映画

私がクマにキレた理由 -就活に悩む女性のセレブ観察記録-

概要

大学を卒業し、就職活動中にキャリアに迷ってしまったアニー。偶然公園である少年グレイヤーを助けたことから、彼の母親ミセスXにナニー(子守役)として雇われることになる。

雇われる前は優しげだったミセスXは、アニーがナニーになった瞬間に豹変。高慢でヒステリックな本性を表し、アニーは休日も関係なしにミセスXに振り回される。

ミセスXにはうんざりしつつも、素直で可愛いグレイヤーとはだんだん仲良くなっていく。そして彼と仲良くなってしまうほど、無関心な両親の元に残されるグレイヤーが可哀想で嫌な仕事でも辞められなくなっていく。

大学時代からの友人、有望な金融関係の会社への就職を望む母親、ナニーをしながら出会った彼氏にいろいろな意見を言われながら、アニーはナニーを続け、だんだんと自分が望むものを見出していく。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • 就活を機に自分を見つめ直そうとするが、結局周りに振り回されて苦悩する主人公に共感できる
  • セレブ生活の裏側をナニーの視点から描く設定が面白い
  • 人間関係を通して、主人公の成長や、主人公に影響を受ける周りのキャラクターの変化がしっかり描かれ、オーソドックスな面白さ

低評価

  • キャリア、格差、セクハラ、パワハラ、親子の関係不全など、テーマを盛り込みすぎている
  • キャラクターが定型的であまりリアリティがなく、ストーリーも先が読めてしまう
  • クライマックスのお返しが微妙で、カタルシスが弱い

ナニミルレビュー

オススメ度:B

こんな気分の時オススメ:キャリアに迷う主人公が観たい時。場違いな状況で奮闘する主人公が観たい時。醜悪なセレブを描く作品が観たい時。

良い点!

キャリアについての悩み、セレブに対する反感など、多くの人が共感しやすいテーマを扱っている。

基本的にニューヨークセレブの生態をコメディとして描いたストーリーではあるが、主人公アニーを通してヒステリックなセレブ女性に振り回される大変さがしっかり描かれている。

そして、そんな環境でも素直な子供と仲良くなっていく楽しさ、それによってこの最悪なキャリアから抜けられなくなってしまう板挟みのシンドさ、それが大爆発するクライマックスと、ドラマとしてしっかり展開していく。

そして、悪役であるセレブ妻ミセスXもまた、実は弱者であるという描かれ方がドラマにさらなる深みを与えていて素晴らしいと思う。

そんなに重たい映画ではないが、心底「子供が可哀想」と感じさせてくれるストーリーであり、しっかりメッセージ性を持った映画になっている。

イマイチな点・・・

ラストの展開がかなり強引だと感じる。

アニーの説教は、まさに正論で心打つものではあるけれど、ミセスXが中身もろくに確認せずあのセミナーに持っていくわけはないだろう。

あれは、大勢のセレブに若いナニー1人が説教をぶちかますというカタルシス展開のための、かなり御都合主義な展開だった。

あの場面の爽快感は間違いなくあり、だからひとつのシーンとしては素晴らしいのだが、そこへの持っていき方でストーリーとしてモヤモヤしてしまう。

感情的には爽快だが、ストーリーを追いかけている理性がモヤモヤする、という残念さがある。

セレブの生態観察

主人公アニーが、大学の副専攻で人類学を選んでいたという設定を活かして、この映画では登場人物を観察するようなアニーのモノローグが多く使われている。

アニーがミセスXにナニーとして雇われる、という事実を、ニューヨークセレブという種族の中に入って観察を行うフィールドワークとして描かれている。

アニーは全く異なる文化を持つある家族に入って、そこでの生活に適応しながら観察を続ける人類学者なのだ。

この「同じ国で同じ言語を話す人間なのに人類学の研究対象になっている」という舞台設定自体が、批判性を含んだコメディ的な設定として、この映画の面白さになっている。

もちろん、ミセスXの生活が全セレブを代表したものとは言い難いが、執着や高慢さに振り回される、セレブのある側面を憎たらしくも笑えるものとして描き出している。

アニーの就活モラトリアム

そもそもこの映画のストーリーは、労働者階級の母子家庭で育ちながら、優秀な成績で大学を卒業したアニーがキャリアに迷ってしまうことから始まる。

上手くいけば金融の大企業に勤められる可能性があったにも関わらず、本当にそれが自分のやりたいことなのか、そもそも自分はどういう人間なのか、そういう迷いが高じて、アニーは就活をストップしてしまう。

そのことが、母と娘の葛藤ドラマを生みつつ、アニーの自分探しのドラマにもなっている。

金融関係の高収入の仕事に就こうとしていたアニーが、お金持ちセレブの生活を垣間見ることで、「お金が大事ではない」と悟るドラマとして、上手い設定になっている。

そして、ナニーの仕事をしながらも、結局は人類学的なアプローチでセレブを観察してるアニーの本当の気持ちは、やっぱり人類学に対する気持ちだったのだ、という展開も説得力がある。

大学を卒業し社会に飛び出た若者が、迷いの中でイケメンとも出会い、母との葛藤も克服し、アイデンティティもクリアになっていく。短いモラトリアム期間をドラマチックに描いたコメディ映画になっている。

セレブ妻の苦悩

アニーの苦悩の種となるのは、セレブ妻ミセスXの横柄な数々の要求。

フィクションと分かっていても見ていてイラつく。この脚本を書いた人はよっぽど苦労したか、めっちゃ性格悪いかどっちかだ、と思わずにはいられない。

高慢ちきで、問題を直視できず、他人の事情は考えず、子供には冷たく自分には甘い。

ただ一方で、ストーリーを通してこのミセスXもまた夫婦関係で苦悩していることが描かれる。

夫はあまり家に帰らず、どうやら不倫をしているようで、たまに一緒に過ごす時間もそっけない態度。

だからミセスXも夫の気を引こうと必死だし、いつも満たされない気持ちでストレスフルに過ごしている。

アニーは賢い女性なので、このミセスXの苦悩にも共感し、彼女の苦悩が自分に対する攻撃に繋がっているのだと理解する(夫の不倫相手のランジェリーが見つかったシーンが象徴的にそれを描いている)。

ストーリー内で敵対者であるミセスXが、同時に救うべき相手でもあるという点も、この映画の面白さに繋がっている。というのも、ミセスXを救うことが、友人である子供グレイヤーを救う唯一の手段でもあるからだ。

とにかく、ミセスXの苦悩を通して、苦しみは依存や執着から生まれている様子が描かれている。執着するからこそ事実から目をそらし、攻める相手を間違え、大事なものを見失う。

その象徴として描かれるミセスXというキャラクターの存在も、この映画の大きな見ドコロのひとつだ。

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