概要
保険会社で働くルーベンは異常なほど慎重な性格。新婚旅行で妻に浮気され、傷心で1人帰国する。友人に誘われて出かけた展覧会で、給仕として働く同級生ポリーと再会する。
ルーベンは傷心から立ち直るためにポリーにアプローチし、2人のロマンスがはじまる。
慎重なルーベンと対照的に、自由奔放で大らかなポリー。最初はチグハグだったデートもルーベンの努力によってだんだんと上手く行き始める。そんな矢先、浮気したルーベンの妻が2人の前に現れ、ルーベンとよりを戻したいと迫る。
ちょっと下品なギャグも挟みつつ、温かな恋愛を描くロマンスコメディ。
!!これより下はネタバレの可能性があります!!
レビューの印象
高評価
- 主人公が相手に合わせて健気に頑張る姿が微笑ましい
- 変人キャラの脇役が魅力的
- 現実ではなかなか難しい理想のカップルが見られる
低評価
- ヒロインの印象が薄く、自由人というキャラがいまいち弱い
- 意外性がなく、内容が薄い
- ロマンスとコメディのバランスが中途半端
ナニミルレビュー
「正反対の性格の2人の恋愛を描く」というキャッチーな設定のロマンス。ストーリーもシンプルで王道感のあるハッピーな映画だが、ときどき下品なギャグをスパイス的に挟んでいる。
設定は面白いと思うのだけど、全体的に掘り下げが浅いというか、なぜ2人が恋に落ちるのかに納得感がなく、結果、ルーベンの努力や、妻が帰ってきてからの葛藤も取ってつけたような展開に見えてしまう。
またサブキャラとして、落ちぶれ俳優の親友や、保険のクライアントが登場するが、どちらもポリーに似て破天荒なタイプというか、ルーベンと逆の性格の2人である。
これによって、ポリーのキャラが薄まっている。また、ポリーとの恋愛同様「なぜルーベンの親友がこの男なのか」という違和感がある。全体的に人間関係がご都合主義が感じられ、それぞれのキャラクターの魅力がパッとしない。
自分の価値観に固執する主人公。彼を成長させるような、価値観の違う登場人物を配置し、ストーリーが進むことに主人公が追い詰められ、最後に自分の殻を破って成長・行動。同時に親友にもチャンスを与えつつ、恋愛も成就し、仕事も上手く行って大団円!
という教科書的な面白いストーリー展開のはずなのだが、どんなに構造が強くても、ディテールの説得力がなければ面白くならないのだな、と個人的には感じてしまった。
恋愛に説得力がない
「恋愛なんて理屈なしに始まるものでしょ」と言われればその通りだし、それで納得できる人にとっては、このようなレビューは無効だと思う。
しかし、個人的にはやっぱり、「なぜ2人が恋に落ちたのか」が終始ひっかかった。
2人は偶然再開し、特に何か過去があったわけでもなく、出会ったシーンでルーベンが一目惚れしたというような演出もない。
ポリーの方も、特にルーベンに強く惹かれている感じでもないし、デートするようになってもポリーはそこまでルーベンに入れ込んでいるわけではない。
ルーベンは親友サンディとバスケをしながら、妻の不倫から立ち直るためにもポリーをデートに誘ってみると話す。
反対するサンディに対し、中学のころポリーは優秀な子だったし、このタイミングで出会ったのは運命だとルーベンは語る。
突き詰めて言えば、ルーベンがポリーに恋する理由はこのシーンでのセリフに尽きている。
これで納得しろと言われてもさすがに難しい。これだったら、再会時にルーベンがうっとりするとかの方がまだ説得力がある。しかし再会時のやりとりはかなり淡白に演出されている。
その後デートを重ねても、ルーベンとポリーは明らかに相性が悪い。
普通に考えたらご縁がなかったと思って別れるだろうが、ルーベンはそうしない。
ルーベンがそうしない理由がどうしてもわからない。
もちろん、ルーベンがポリーと付き合うためにいろいろ努力して、結果的にルーベンを成長させたのだということは分かる。
でも、これは「結果から逆算すればそう」という話で、そもそもなぜルーベンが努力したのかの説明にはならない。
つまり、「自分とは正反対の女性との恋愛を経て、主人公がこう成長する」という結論ありきで、ルーベンの努力が描かれているように見えてしまう。
ルーベンは、自分の意志で努力をしているというより、映画の結末を描くために努力しているように見える。
それも全ては、ルーベンがポリーに恋する理由が希薄だからだ。
「たしかにこれは諦められない!」と感じられるほどのルーベンの恋心が、ポリーとデートし始めて、さまざまな困難に直面する前に描かれていないからだ。
それが手前で描かれていれば、その恋のためにルーベンが努力しているんだなと納得できるし、きっとそれは感動的になったと思う。
でも、「まあ、不倫もされたし、たまたま出会った同級生とデートしてみるか」ぐらいのノリでしか描かれていないので、ルーベンの努力を見ても「なんで?」という感想しかない。
また同時に、ポリーがルーベンを好く理由もよく分からない。実際ポリーは、ルーベンの妻が帰ってくるとすぐにルーベンと別れようとしている。
ポリーはわりと最後までルーベンに対して真剣ではない。ラストでのルーベンの無茶な行動を見て心動かされるのは、まあ分からないではないけど、ポリーにとってはルーベンでなければいけない理由はないはずだ。
そして正直、ラストのルーベンの無茶もどうなんだろうと個人的には思った。「そういうことじゃなくない?」と感じてしまった。(もちろん、コメディとして半分笑わせようとしているからというのは分かるのだが)
つまり、ここでは確かにルーベンはかなり頑張っているのだが、頑張った結果、別にポリーは何も得ていない。だから、ルーベンが勝手に無茶してるようにしか見えず、「相手のために」という行為に見えないから、全然感動はできない。
というか、この映画、全体的にルーベンが勝手に頑張っているだけ、というストーリーなのではないか。
勝手に運命を感じ、勝手に傷つき、勝手に頑張り、勝手に無茶をしている。
ポリーはそこまでルーベンと真剣交際する気はないから、ルーベンを尊重しようという素振りもあまりないし、いや、だからなんでこの2人付き合ってるの?という疑問がずっとついて回る。
また、恋の最難関として、「不倫した妻の再来」がある。
でも、この妻とルーベンの関係はほとんど描かれておらず、ルーベンにとって妻がどういう存在なのかほぼ何も分からない。
ルーベンは妻の不倫後、わりとすぐ立ち直っているし、だからこそポリーと恋愛しようと考えるわけだ。
素朴に見れば、ルーベンにとってこの妻がそれほど大事な存在だったとは感じられない。
「妻なんだから大事に決まってるだろ!」というのは、頭で補完できたとしても、ストーリー上の説得力としては成立しない。
観客にとっては、新婚旅行で不倫して、突然戻ってきて勝手なことをいう面倒な女でしかない。
だから、ここでルーベンが2人の女性の間で迷ったとしても、「当然ポリーだろ」という感じしかしない。
板挟みにあうルーベンの苦悩は、観客的には他人事であり、妻の存在はストーリーを盛り上げるどころか展開をスローダウンさせる要因なっている。
結果が見えすぎていて、妻とのあれこれは本当にどうでもよかった。
そして「当然ポリーだろ」というのも、そのポリーさえもなぜルーベンが恋しているのかよく分からないから、もうなんかどうでもいいな、というテンションになってくる。
加えて、これは時代的なものもあるし、個人の好みだから言っても仕方ないが、ギャグのセンスは、個人的には笑えない感じだった。
また、ストーリー的な必然がないギャグが多く、取ってつけたようなギャグが多い。
正直サンディ関係のギャグはすべて邪魔くさかった。サンディいる?という感じだった。
あまり楽しめない映画だった。
ちなみに、女性の部屋のトイレで事故を起こすのも、コンピューターで恋愛の評価をして相手に愛想を尽かされるのも、ジェニファー・アニンストンの代表作『フレンズ』のオマージュだと思われる。
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