概要
プロテニスプレイヤーを引退したクリスは、テニスクラブのコーチの仕事を通して、富豪の息子トムと出会う。クリスはトムの妹クロエと付き合い始めるが、実はトムの婚約者ノラに夢中。
ほどなくクロエと結婚し、セレブの仲間入りを果たすクリスだが、トムと破局したノラと不倫関係になる。
だんだんと泥沼化するノラとの生活に悩んだ末、クリスは、この状況を解決するためのある方法を考える。
観る前ポイント
運命に振り回されるキャラクター。勧善懲悪じゃないひねくれた作品。しょうもないだめだめイケメン。セレブ生活。
レビューの印象
高評価
- 象徴的なシーンやセリフが散りばめられており、「読む」楽しさがある
- 人生についての強烈な皮肉が込められており、ブラックなユーモアがある
- 嘘で嘘を塗り固めてしまう主人公の息苦しさがよく伝わる
低評価
- 身勝手な主人公に振り回される女性たちが可哀想で不快
- テンポが悪く、エピソードの繋がりや流れも唐突で、なにが言いたいのかよく分からない
- 主人公の行動が間抜けすぎて共感できない
ナニミルレビュー
ポジティブ
ロンドンセレブの優雅な生活を見せながら、主人公クリスのサクセスストーリーと、泥沼化していく不倫を、軽妙な雰囲気で描いている。
リアルというよりは寓話的な雰囲気が漂う見心地の映画。人生における「運」という要素をシニカルコメディとして描いている点が面白い。
やたらと仕事や家族との関係で成功していくクリスと、一方で泥沼化する不倫相手との関係。
もしも妻より先に不倫相手に出会っていれば、もしもセレブ一家に気に入られていなければ、もしも結婚をもう少し待っていれば、もしもバカンスが延期にならなければ。
観終わった後、そんな「もしも」が頭の中で湧き上がってくる後味の映画。
ネガティブ
リアリティを求めて観ると、この映画の寓話的な雰囲気は嘘くさく感じてストーリーに乗り切れないかもしれない。
キャリアと不倫の板挟みになるという展開もすごく新鮮というわけでもないし、キャラクターの行動も深みがあるわけでもない。さらにオチにカタルシスがあるような映画でもない。
そこも含めて、この映画で描かれている「運に左右される人生のしょうもなさ」を笑って観られないと、退屈で不道徳な嫌な後味の映画に感じてしまうかもしれない。
シニカルに描かれる「運」
映画冒頭、ネットに引っかかって跳ね上がるテニスボールで映画が始まる。そのボールが相手コートに落ちるか、自分のコートに落ちるかで、勝敗が決まってしまう。そこにプレイヤーができることはなく、ただ無力に結果を待つしかない。
ストーリーを通して描かれるのは、この「運」で決まって行く人生と、そこに振り回される人間のしょうもなさ。
主人公のクリスは、元プロテニスプレイヤーのイケメンで、「何か人生をかけられる仕事がしたい」と言いつつ、結局はセレブ娘に気に入られ、セレブ一家に婿入りし、その贅沢な生活に取り込まれてしまう。
クリスは運が良すぎたせいで、自分の意志で生きて行くタイミングを失ってしまった。
そして、そのセレブ家族との幸運な出会いが、同時に後々不倫相手になるノラとの不運な出会いも引き起こす。
そして、そこでちょっとした浮気で済んでいたらまだ良かったものを、クリスが結婚した後に、ノラは婚約者と破局する。これは意中の相手がフリーになったという意味では幸運であり、不倫の引き金を引いたという意味では不運だった。
そうやって絶えず動いて行く状況に、動物的な欲望で飲み込まれて行くクリス。そして、そんなクリスの運命も、運によって左右される映画の結末。
人生運次第、何があるか分からない。そして運次第で、人はなにをするか分からない。さらに運次第で、それがどういう結果に繋がるかも分からない。
エンタメストーリーにお決まりの勧善懲悪や、ベタなカタルシスを逆手にとって、モヤモヤした人生の一側面を描き出すシニカルなコメディが面白い。
クリスのダメダメ加減
運に翻弄される男として描かれる主人公クリスのダメダメ加減もこの映画の面白さのひとつだ。
プロの重圧に耐えかねてキャリアの変更を決めたクリス。最初こそ「何か人生をかけられる仕事をしたい」と話している。
しかし、セレブのトムと出会い、その妹クロエと結婚し、生活が上向いてくるとどんどん初心を失って行く。
ビジネスに興味はないと言いながら、クロエに勧められて父の会社で働き始める。いい役職につけたいからビジネススクールに通わないかと父に提案され、断るものの、結局スクールに通っている。
そして恋愛に関しても、ノラに恋をしているにも関わらず、彼女がトムの婚約者であることを理由に諦める。しかし、2人が破局したと知れば迷わずノラに電話番号を聞いて不倫をスタートする。
そしてある偶然の出来事をきっかけにノラとの関係が悪化し、生活を脅かされたクリスはあたふたとある行動を取る。
自分で何かを決めて責任を取りきれないまま、ズルズルと泥沼にはまっていき、その尻拭いは運によってなされるクリスの生活。
この間抜けなダメダメ加減も、この映画のスパイスになっている。
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