概要
川沿いの小さな町で暮らす3人の男。犯罪稼業から足を洗い雑貨屋を営むジミー、どこか影のある男デイヴ、FBI捜査官のショーン。
少年時代は友人同士だった3人だが、11歳のある時、デイヴが誘拐された事件をきっかけに微妙な関係となり、今は顔見知り程度の隣人になっている。
ある日、ジミーの愛娘が遺体となって発見され、ショーンがその事件の担当となる。事件は難航し、なかなか犯人が見つからない。
そんな中、事件の日の夜、デイヴが血塗れで家に戻ったのを見たデイヴの妻は、夫を信じることができず、ジミーに相談する。
レビューの印象
高評価
- それぞれに苦しみを抱え、別の人生を歩む幼馴染たちの心情や関係性が興味深い
- 心情や出来事の描写が繊細で、宗教的な含みもあり、さまざまに考えさせられる内容
- 不幸な事件をめぐるミステリーとして面白い
低評価
- 結末が不条理で胸糞悪い
- 淡々としたストーリーで、大きな転換もなく退屈
- 全体的に暗い
ナニミルレビュー
殺人事件の顛末
ある小さな街で起こった殺人事件。
殺された女性の父親ジミー、この事件を操作する刑事ショーン、そして最も怪しい容疑者のデイヴ。この三者が幼馴染であることが、このストーリーに深みを与えている。
幼馴染の3人も今では疎遠になり、顔を見れば挨拶をする程度。それが、この事件を機にまた関係が絡まりだす。
事件当日のデイヴの不審な動き。それを唯一知る彼の妻。この2人の間にある信頼関係が少しずつ崩れていく。そこに感づくショーンと、妻の相談を受けるジミー。
幼馴染であることがフィルターとなって、信じたい気持ち、疑わしい気持ち、3人それぞれの感情が捜査にも影響する。
一体誰が犯人なのか。
重たい空気の中、一件の殺人事件の顛末と、それに絡まる人間関係がこの映画のポイント。
時間の積み重ね
ジミー、ショーン、デイヴの3人は少年時代のある事件によって結ばれている。この事件は、3人の人生に大きな影響を及ぼしているが、特にデイヴにとってはトラウマになっている。
そして、そんな大きなトラウマを持っても人は大人になり、家族を持ち、生きている。そのストーリーでは描かれなかったデイヴの人生に、時間の積み重ねを感じることができる。
しかし、その事件は時間の中に埋もれても、なくなりはしない。殺人事件を機に、この事件がまだ3人とその家族に影響を及ぼしているのだと分かる。
社会的には一見普通に過ごしているように見えるデイヴ。しかし、傷ついた心は決して完全に癒えてはいない。
そのことに対して哀れみを持つと同時に、不信感を持ってしまうのも人間。
ストーリーはそのことを観客にも突きつけてくる。あなたにはデイヴがどう見えるだろう。そして、デイヴを取り巻く登場人物たちを見てどう思うだろう。
偶然が必然になる残酷さ
少年時代の事件に関して、「デイヴじゃなくて俺だったら人生は違ってたはずだ」とジミーが語る。
ジミーがこう語るのを聞くと、ジミーがいたずら心を発揮しなければ、もしかしたらあの事件は起きなかったかもしれない、と考えざるを得ない。
そして、デイヴがあの日バーにいっていなかったら、とも考えてしまうし、デイヴの妻があと1日ジミーに相談するのを我慢できれば、とも思えてしまう。
起きてから振り返ると、偶然はもう必然になってしまって、取り返しがつかない。そして、誰しもその偶然を取り返したいと思うことはある。
映画のラストは、生きることの取り返せなさ、その渦中で生きる人間の不条理さをまじまじと感じさせる終わり方になっている。
レコメンド作品
殺人の追憶
未解決事件をめぐる捜査とその後を描いた作品
ノーカントリー
不条理な殺人が描かれる作品
クロッシング
心に影を抱えた警官たちを描く作品
沈黙 −サイレンス−
不条理な出来事の渦中に置かれる宗教者を描く作品
ラブリーボーン
不幸に殺された少女の彷徨う魂を描いた作品
マッチポイント
人生の不条理さをオフビートなブラックコメディで描いた作品