概要
飛行中にトラブルに見舞われ墜落必至の航空機を、機転をきかせて安全に不時着させ、多くの乗員乗客を救ったパイロット、ウィップ。
奇跡のような出来事ののち、国民的英雄として脚光を浴びるウィップ。しかし、事件後の調査により、ウィップはアルコールと薬物を摂取しながら飛行していたことが分かる。
パイロットとして許されざる罪と、多くの人命を救った英雄としての自分の間で、ウィップは揺れ動く。
観る前ポイント
生き方について考えさせられる。ダメダメな主人公。社会と個人の関係を描いている。わりとポジティブな雰囲気。
レビューの印象
高評価
- あっと驚く不時着シーンがすごい
- 自分の弱さに向き合う主人公の迷いや葛藤に共感でき、クライマックスまでハラハラしながら観られる
- 道徳について考えさせられる
低評価
- 破天荒な主人公のストーリーなのに、ラストが健全で拍子抜けする
- 展開を盛り上げるためのご都合主義的展開があってしらける
- 主人公の設定が倫理的に受け付けない
ナニミルレビュー
手に汗握るの不時着シーン
主人公ウィップは航空機のパイロット。少しはみ出し物ではあるけど、操縦は凄腕。
映画冒頭は、彼の操縦する航空機が故障し、ある広場に不時着するエピソードから始まる。この冒頭のエピソードだけでも引き伸ばして90分の映画にできそうなほど面白い内容になっている。
どうして機体がちょっと揺れるたびに席に戻れと注意されるのか、どうしていちいちシートベルトを細かくチェックされるのか。
この冒頭のシーンを観ると、少し面倒で煩わしいと思っている飛行機のルールに、納得せざるを得ない気持ちになる。(飛行機の中では人間が凶器になるなんて!)
そして、危機的状況の中で冷静に最善を尽くすウィップのヒロイックな振る舞い。
ちょっとダメな男かと思わせるウィップの登場シーンから、機内でのヒロイックな振る舞い。主人公の両面をこのシーンで見せる。
この人間なら誰もが持つ善と悪の「両面」がこのストーリーの軸になっている。
現代社会における宗教とは
ストーリーが進むほどに、これは宗教的なストーリーなんだと分かる構成になっている。
ウィップが病院の非常階段でがん患者の男で話シーンがまず出てくる。そこでは運命について、選択の可能性についてが語られる。
副パイロットのお見舞いに行くと、副パイロット夫妻はかなり敬虔なクリスチャンで、ウィップは心にもないお祈りをさせられてしまう。
最後の審判を待つホテルの部屋でウィップが寝ていると、隣の部屋へ続く扉がノックされる。その部屋に行くと窓が空いていて、ウィップは空を見つめる。そして、そこで大罪を犯してしまう。
こうやって「宗教」の話を並べていると、そういう話に興味のない人にはツマらないストーリーに感じるだろう。
しかし、この映画の素晴らしいところは、そういう「宗教」の話が、いかにぼくたちの普通の感覚の中に生きているかと実感させてくれるところだ。
例えばぼくはクリスチャンではない。ウィップも敬虔な人間ではない。映画の中で出てくる主要な要素は「訴訟」や「アルコール依存症」や「人間関係」の話であって、宗教物語ではない。
しかし、このストーリーのベースにあるのは、「あなたは何者だ?」という普遍的な問いである。そして、この問いから目を逸らそうとするたびに、あの手この手で問いが目の前に突きつけられる、というストーリーになっている。
この映画では、そうやって問いを突きつけてくるものの象徴としてキリスト教的な要素が使われているが、この「問いに向き合うこと」の重要性は、宗教を問わず、時代を問わず、普遍的に重要な問題だ。
この映画を観ていると、「なるほど、こういう重要な問題に対して考えるヒントを与えてくれるのが宗教というものなのか」という気付きがある。
「宗教」のカギカッコが外れて、生活の中にある宗教的な感覚を自覚させてくれる。そういうストーリーになっている。
選択するのは自分だ
「自分が何者か」という問いから、主人公のウィップは逃げ続ける。
自助の集まりから逃げ、恋人から逃げ、家族から逃げ、マスコミから逃げ、弁護士から逃げ、逃げて逃げて逃げまくる。
そうこうしているうちに、クライマックス。
ウィップが内面の問題から逃げ続けている間に、弁護士らの助けもあって外的な問題はおおむね解決していく。
そして、外的な問題が取り払われたからこそ、最後はウィップの心ひとつが問題の中心になる。
ラストのラスト、ウィップは何の強制力も受けず、完全に自由に選択する権利を得る。
自助の集まりや恋人のアドバイスは聞かなかった。家族からの非難も受け入れなかった。ホテルに軟禁されても効果がなかった。
しかし最後だけは、ウィップは自分で選択する。
では、この選択の原動力になったのは何なんだろう。それを神というかどうかは問題ではないと思う。それは自分を何者かにする何か。
自分にとってのそれは何だろうか。そう考えさせてくれる素晴らしい映画。
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