映画

サイドウェイ -信念ゆえに孤独になってしまう男と、その親友と、希望の女性-

概要

教師をしながら小説の出版を目指す生活を送るマイルズ。結婚を控えた親友ジャックのため、マイルズは男2人でカリフォルニアに出かけ、そこでワイナリー巡りとゴルフをしながらゆっくりと過ごす1週間の旅を計画する。

しかし、俳優でプレイボーイのジャックは、結婚前に女とヤルことしか考えておらず、離婚して2年経つマイルズも女性と楽しむべきだと主張する。ジャックはワインのテイスティングもそこそこに、ワイナリーで働く女性ステファニーをナンパし、マイルズの友人マヤも誘って、男女で楽しい時間を過ごそうと行動する。

男2人でゆっくりと過ごしたいマイルズと、 独身最後の時間を最大限楽しもうとするジャック。2人はケンカしつつも楽しい時間を過ごし、マイルズもだんだんとマヤに対して積極的になっていく。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • 自尊心が高く人生が行き詰まっているマイルズに共感する
  • 主人公2人の性格の対比が面白く、2人の適度な友情が心地いい
  • ワイナリー巡りをする観光と、その途中で巻き起こるロマンスのちょっとした非日常感が楽しい

低評価

  • 期待したほどワインについての話がない(逆に多すぎるという意見もある)
  • ワイナリー巡りに加え、主人公2人の話を盛り込んでいるので、焦点がぼやけている
  • マイルズの優柔不断さが焦ったくてイライラする

ナニミルレビュー

オススメ度:A

こんな気分の時オススメ:友達と旅するロードムービーが観たい時。哀愁のある主人公を観たい時。完璧ではない人生を受け入れたい時。愛すべきダメなおっさんを観たい時。

良い点!

マイルズは、丁寧で趣味がよく、豊かな感性を持っている。しかしそれゆえに、慎重でネガティブになってしまう。その孤独感や疎外感がよく描かれている。

親友のジャックはまさに正反対。人間的に欠点の多いジャックだが、そんなジャックの方が上手く楽しく人生を過ごしている。

テキトーなことばかりやっているのに、結果的に幸せな家族に迎えられるジャック。対してマイルズは、真面目にコツコツやっているのに報われない。

信念を持って生きているがゆえに、安易な幸せに飛びつけず、孤独感に苛まれるマイルズ。彼の苦悩が、彼の人間的弱さも踏まえて、悲しくもコミカルに描かれている。

そして、そんなどん底のマイルズにふわりと希望を残して終わる上品なラストも素晴らしい。

イマイチな点・・・

マイルズにしてもジャックにしても、模範的な良い男ではないので、マイルズのうじうじっぷりに辟易としたり、ジャックの奔放さに腹を立ててしまうと、あまり楽しく見られないかもしれない。

マイルズとジャックの対比

考えすぎて何もできないマイルズと、ラフに行動して行動しながら考えているジャック。

この2人の対比は、ギャグでもありながら、同時にマイルズの惨めさを際立たせてもいる。

 

マイルズの臆病さは、単に気が弱いという性格の問題ではなく、賢さゆえに臆病になってしまっている。

マイルズは、賢いからこそ自分の実力に根拠のない自信が持てず、賢いがゆえに周囲の人間の思考に先回りして考え、結果的に臆病で何もできなくなってしまっている。

ただでさえ慎重なマイルズが、結婚に失敗しているのであれば、新しい恋愛に対する臆病さも理解できる。

マイルズは2年前の離婚から立ち直れず、小説家としてのキャリアもあまり順調ではない。つまり、仕事もプライベートも上手くいっていない。

上手くいかないからエネルギーが充電できず、エネルギー不足がゆえに新しい挑戦にもなかなか手が出ない。そんな行き詰まり感が、マイルズからは漂ってくる。

 

マイルズが考えすぎて行動できないタイプとすれば、ジャックは行動してから考えるタイプだ。

ジャックの行動で象徴的なのは、ナンパした女性に殴られて鼻を怪我してしまった時、車をわざと木にぶつけて、交通事故に見せかける計画を考案するシーン。

ジャックは考えなしだからこそ、殴られて怪我をする。しかし、そこで思考停止するのではなく、それを乗り越えるために新しい計画を考え、何のためらいもなくそれを実行する。

その作戦は上手くいき、結果的にジャックは全てを手に入れる。

状況に応じて考え行動し続けるジャックは、それはそれで賢いとも言える。

 

マイルズは、ジャックに励まされたり勇気付けられたりする。実際ジャックの励ましによって、マイルズは1人ではできないような行動に出たりもする。

そこには友情がある。

同時に、テキトーな行動にも関わらず、全て上手く収めて人生を謳歌しているジャックの姿は、何もできずに孤立しているマイルズの惨めさをより際立てる。

旅から帰ってきて、さんざん勝手したあげく家族に暖かく迎えられているジャックと、ジャックに振り回されてボロボロの車で孤独に帰っていくマイルズの対比は、とても印象的である。

マイルズの信念と苦しみ

マイルズを通して描かれているのは、人間の持つ矛盾した感情である。

マイルズは、安易な成功や単純な人間関係から得られる幸福に価値を感じていない。しかし、だからと言って、それが羨ましくないわけではない。

本当に欲しいものではないんだけど、でも、それを持っている人のことは羨ましい。そういう人間のおかしな本性が、マイルズというキャラクターによって浮き彫りにされている。

 

映画中盤、マイルズがぶどうの品種「ピノ」と「カベルネ」について語るシーンがある。

ここで「ピノ」はマイルズのことであり、「カベルネ」はジャックのことである。

「ピノは繊細で、気まぐれで早熟。手がかかり、育てられるのは限られた土地だけ。カベルネは強くて放っておいても育つ」

どこにでも順応し生きていくジャックと、限られた場所でしか真価を発揮できないマイルズ。

「忍耐強く、可能性を信じて時間をかける者だけが、最高のピノを育て上げ、魂を溶かすようなフレーバーを手に入れられる。カベルネは力強くて華やかだが、僕にはつまらない」

ここにマイルズのこだわりが滲み出ている。マイルズは簡単に手に入れられるような成功には興味が持てない。

マイルズは、ジャックの人生に起こるような成功や幸福にはそこまでの価値を感じていない。マイルズには自分が手に入れるべき幸福が分かっている。

しかし信念としてはそうでも、目の前で楽しそうに過ごしているジャックを見て、なんの感情も湧かないわけがない。

このマイルズの矛盾こそ、この映画が本当にうまく描いている人間のおかしさだ。

家に帰るジャックを見送る時の、マイルズの寂しそうな表情に、その複雑な心境が表れている。

 

さらに悲しいのが、そんなマイルズの信念も、ストーリーの中で挫折させられてしまうこと。

自分の信念と感情の間で板挟みになるかのような息苦しさ。さらにのし掛かってくる上手くいかないキャリアや、元妻の再婚。

挫折の中で、価値の根拠を見失っていくマイルズの辛さがじわじわと伝わってくる。マイルズが本当にどん底に落ちていく様子がよく描かれている。

希望としてのマヤ

そんなどん底のマイルズの希望としてマヤが登場する。

マヤはマイルズのこだわりを理解し、彼の「真価」を見ている数少ない理解者。

 

この映画のストーリーが面白いのは、マイルズがマヤと良い関係を築けたのは、ジャックのナンパのお陰だということ。

マイルズが救われる可能性を作ったのは、旅の途中、自分勝手にマイルズを振り回しまくったジャックなのだ。

ここに、親友という存在の奇妙さがある。ジャックはマイルズを惨めにもし、同時に救いの種も与える。

 

そして、最後の最後は、マイルズは自分の意思で、自分1人である行動をとる。

そして、かすかな希望の香りを残して、映画は終わっていく。

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