概要
母の期待に応えるべく美人コンテストに出場し続けるブリス。ブリス自身は美人コンテストに飽き飽きしているが、自分の中にやりたいことがあるわけでもなく、退屈な毎日を過ごしていた。
ある日、買い物に入った店でローラーダービーのフライヤーを置いていく女たちに出会う。興味を持ったブリスは親友を連れて試合に出かけ、すっかりローラーダービーにハマってしまう。
家族に隠れながらこっそりローラーダービー選手になり、メキメキと頭角を現していくが・・・。
見る前ポイント
王道の青春ストーリー。かっこいい女たちのサッパリした人間関係。暑苦しくないスポーツ物。明るい女子たち。母娘の信頼関係が揺らぐ。
レビューの印象
高評価
- チーム、友人、家族。主人公を取り巻く、温かくサッパリとした人間関係が描かれ、明るくポジティブな気持ちになれる
- 王道の青春ドラマながら、題材になっているのがローラーゲームで新鮮な面白さ
- 自分が熱中するものに出会える幸福感がよく描かれている
低評価
- ストーリーが想像通り
- 描かれる内容が多く、一つ一つのエピソードは薄めに感じる
- ローラーゲームをもっと掘り下げて欲しい
ナニミルレビュー
ローラーダービーの熱狂
田舎っぽい小さな町で暮らす高校生ブリス。母親の方針で美人コンテストに出場している。
美人コンテストに出場しているわりには、ブリスは冴えない高校生。本人が美人コンテストに熱意を持っているわけでもなく、かといって、母親に反抗する理由もないので、なんとなく母親の希望通りの娘を演じている。
この映画の見ドコロはなんと言っても、この冴えないブリスが、ローラーダービーと出会うことで、人生が一気に鮮やかになっていく充実感。
本当に夢中になれるものなんて、なかなか見つけられるものではない。
映画内でブリスのライバルとなる選手メイビンも「私は31になって、ようやく本当に自分が得意なものに出会えた」と語る。
運良く若くしてそれに出会えたブリスの興奮と、激しいスポーツであるローラーダービーの熱狂が見事に絡み合って、彼女の活躍する姿から幸福感が溢れ出している。
ローラーダービー自体、あまりメジャーなスポーツではないが、映画序盤でルール説明がちゃんと入る。
といっても、細かくルールを理解できなかったとしても、コンタクトスポーツならではのラフな楽しさをしっかり味わえる映画になっているので、スポーツ観戦が趣味でなくてもきっと楽しめる。
逆に、スポーツの技術云々よりも、このスポーツをする女性たちのワイルドなカッコよさを存分に見せる映画になっているので、技術面を期待するガチスポーツファンが観ると少しガッカリするかもしれない。
とはいえ、映画の中盤以降は、戦略を持ってコンボ技をバンバン決めていくシーンもあるので、スポーツの楽しさもちゃんと味わえる。
子の成長と親の視点
映画序盤では、ブリスは抑圧された思春期の女の子として登場する。
母親の期待に答えるために美人コンテストを頑張っているが、それが自分の本当にやりたいことではないと分かっている。
とはいえ、やりたいことが他にあるわけでもないから、なんとなくの毎日を過ごしている。
そこでたまたまローラーダービーに出会い、ブリスは成長していく。自分の夢中になれるものに出会い、そのためなら親にも反抗し、精神的に自立していく。
この映画は、どの登場人物も温かく描いている点が素晴らしい。(ブリスの彼氏は別かな。)
最初、抑圧者として登場する母親も、ブリスの成長を受け止めていく優しさを持っている。
ブリスの母は自分の過去を諦めきれず、娘に過度な期待をしてしまう弱さを持っている。がしかし、だからダメな母親としては描かれず、母も娘と一緒に成長していく姿を見せている。
この映画、観る人によっては、主人公のブリスよりも、思春期の子を持つ親の方に感情移入してしまうかもしれない。
娘のためを思っているのに、思い通りにならない娘。しかし、思い通りにしようとすることが間違っているのも分かっている。しかし、娘のためを思うと・・・、という母親の葛藤は、多くの人にとって共感可能なものだろう。
ケンカしたあとに、仲直りするシーンの気まずさと温かさ。そして、心から楽しそうに活躍している娘の姿を見る嬉しさ。
親の葛藤も、ブリスの青春と同じくらい面白いドラマになっている。
ワイルドな女たちのカッコよさ
少女の青春と家族の物語だけでも十分ストーリーとして充実しているが、この映画ではさらに、魅力的なのはローラーダービー選手の女たちのカッコよさまで堪能できる。
周りに媚びず自由に振る舞う選手たちは、ブリスが憧れたように、観客にとっても憧れの対象になるだろう。
終始ケンカ、取っ組み合い、罵倒合戦を繰り広げ、それでいてさっぱりとした人間関係は、清々しくて美しい。
ブリスが嘘をついていたことを告白した時、驚きつつも、「大うそつきでもチームの一員だよ」と受け入れ、「せめて代わりにマスコットになってよ」と笑い飛ばす。
また、ブリスのライバルであるメイビンも、嫌がらせをしてくる嫌な女と思いきや、実は卑怯なことをしないイケてるライバルだった。
チームメイトのマギーは、家出したブリスに両親と仲直りするように促す。一緒に馬鹿騒ぎできるワイルドな友人たちでありながら、責任ある大人としてもブリスに接する。この性格、距離感が本当に見ていて心地いい。
この映画では、こういうワイルドな女たちと対比的に、美人コンテストに出場するキャラクターも登場する。
選手たちのカッコよさをより際立たせたいのであれば、美人コンテスト出場者たちをダサく描いて見せることもできたはずだ。
しかし、この映画ではそうしない。
脇役だが、美人コンテストを頑張っているブリスの友人は、応援したくなるようなすごく良い子として描かれている。もちろん、美人コンテストコンプレックスの母親も、最終的には好意的に描かれている。
この映画のポジティブなエネルギーは、ある立場をよく見せるために他の立場を貶めることなく、どの立場の登場人物でも大事に扱っているところにあるのではないかと思う。
カッコよく、温かく、そしてアツい。希望に溢れる気分になれる素晴らしい映画だ。
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