概要
どんな依頼でも必ずこなす凄腕の殺し屋アーサー。ある日、自分の師であり友人であるハリーを殺す依頼を受ける。一旦は断るアーサーだが、結局はハリーを殺す。
父の死を知ったハリーの息子スティーヴは怒り、仇を取るため、アーサーが犯人とは知らずに弟子入りを頼み込む。
嫌がるアーサーだが、ハリーの息子であることもあり、スティーヴを受け入れ、共に殺しの仕事を行いながら、スティーヴを鍛え上げていく。
観る前ポイント
カラッとしたアクション映画。渋い殺し屋主人公が綿密な計画を元に仕事をこなしていくカッコよさ。男2人のバディ感もありつつ、馴れ合いにならない雰囲気。渋いけどシリアスというよりはエンタメ感のある内容。
レビューの印象
高評価
- 主人公のプロ感が良く、変に温かいドラマを描いておらず清々しい
- 手際良い暗殺を描くアクションシーンが良い
- ひとつの事件ではなく、殺し屋の日常を描いたようなストーリーが面白い
低評価
- バディであるスティーブのキャラが弱い
- 主人公の心情や背景が分からず、感情移入しにくい
- 弟子のせいでプロフェッショナル感が削がれている
ナニミルレビュー
完璧な暗殺
映画冒頭、いきなりプールでの暗殺シーンからストーリーが始まる。
この最初の暗殺自体ストーリー的な意味はないのだが、ここでの主人公アーサーの完璧な身のこなしで、「あ、プロフェッショナルだ」と納得させる映像になっている。
説明的なセリフやシーンは一切ないのだけど、一連の流れを見るだけで、これが用意周到に準備され、完璧な動きで遂行されている暗殺だということがよく分かる。
この映画のストーリーは基本的に、アーサーが友人の息子スティーブを殺し屋として育てながら、いくつかの暗殺を遂行していくエピソードと、アーサーとスティーブの仇討ちのエピソードから成っている。
90分少しのかなりコンパクトな映画なので、訓練シーンはかなりテンポよく進んでいくし、計画を練るシーンもほとんど泣く、アーサーとスティーブの数回の会話が断片的に見せられるだけである。
にも関わらず、そこそこちゃんと説得力のあるストーリーになっている。スティーブの成長が早すぎる感じはあるのだが、暗殺シーンに関しては、なるほど、と思える展開になっている。
アーサーの完璧な仕事の楽しさもありつつ、まだ未熟なスティーブのミスからのピンチからのスリリングなアクション、という流れは、新人を育てるというストーリー上の必然でありつつ、完璧な計画とスリリングなアクション両方の楽しさを演出することに成功している。
ハードボイルドな空気
この映画は、そこまでずっしりと重いタイプの映画だとは感じないが、静かで落ち着いた映画だとは感じる。100分もないアクション映画だが、落ち着いたトーンがベースにありつつ、性的なシーンも暴力も、エグくなりすぎない程度にちゃんと見せている。
この空気感と、アーサーの一匹狼で弱みを見せないキャラクター、そしてアーサーとスティーブの関係性などが絶妙にマッチしていて、映画全体でとても締まった印象がある。
この映画のカッコよさは、すべては言わないのカッコよさだ。
アーサーとスティーブの間では、みなまで言わずに相手の意図を読み取る会話ややり取りが多い。
例えば、スティーブが初仕事で無茶をした時、説教シーンなんて描かずに、ただ「手際が悪い」とだけ言うアーサー。
アーサーのある秘密をスティーブが知ってしまったという場面でも、お互いに直接的なことは言わず、でも、スティーブは秘密を知り、そして秘密を知られたことをアーサーも察する、という会話が成される。
これは、2人が追っ手に追われ、アーサーがスティーブの銃の隠し場所を教える会話でも使われる。
この言外の意味をにおわせる会話のシブさも、この映画の魅力になっている。
優しくもプロフェッショナルなアーサー
アーサーはプロの殺し屋だ。
標的は標的でしかなく、自分はただ依頼された相手を殺すだけ、というスタンスで仕事をしている。
そんなアーサーだからこそ、彼が友人の仇を取るシーンがあんなにアツいものになっている。
冷静で、「仇討ちみたいに動機がバレる殺しはやめろ」とスティーブに説教したアーサーが、敵を許せず、プロに徹せず、自分の感情を優先させるからあのリベンジはアツい。完璧なプロの仕事で、完全に私情の恨みを晴らしている。
そもそも、スティーブを弟子として育てているのも、アーサーの優しさだ。
スティーブを放っておいても、アーサーにとって問題になることはないし、むしろ弟子にしたことで仕事の質が落ちて、依頼主の信用を落としてしまっている。
それでも友人の息子であるスティーブを見捨てず、一緒に仕事を続けるアーサー。そこに、アーサーの優しさが垣間見える。
だが、この映画が素晴らしいのは、その流れを感動のお涙頂戴にしていないところ。
共に仕事をし、理解を深める2人だが、最後は別の道を行くことになる。
このアツくも冷めた展開が、めちゃくちゃカッコいいラストになっている。