映画

ノーカントリー -規律はあるけど道理がない男に追いかけられる恐怖-

概要

テキサスを舞台に、抗争で死んだ麻薬密売人から大金を盗んだモスと殺し屋シガーの追跡劇を中心に、2人を追う老保安官エドの複雑な心情が哀愁たっぷりに描かれる。

シガーはモスを追う中で、出会った人々を不条理に殺していく。モスはシガーの異常さを感じながら、知力と体力を使いながら、大金を抱えて必死に逃げる。

2人の争いの後を追うエドは、シガーの起こす殺人事件を目の当たりにしながら、自分の理解を超えた出来事に呆然とする。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • 殺し屋シガーの風貌、武器、言葉、どれも鮮烈でキャラクターとして力強い
  • 世界の不条理さを見せつけるストーリーが面白い
  • シンプルなストーリーながら、終始ハラハラさせられる演出がすごい

低評価

  • 何が言いたいのかよくわからない。雰囲気だけの映画に感じる
  • 警察の対応などを含め、世界観にリアリティを感じない
  • ストーリーが単調で、結末も納得できない

ナニミルレビュー

追跡者シガー

やっぱりこの映画の見所は、もはやアイコンと化している殺し屋アントン・シガー。

幽霊のようなオーラを発しながら、淡々と人を殺して歩く。武器や姿も特徴的だけど、シガーのオーラを味わい深いものにしているのは、彼の心の読めなさだと感じる。

シガーの淡々として迷いのない殺しを見ていると、固い規律を持っているキャラクターのように感じる。雑貨店の店主との会話でも、相手の言葉の中から曖昧な部分を執拗に指摘し、正確に言い直すように求めるシガー。

この厳密さと迷いのなさが、彼の超然としたオーラを醸し出しているのは間違いない。

ただ、シガーはただ超然としたキャラクターでもない。

例えば、突然窓から銃を出して橋の欄干に止まっている鳥を撃ち殺して、まったく無意味に殺しを楽しんでいる狂人のような振る舞いも見せる。

また、追っていた男の妻と会話するシーンでは、自分の会話ゲームに乗ってこない妻に対して、苛立ったりしている。

また何の恐怖心もなく、ひたすらターゲットを追いかけるシガーだが、反撃を受けて一時退散する場面もある。この瞬時に退散する判断もプロフェッショナルを感じさせるのだけど、同時に、生身の人間なのだという印象を強めている。

規律を持って超然としているが、衝動的に動いているように見える場面もある。無敵そうに見えているが、反撃で大きなダメージも受ける。出会った人々のうち、誰を殺して、誰を見逃すのかのルールもはっきりとつかめない。

この浮遊感がシガーのキャラクターに味わい深さになっている。

静かな攻防とトボけたセリフ

映画は全体的に静かなトーンで進んでいく。ほぼ音のないシーンも多く、張り詰めた緊張感の連続。

シガーの追跡に目を奪われるが、逃げるモスも勘が鋭く、工夫を凝らして逃げ回る。

この映画、「そーっと動く」演出の緊張感が素晴らしい。

ゆっくり額に武器を当てる。ゆっくりライトのスイッチを切る。ブーツを脱いで靴下でゆっくり歩く。ゆっくりと車の給油口に細工する。

その中に溢れる物音に耳を済ますキャラクターたち。観ているこっちもついつい呼吸を浅くして緊張してしまう。

そして、静かな時間を溜めて、大爆発が起きたり、けたたましく電話がなったり、ショットガンをぶっ放したり。

緩急が見事に配置されていて、最後まで緊張感が持続する。

また、そういう張り詰めたシーンの合間合間に、脇役たちの間抜けなセリフが挟み込まれる。

それは若手保安官ウェンデルのセリフだったり、シガーと話す店番の女性のセリフだったり、凄惨な殺人現場に運悪く居合わせた会計係のセリフだったりする。

陰惨で張り詰めた空気をベースとしつつ、ところどころコミカルな雰囲気が漂っているのもこの映画の魅力。

「Old Men」とは

原題の『No Country for Old Men』は、「老人が住める国はない」くらいの意味だそう。

ここでいう「老人」は、この映画ではベテラン保安官エドが象徴している、「古き良き時代の人」というくらいの意味だと思う。

エドのセリフから察するに「古い良き時代」というのは、だいたい物事が理解の範囲に収まってくれていた時代、ということになるだろう。

だから、このタイトルを意訳すれば「もう何がなんだか分からんことが起こるよね。年老いた俺にはついていけんわ」ぐらいの意味になると思われる。

この映画を観ていると、「あそこでああしてなければ・・・」という後悔の念が何度も湧き上がってくる。

最初の殺人現場に降りなければ。カバンを持ち帰らなければ。善意の行動なんてしなければ。もっと慎重に車を隠していれば。さっさとカバンの中を確認していれば。シガーの申し出を受け入れていれば。

そして、シガーが人を殺したり殺さなかったりする様子を見ていると、「ああ言えば殺されずにすんだのではないか」「こういう態度なら良かったんじゃないか」と、いろいろ考えてしまう。

そして、この「こうすれば防げた」「こうすれば上手くいった」という感覚が、「Old Men」の感覚なのだ。物事には道理があって、正解すれば命が助かるり、死んだのは不正解の行動を取ったから、という感覚。

そして、コイントスを象徴として、それを鮮やかに否定するのがアントン・シガー。

最後、モスの妻との会話の中で、「決めるのはコインじゃなくて、あなたよ」と言われると「俺はコインと同じ道をたどってきた」と返す。

これは一見すると、「シガーはそうかもしれないけど、自分は意志に従って生きてる」と撥ね付けたくなるような物言いだ。

しかし、自分がどんなに道理のある人生を生きていたって、シガーが目の前に現れるかどうかを決めることはできない。シガーが目の前に現れたら、自分の生死はそのシガーの手に握られてしまう。

恐らくここでシガーが象徴しているのは、いつでも常に道理に従わない何かが自分の人生に入ってくる可能性があるということだ。

これは自然災害で考えれば分かりやすい。

シガーは嵐のようにやってきて、誰かは殺して、誰かは殺さない。あとには凄惨なシーンが残っていて、Old Menにそれは理解できない。

そして、事件が終わったあとになって、「ああしてれば助かったかもしれない」「あそこで選択を間違ったのかもしれない」と理由を考える。

そこには多くの後付けの理由がある。前もっては分かりようがなかった理由がある。コイントスの結果が、前もっては分からないことと同じように。

後悔の念は尽きないけれど、多分モスがどんな行動をとっていても、映画の結末は変わらなかったんだろうという余韻がある。そしてシガーさえも想像できない自体に巻き込まれてしまう。

 

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