概要
アルバカーキに住むあるフーヴァー家。7歳の娘オリバーがカリフォルニアで開催される美人コンテストに出場することが決まり、両親、祖父、兄、叔父の一家6人でワゴンに乗ってカリフォルニアに向けてのドライブが始まる。
出発して早々、ワゴンのクラッチが壊れ、発進の際には家族全員で車を押しながらエンジンをかけなくてはいけなくなる。さらにさまざまな困難は続き、家族はケンカし、慰め合いながら美人コンテスト会場を目指す。
レビューの印象
高評価
- 1人1人が問題を抱えながらも、家族の関係を再生していく暖かいストーリーが感動的
- 重い問題を描きながらも、コミカルさとのバランスが良く、笑いながら泣ける
- 勝ち負けに固執した価値観を解きほぐすメッセージに共感できる
低評価
- 家族それぞれの問題を描くことで、詰め込み過ぎ感、作り物感がある
- 序盤の展開が遅く感じる
- クライマックスでの家族の行動に乗れない
ナニミルレビュー
オススメ度:A
こんな気分の時オススメ:家族が絆を取り戻すストーリーが観たい時。面白い設定のロードムービーが観たい時。明るく楽しい映画が観たい時。
全体的なレビュー
最後まで飽きずに見られる緩急ついたストーリー、アイコン的で見ていて楽しい映像、敗者を優しく受け止めつつ挑戦の大事さを訴えるようなメッセージ。
「勝敗」について考えさせる全体のメッセージと、「美人コンテスト」というモチーフがよく合っている。またロードムービーならではの要素も家族ドラマに上手く溶け込んでいる。
アイコンになっているワゴンをめぐるいろいろなトラブルも、人生における苦難のメタファーとして見られる。メッセージを映画的アクションに込めたストーリー、演出もすごい。
1つのストーリーとして楽しめる完成度の高いのエンタメ作品であると同時に、いろいろ読み込みがいのある設定やアイテムが蛇足感なく使われていて、本当に上手い脚本だと思わせられる。
序盤でそれぞれのキャラクターの問題が示され、旅に出てからピンチの連続。そして何より、笑いながら泣けるクライマックスのダンスシーン。
家族を描いたコメディ映画として、すでにクラシックだと言える。
勝負の価値
「美人コンテスト」がメインストーリーの目的であることから分かるように、この映画は「勝負」というモチーフを中心に展開して行く。
美人コンテストで勝ちたいと思っているオリーブ。自身の自己啓発アイデアで勝利への道を説いているリチャード。空軍アカデミーへ行くという目標のため脇目も振らず鍛錬を続けるドゥウェイン。
この3人に対し、キャリアと恋愛の敗北から自殺未遂を犯したフランクが、新しく家族に加わるところからストーリーが始まる。
ストーリー全体を通して、勝つことだけにこだわる生き方をたしなめる内容である。同時に、勝負が悪いと言っているわけではなく、挑戦の大事さを否定してはいない、というバランスになっている。
ストーリーを通して、勝負に挑んだ3人は全員敗北する。
リチャードは出版の契約が頓挫し、ドゥウェインは色弱であることが分かってパイロットの夢を断たれ、オリーブは場違いなダンスでコンテストを退場させられる。
ここには三者三様の敗北が描かれている。
リチャードの敗北は、努力が及ばなかった、世間に認められなかったという敗北。
ドゥウェインの敗北は、自分の努力に関わらず、持って生まれた体質のせいで夢を断たれるという敗北。
オリーブの敗北は、自分の特性と勝負場所がズレていたがゆえの敗北。
リチャードが出版を断られ途方に暮れていると、祖父はリチャードの肩に手を置いて、「結果はどうあれ、チャンスに挑戦したお前を誇りに思う」とリチャードを慰める。リチャードは始め、普段いい加減な祖父の言葉に生返事で聞き流そうとするが、それでも最後には心動かされている。
ドゥウェインの夢が断たれ、パニックのドゥウェインが道端に座り込んで動こうとしないとき、オリーブがドゥウェインの肩を抱き無言で慰める。それまで頑なに動こうとしなかったドゥウェインは「分かった」と言って再びバンに乗り込む。
これらのシーンを通して、負けた後に支えてくれる人の存在の大事さ、暖かさが描かれている。
ここに、負けても受け入れてくれる人がいれば、人間は立ち直れる、というメッセージが込められている。
映画冒頭から、「勝利のためには〜」「勝者と敗者の違いは〜」と説教を繰り返すリチャードは、家族からめんどくさい奴として見られている。
つまり「勝ちにこだわる奴」を疎ましい人間として描いている。
でもこの映画は同時に、勝負に出ることを否定していない。
コンテストの前夜、オリーブが祖父に「負け犬になりたくない」と弱音を吐くシーンがある。祖父はそこで「本当の負け犬は、負けが怖くて勝負しない奴だ。お前は勝負してるから、すでに負け犬じゃない。明日は楽しめ」と言ってオリーブを励ます。
この映画は、「勝ち」ではなく「挑戦」を肯定する。
そう考えると、意外にもリチャードをドン底に突き落とす男であるグロスマンは、映画のメッセージに沿ったセリフを言っているのに気づく。
必死に売り込んだがリチャードの企画を買う者はいなかった、と説明するグロスマンに、リチャードは「それで終わりか?」と食ってかかる。
グロスマンは、「そうだよ。次のアイデアに進まなきゃ。この企画では勝てない(It’s time to move on! You are not gonna win this one.)」とリチャードに答える。
グロスマンは厳しいが、正しいことを言っている。
そのシーンでは、リチャードは自分の企画に固執し、グロスマンとケンカ別れする。
しかし、ラストでドゥウェインが悟ることと、ここでグロスマンが言っていることは同じだ。
色弱のため夢破れたドゥウェインは、「空軍アカデミーがダメなら、自分で飛ぶ方法を考え出してやる」とフランクに語る。ドゥウェインはここで、次のアイデアに進む決意をしている。
勝つことが大事なのではなく、挑戦し続けることが大事。これがこの映画の核にあるメッセージである。
だからこそこの映画は敗者を描いている。敗者を肯定的に優しく描き、「負けても大丈夫。だから挑戦しよう」と観客に語りかけてくる。
ちなみにオリーブ。
オリーブが挑む美人コンテストは、小さな少女たちが大人に媚びる演技をする場として、明らかに気色悪いものとして描かれている。だからこそリチャードとドゥウェインはオリーブを辞退させようとする。
結果的にオリーブは、オリーブらしさを発揮してコンテストから退場になる。この展開には「ここで勝たなくていい」という主張が読み取れる。
この映画は、ミスアメリカの受賞シーンを憧れの眼差しで見つめるオリーブの視線から始まる。オリーブは受賞の瞬間を巻き戻して、受賞の瞬間(勝利の瞬間)だけを繰り返し見ている。
つまりオリーブは、ミスアメリカに憧れているのではなく、「ミスアメリカという勝利」に憧れている。
表面的な成功のイメージに熱狂し、内実を無視している。ミスアメリカが何を評価されているのか、ミスアメリカに何の価値があるのかは知らないまま、とにかく上っ面の成功に目を奪われている。
だから負けて当然だ。
これはオリーブの子供らしい失敗だが、実は多くの大人もやりがちな間違いではないだろうか。
リチャードは成功への9ステップを売り込んでいる。それはメソッドであって、「何に成功するか」「成功することの価値は何か」は問わない。
具体性のない抽象的な「成功」や「勝利」を追い求めるという間違いは、大人になってもやりがちだ。
この映画は「その勝負に勝つ価値が本当にあるの?」と問いかけてくる。
敗者を優しく受け止めながら、挑戦の大事さを説き、同時に、そのことに挑戦する価値を見定める必要性を訴える。
物とアクションとストーリーの合致
この映画は、家族が乗るクラッチの壊れたワゴンがアイコンになっている。
このワゴンは、運命共同体としての家族の象徴になっている。
さらに、クラッチが壊れ、発進の度に家族全員で車を押さなければいけない、というのもポイントになっている。
この設定には、「再出発の際、最初が一番大変だ」という人生全体に通して言える教訓が込められている。それを、アクションとして視覚的に物語っている点が、この映画の優れたところだ。
ワゴンの再出発は、人生における再出発のメタファーである。
ストーリー上でも、いくつものトラブルに見舞われて、ワゴンは何度も立ち止まることになる。そしてその度に、家族は協力してワゴンを押し、再出発する。
この設定のおかげでアクションとして面白い映像になる上に、「車を停車する」という簡単な出来事に緊張感が生じている(特にコンテスト会場にノンステップで入場するシーンはこの設定がなければ描けない)。
そして、メンタルにダメージを抱えるフランクが、最初にワゴンを押して車を発進させるシーンで、達成感から少し明るい顔になっている。フランクは旅を通して少しずつ生きる力を取り戻していくが、その最初のきっかけが、ワゴンを押す高揚感である。
複雑な事情で苦しんでいたフランクは、ワゴンを押して発進させるという単純な成功を足がかりに、少しずつ元気を取り戻していく。とにかくスモールステップから、という回復の道もここで示される。
また、途中でオリーブがガソリンスタンドに置いていかれてしまうという事件が起きる。
その直前、リチャードは出版が頓挫したという連絡を聞いて失望し、シェリルもその話に怒る。フランクも元恋人と偶然再会して思いつめ、険悪なムードで車を走らせる。
ドゥウェインがオリーブが乗っていないことに気づいたことで、ワゴンはUターンしてオリーブを拾う。
ここは単純にコメディシーンでもあるのだが、同時に、「大人の事情で頭がいっぱいになり、子供の存在を忘れてしまう」という象徴的なシーンにもなっている。
普通に考えて、子供の存在と仕事の成功、どちらが大事かと言われれば、「子供」というだろう。しかし、頭がいっぱいになっていると、その単純な優先順位がおかしくなる。
ちなみに、このガソリンスタンドで祖父がフランクに買わせたエロ本は、映画後半で警官にワゴンを止められてピンチに陥った際、目くらましになって家族を救ってくれる。
魔法のように、祖父は最後にエロ本を使って家族を守る。あのエロ本は、家族を見守る祖父の存在を象徴している。
このようにいろいろいな要素が、直接的にストーリー的な意味を持ちながら、それ以上の意味を持つアイテムになっていたり、意味がアクションとして表現されていたり、それがそのまま緊張感やコメディを作っていたりして、とても上手い。
そもそも「勝負」について語るストーリーで、「美人コンテスト」をモチーフにしていることも、とても象徴的だ。
個性的なキャラクターや、後半に畳み掛けてくるピンチの数々など、エンタメストーリーとしてよくできているが、それ以上に、その楽しいストーリーにさまざまな象徴的な出来事やモチーフを組み込んでいるところが、この作品の本当に素晴らしいところだ。
泣けるコメディ
コメディドラマにおいて、最も泣けるシーンと、最も笑えるシーンが同一シーンというのは、かなり得点が高いと個人的に思っている。
その意味で、本作のクライマックスの家族でのダンスシーンは、ほぼ最高得点と言っていいシーンである。
美人コンテストの出場は、「子供にはいろいろ挑戦させるべき」という考えと、「大人は子供を守るべき」という考えがぶつかる場面である。
リチャードとドゥウェインは、オリーブを守ろうとして出場の辞退を提案する。シェリルはオリーブ自身に選択させ、オリーブは出場を決める。
この時点でオリーブがトラウマを持つことは不可避かと思われたが、最後の最後、家族は自らも一緒にオリーブと同じ恥をかくことでオリーブを守る。
(映画『アバウト・ア・ボーイ』の文化祭シーンと同じ展開である。)
このシーンには全てが詰まっている。オリーブの希望を叶え、大人たちが自分の殻を破り、家族が結束し、虚飾にまみれた美人コンテストを本当の家族愛でぶち壊す。
本当にすごいシーンだ。
この映画は、コメディ演出が優れている。
緊張感のあるシーンで、緊張感をぶち壊すちょっとした要素を足してクスリと笑わせる。
最初のディナーシーンで、どうやってカリフォルニアまで行くかで家族が険悪なムードになっていると、大はしゃぎのオリーブがリビングを横切っていく。
フランクが元恋人と偶然出会う気まずいシーンでは、祖父に頼まれて買ったエロ本を見て、元恋人が気まずそうに去っていく。
モーテルでリチャードとシェリルが大ゲンカになるシーンでは、隣室のドゥウェインが嬉しそうにほくそ笑んでいる顔を写す。
祖父が亡くなったという報告を受けてしんみりするシーンでは、深刻な顔で報告した医者が、その直後ぶしつけな怒鳴り声で担当者を呼ぶギャップで笑わせる。
警官に止められる緊張感のあるシーンでは、「ぷぅおぉぉぷぷぉー」という間抜けなクラクションの音が終始鳴り響いている。
ただ、リチャードがグロスマンと対峙するシーンと、ドゥウェインが自分の運命と向き合うシーンだけはシリアスに演出されている。
多くの困難を描きながら、コミカルな全体の中に、シリアスな場面もメリハリを効かせながら配置している。
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