概要
中年夫妻(キャルとエミリー)の離婚の危機を軸としながら、中学生の高校生に対する片思い(ロビーとジェシカ)、身持ちの固い美女とプレイボーイの若い恋が同時に進行するストーリー。
観る前ポイント
子供から中年までの恋愛を描いたラブコメ。登場人物が多くわちゃわちゃしたコミカルなストーリー。ピュアな気持ちと出来心が交錯する。悪人がいない優しい世界。穏やかな気持ちになれるストーリー。
レビューの印象
高評価
- 複数のロマンスを描きながら、ストーリーとして上手くまとまっている
- ロマンス、ファミリー、友情、それぞれを楽しめる作品になっている
- 不倫や失恋など、ネガティブな要素がありながら、軽快で楽しく温かい
低評価
- キャラクターが薄っぺらく、ご都合主義的な展開
- 女性キャラクターが自分勝手で好きになれない
- コメディとシリアスのバランスが悪い
ナニミルレビュー
3つの楽しさ、3世代のロマンス
全部中途半端になってしまいそうなところを、絶妙にどの話も面白く見れるバランスで、かつストーリーが進むに連れてそれぞれの恋愛が絡まっていく展開が本当に面白い。
脇役に至るまで、どの登場人物もキャラが濃く、応援してくなるような良いキャラクターたち。かつ、それぞれの出来事が伏線になり、ストーリーの山場山場でそれが回収されていく脚本の上手さも素晴らしい。
ロマンスには、見ていて楽しい要素がある。この映画では、形の違うロマンスを3つ用意することで、1粒で3度美味しい映画に仕上げている。
例えば、中年夫妻キャルとエミリーのロマンスにおいては、長く続く一途で強い愛情が描かれている。そこには弱さもあり、浮気もあり、ケンカもある。しかし、それらを経てもなお崩れないものとして、愛情の強さが際立っており、それが観客を魅了する。
迷いの中にあるキャルとエミリー両方の相手に対する気持ち。素直になれないというよりは、どれが自分の素直な気持ちなのにか確信が持てずに揺れ動く様子と、そこに巻き起こるいろいろな出来事。
その中で、「やっぱりこの人」と納得していく静かな喜びが、この2人のロマンスからは立ち上がってくる。
ロビーの青春の片思いには、勢いよく溢れ出す恋心がある。こんな風に迷いなく人を好きになれるタイミングは決して多くない。それは思春期の特権だけど、思春期の頃は照れてしまって、誰しもがロビーのように真っ直ぐ行動できるわけじゃない。
ロビーの熱い気持ちとストレートなアプローチは、こんな風にバカになって相手に気持ちを伝えられたらどんなに爽快だろう、と思わずにはいられない。
このロマンスには迷いのない真っ直ぐさ、照れや恥じらいをふっ飛ばすような恋のエネルギーを見る楽しさが詰まっている。
そして、プレイボーイのジェイコブと、身持ちの固いハンナとのロマンス。ここでは、お互いがお互いに影響し合って共鳴していくトキメキが溢れている。
ハンナの視点から見れば、それまでの安定しているがどこか退屈な恋愛から飛び出し、モテモテのイケメンが自分にゾッコンになっている新鮮な恋愛。ジェイコブから見れば、それまでの味気ない体だけの恋愛から目を覚まし、「この人」が目の前に現れた幸福な恋愛。
この2人は間違いなく美男美女カップルである。つまり、ジェイコブにしてもハンナにしても、他の誰とでも付き合えそうなタイプの人間であるということ。その誰とでも付き合える2人が、お互いを選んでいるという状況から幸福感が湧き出ている。
ハンナはジェイコブの小手先の口説きテクニックを全て見抜いた上で、敢えて服を脱いでベッドに入る。その状況にも関わらず、結局2人は語り合い、セックスしないまま朝を迎える。身体でなく心でつながる展開を、これ以上ない説得力で描いている。
見事に錯綜するそれぞれのロマンス
そしてまた凄いのが、このそれぞれ楽しさの詰まった恋愛模様が、どんどん絡まって、それぞれがそれぞれの山場に影響を与えるようなストーリーになっていること。
実は、ロビーが片思いしているジェシカはロビーの父キャルに片思いしている。そして、ジェイコブとキャルはバーで知り合い、ジェイコブはキャルをイケてる男に変えているつもりが、自分もキャルに影響されていたと気づく。
この、男3人の微妙な関係性が、この映画の3つのロマンスを絡めるストーリー上の仕掛けになっている。
キャルはジェイコブのお陰でバーで次々とナンパを成功させるイケてる男に変身する。キャルの噂はエイミーの耳にも届き、エイミーはそれが気になってしょうがない。
ここには、フラれた相手を見返すために努力し、相手にヤキモチを焼かせるというクラシックな展開が用意されている。
同時に、ジェイコブが真剣な恋愛に目覚めた時、相談する相手はキャルしかなかった。
ここではお互いがお互いの欠けている部分を補完し合うバディ・ムービーのような友情が描かれている。
そして、両親を復縁させたいロビーは、父に自分の恋愛相談をしつつ、父のことを応援する。
母の浮気相手と話すシーンは、相手を威嚇するひとつひとつのアクションがコミカルに描かれるコメディシーンになっているが、同時に、父を援護する良き仲間として活躍する。
同時に、キャルにしても(エイミーにしても)、ロビーのことを本当に信頼している。学校で問題行動を起こしても、両親は全然心配しておらず、「変わった子だよね。でも本当に彼はいい子だよ」と話している。
この男3人の関係が、ストーリーの山場で絡まり合う。
ロマンスを横糸だとすると、男の友情を縦糸として、無駄なく織り込まれた、そしてサプライズな展開をいくつも含んだストーリーになっている。
この映画が特徴的なのは、男女のロマンスを描きながら、男同士の友情も同時に見せ、さらに親子の信頼関係も上手くストーリーに取り込んでいるところ。
だから、どのキャラクターも魅力的で、観ていてとても心地が良いのだ。
キャラクターの魅力
どのキャラクターも愛されるように描いているのも、本作の良さだ。
特に、プレイボーイで散々女遊びした後、ハンナのような美人と落ち着くジェイコブは、ともすると反感を買ってしまいそうな立ち位置のキャラクターだ。
しかし、キャルを助け彼の変化を喜んでいる様子や、ハンナに対して内面をさらけ出す場面、ハンナと父がケンカした際に仲直りを促すシーンなどを入れて、憎めないキャラクターに仕上げている。
あと、フルチンサウナシーンは結構重要なシーンだったと感じる。あのシーンで、プレイボーイの嫌な感じが吹っ飛んでいる感がある。
キャルの哀愁漂う感じも良い。新しい経験に翻弄されつつ、妻への一途な気持ちを持ち続けたり、子どもたちに対して責任感を持っていたり、本当にいい人。
このキャルに対する好感があるからこそ、ジェシカやロビーが彼を慕う感情にも説得力がある。
ストーリーとは別だけど、スティーブ・カレルのいじけてる演技は本当に最高。
エミリーの迷いながらもキャルを待っている感じ。思春期の気まずさにめげず真っ直ぐに行動するロビー。ジェシカの背伸びした一生懸命さ。そして、エミリーの浮気相手のデイヴィッドさえ、普通にいい人として描かれている。
どのキャラクターも優しく、魅力的に描いていて、とても幸福感のある映画だ。
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