様子も、映像的に上手く見せている。
ロマンスよりバディとして描いている点が、個人的には気に入っているポイント。
ヘレン以外でも、リーチャーが追い詰められたときにバス停でほかの乗客が助けてくれたり、狙撃場の店主がリーチャーの腕を認めて仕事を手伝ってくれたり、リーチャーを取り巻くキャラクターたちの描かれ方も観ていて心地よいものになっている。
加えて、意外にも笑えるシーンが多い。
チンピラの家でリーチャーを襲う2人はドタバタコメディそのものだ。犯人との交渉シーンで電話を執拗にかけ直すリーチャーは本当に笑える。
リーチャーは、相手の聞きたいことより自分の言いたいことをガンガン話す。会話シーンは、会話しているようでリーチャーが3つ飛ばしくらいの返事をして相手をやり込めていく可笑しさが毎回巻き起こる。
クールだけど全体的にキャラ濃いめのリーチャー。頭はいいけど子どもっぽい会話。ヘレンに対して自分の偽名の説明を一方的にするシーンは本当に馬鹿らしくて面白いのだが、このネタが狙撃場で軽く回収されたりするのも、この映画の小気味よさにつながっている。
フィクションらしい楽しさと、シリアスな事件が絶妙のバランスで味わえるとても面白い映画。
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