映画

ヒア アフター -死のヴィジョンを通して描かれる喪失と疎外-

概要

3つ場所で3つのストーリーが紡がれる群像劇。

リゾート地で津波に襲われ、臨死体験によって死後の世界のヴィジョンを見るフランス人のマリー。死者と対話することができる霊能力を持つが、その能力によって孤独に苦しんでいるアメリカ人のジョージ。双子の兄を亡くし、その悲しみから立ち直れずに入るイギリス人少年のマーカス。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • 疎外感や孤独感を優しく包み込むような温かさがある
  • 死とどう向き合うかについて考えさせられる
  • スピリチュアルな内容ながら、宗教臭さやオカルト感がない

低評価

  • 後半へ行くほど尻すぼみする
  • スピリチュアル設定に乗れない
  • テーマやキャラクターの掘り下げが浅く退屈

ナニミルレビュー

オススメ度:B

こんな気分の時オススメ:スピリチュアルな映画が観たい時。孤独や疎外感が描かれた映画が観たい時。静かな雰囲気の映画が観たい時。

スピリチュアルだが宗教的じゃない

映画のラストでは、主要キャラクター3人は出会うことになるが、かなり終盤まで、それぞれのストーリーがバラバラに進行していく。

 

「霊能力」「死後の世界」のような、スピリチュアルで、見方によってはオカルトな要素が出てくるので、観る人によっては少し違和感のある映画かもしれない。

しかし、宗教的な要素が入っていない点と、何人かのインチキ霊能者を登場させることで、妄信的でオカルティックな雰囲気ではないバランスの映画になっている。なので、その理由で避けているなら、それはあまり心配しなくてもいいと思う。

 

孤独感、喪失感、疎外感

この映画で描かれているのは、スピリチュアルな要素というよりも、誰にでも共感可能な孤独感や喪失感、疎外感の方だと感じる。

静かなでどこか物寂しい雰囲気が漂う映画。

マリーは臨死体験から死後の世界へ傾倒していくことで、周囲から浮いてしまい、だんだんと疎外感を募らせていく。

マーカスは兄を失い、その喪失感からずっと抜け出せずにいる。

ジョージは、霊能力のせいで普通に人と関係を積み上げていくことができず、この能力のことを「呪い」と呼び、孤独感を抱えながら生きている。

 

通常の人生ではなかなかない経験をし、そして、一般的な人が持つことをできない感覚を経験してしまったマリー。

この経験によって、マリーは周囲の人間と同じ世界に生きていても、全く違うリアリティの中で生きることを余儀なくされる。

周りからどんなに浮いてしまったところで、それが現代的な客観性からは理解され難いことだと分かっていたところで、マリーにとっては、あのヴィジョンは現実の経験であり、それによって世界観が変わってしまっている。

ここにマリーの疎外感がある。

 

それはジョージも同じ。相手に触れると否応なしにヴィジョンが見えてしまう。つまり、普通の人と違う世界が、自分の意思とは関係なく見えてしまうのだ。

物理的には同じ空間にいても、周りの人と同じ世界に住んでいないに違いない。何しろ、他の人と同じことをしていても、彼はぜんぜん違う経験をしてしまうのだから。

そして、このマリーとジョージは最後に出会う。

この広い世界で、周りに多くの人間がいる中にあって、たった1人、自分と同じ世界を生きている人に、2人はようやく出会う。

 

死者に対する強い思い

ジョージとマリーのひときわ希少な感覚の一方で、この映画では、どれだけ多くの人が、死者に対して強い気持ちをいだき続けているかという一面も、同時に見せていく。

同じ死後の世界に対して、かたや全然周りに理解されない向き合い方をしている人がいて、かたや多くの人が死者がそこにいるかのように語りかけている。

この死者に対する強い思いを、映画の中で体現しているのが、兄を亡くしたマーカスである。

 

マーカスは兄を失った喪失感から逃れることができず、兄とまた話すため、霊能者を訪ねて歩く。

最終的にはジョージと巡り合うのだが、そこに辿り着くまでに、多くのインチキ霊能者たちのペテンにあう。

このシーンを見ていて思うのは、死者と話したいという人間の気持ちの普遍性だ。

どうして、インチキ霊能者がたくさんいるのか。それは、このインチキに賭けてでも死者と話したいと渇望する人が多いからに違いない。どんなに胡散臭くても、そこに一縷の望みをかける人の気持ちの強さがあるから、インチキはなくならない。

そう考えると、失った人に対する渇望の普遍性が浮かび上がってくる。

マーカスは兄の帽子をかぶり、誰も眠らない兄のベッドを用意してもらう。

そこには誰もいないのだから、これはインチキと変わらないわけだけど、でもそうやってでも、亡くなった人を心に感じていたいというのは、多くの人に理解できる感情だろう。

 

「死後の世界」というモチーフを通して、その世界を知ったがゆえに疎外される人と、そこに願いを託す人の物語。

霊能者が出てくるが、この映画が描いているのはスピリチュアリズムでも宗教でもなく、キャラクターたちの悩み多い人生と、死を通して描かれる人間の弱さと克服だ。

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