概要
主人公のユーリーはウクライナ生まれでアメリカへ移民として移り住み家族と暮らしていた。
豊かとは言えないまでもそこそこ平和に暮らしていたユーリーら家族。しかし、ユーリーはある日、偶然ギャングの抗争の現場に立ち会ってしまう。
その経験によって武器に魅了され、彼の武器商人としての人生が始まる。
レビューの印象
高評価
- 武器商人とその悪をテーマにしながら、堅苦しくない見易いストーリーに仕上げている
- 主人公が「必要悪」として描かれることで、社会について考えさせられる
- 突き抜けた主人公が魅力的
低評価
- ナレーションが多く、主人公も共感しにくいキャラクターなので、ドラマとして楽しめない
- 主人公の人間性や人間関係にあまりリアリティがない
- サクセスストーリーとしてはやや淡白
ナニミルレビュー
オススメ度:B
こんな気分の時オススメ:社会の裏側を描いた作品が観たい時。悪とされている側を主人公にした作品が観たい時。
武器商人のサクセスストーリー
いわゆる裏稼業やマフィア物映画の形式でありつつ、そういうジャンル映画とはまた違う雰囲気が漂う不思議な映画。
小さな取引から武器商人を始め、正攻法では大物に太刀打ちできないことを悟り、裏取引に手を染めるユーリー。
この分野に才能があったユーリーはメキメキとビジネスを大きくし、金の力を借りて憧れだったモデルの女性と結婚。子どもも生まれ、順風満帆の人生を謳歌する。
しかし、迫る捜査の手。さらに、ビジネスでトラブル。結局は妻にも愛想を尽かされ、両親にも勘当されてしまう。
マフィア映画などでよく見るパターンの展開である。
ただ、少し違う雰囲気があるのは、ユーリーがほとんど1人で仕事をしている点が大きく影響していると思う。
最初は弟と組んでいるのだけど、序盤で弟が脱落。そのばその場でビジネスパートナーを見つけつつも、基本的にはユーリー1人の個人ビジネスとして武器商人稼業が描かれている。
この、完全にビジネスマン然とした雰囲気がマフィア物のキャラクターとは違う。
ファミリーも作らないし、権力も持たない。ただビジネスに必要なときにだけ賄賂を払ったり、チームを作ったり、フリーランサーとしてビジネスマンに徹している。
そして、映画の結末も少し違う。
だいたいのマフィア映画だと、ラストで主人公は死ぬか投獄されるか、第三国に高跳びしたりする。もしくは捜査協力と引き換えに釈放される代わりにマフィアからは足を洗うとか。
しかし、この映画のオチはそうではない。
マフィア映画のようにユーリーも犯行が明るみになり逮捕されてしまう。しかし釈放される。なぜか。
この結末こそが、この映画の一番大きなメッセージになっている。
武器商人トリビア
映画は、1980年代から2000年代までを舞台とした、ユーリーのライフストーリーとして進んでいく。
出てくる舞台はアメリカからロシア、中東、アフリカなど、さまざまな地域に渡る。ユーリーはまさに、グローバルに活躍するビジネスマンだ。
武器商人のビジネスがどういう風に行われているのか。全く知識がない人間がこの映画を観ていると、「そうなんだ」と思うような話がいろいろ出てくる。
例えば、軍隊が撤退したあと、国は武器を輸送するコストを節約するため、武器を放置したままにすることがあるそう。そこに武器商人が駆けつけ、賄賂を渡しながら安く武器を買い、それを売る。
現在もこんなことがあるのか分からないが、確かに有り得そうな話だと思う。この映画はフィクションだが、取材に基づいて製作されているらしいので、実際にこういうことがあったのだろう。
もうひとつ、分かりやすい例としては、1991年のソ連崩壊の直後、ユーリーはウクライナへ向かい、倉庫に眠る大量の兵器を買い取る。
情勢が不安定になれば、国が武器を正確に管理できるはずもないだろうから、こういう形で大量の武器が世界に漏れていくことは、言われてみれば納得せざるを得ない。
生活の保証がなくなれば賄賂を受け取る役人も増えるだろうし、そうなれば取引も輸送も簡単だ。
そして、よく聞く「カラシニコフ(AK-47)」の流通や、なぜ素人でも名前を聞いたことがあるほど重宝されているのかも、ユーリーが説明してくれる。
1人の野心を持ったビジネスマンのサクセスストーリーでありながら、マフィア物のような犯罪の雰囲気を持ち、社会問題をテーマとした考えさせられる面白い映画。
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