概要
娘を誘拐された精神科医:コンラッド。犯人ら、コンラッドが担当している女性患者:エリザベスから、6ケタの番号を聞き出せと要求してくる。
コンラッドは訳も分からず、とにかくエリザベスをカウンセリングし、どうにか番号を聞き出そうとするが、エリザベスは何者かに命を狙われていると恐れているうえに、彼女自身も番号とは何のことなのか分からない。
コンラッドは、エリザベスが精神を病むきっかけになった現場にエリザベスを連れ出し、街を歩きながらカウンセリングを行う。そこで、番号の謎を突き止めたコンラッドは、犯人らに電話をかけ、こちらから条件を出して交渉を始める。
観る前ポイント
強盗団に娘を誘拐された、優しいお父さんが奮闘するサスペンス映画。勧善懲悪なストーリー。暴力はあるがグロくはない(不気味な死体はちょっとある)。エロはない。少しダークで暗めな印象。
レビューの印象
高評価
- テンポがよく、緊張感もあって飽きさせない演出
- 俳優陣が素晴らしく登場人物がカッコいい/美しい
- 精神科医がカウンセリングで謎解きをする設定が新鮮
低評価
- サスペンス部分にご都合主義な展開が多く、主人公の行動、数字の意味やラストのオチも納得できない
- よく言えば王道だが、展開がおおむね想像できてしまい、驚きが少ない
- それなりに面白いが、印象に残るものがない
ナニミルレビュー
冒頭の銀行強盗シーンは素晴らしく、メンバーの1人が延々と無駄口を叩く緊張感のなさと、何かをジリジリと待っている他の男たちの妙なギャップが、不思議な緊迫感を生んでいる。そこから強盗が始まり、カウントダウンをしながら金庫破り、宝石をゲット、逃走、上手くいったと思ったところで気づかされる裏切り。
非常に分かりやすいけれど、説明的には感じない。出来事や人物の表情・行動のみで、それぞれの関係性や、プロフェッショナル感、絶望感など、何が起きたか十分に分からせる演出が見事だった。
そこから10年が経ち、主人公:コンラッドが登場。どうやら訳ありの患者を半ば無理矢理押し付けられ診察することに。そして、病院へ向かう橋を渡る際、カメラが水面を映し、そこには謎の死体が。そして次の日の朝、切断されたドアチェーンを見て娘が誘拐されていることに気づく・・・。
と、とにかく冒頭、さまざまなことが、どんどん発生していく。しかも映像で見せていく演出が上手い。
銀行強盗、謎の患者、変死体とそれを追う刑事に、誘拐事件。え、こんなに複雑にして大丈夫?と思うのだが、最後まで見た限り、一応、追いきれない筋ではなく、そういう意味では非常にストーリーテリングが上手いんだろう、と思う。
ただ、正直、この序盤の期待感は、解決に向けてストーリーが進むにつれ、どんどんしりすぼみになっていく印象があった。
ややこしさがあるわりに、たしかに筋は終える。どこで誰が何をやっているのかも分かるし、個々のシーンでの緊張感もある。見せ場もある。カッコいいシーンもある。
だが、だんだんとストーリー自体が雑になっていく。そしてとにかくダラダラしたクライマックスがそれまでの面白さを台無しにしている。
最も大きな問題は、変死体からこの事件に迫っていた一匹狼の女刑事:キャシディが、ストーリー上で大きな役割を果たさないことだ。
キャシディはほぼ常に観客より遅れて事件を追いかけている。だから、彼女が何かをしても、観客的にはそれほど驚きがなく、彼女が登場するシーンは、後半に行くほど退屈になる。
唯一、彼女の捜査が興味深く進展するシーンは、コンラッドの同僚サックスを尋問するシーンだが、ここも、結局彼女が事実を突きつける前に、変死体がサックスの恋人であったことが観客に分かってしまうので冗長に感じる。
さらに言えば、サックスはその後、ストーリーに何も関わってこず、ここでの尋問にその後のストーリーでの意味がほとんどない。
この後、キャシディはコンラッドを追いかけ始めるが、追い付くのはようやくラストのラスト。そして、追い付いても大して活躍せず、敵を一人倒した後すぐ撃たれてしまう。
いや、キャシディ必要だった?
ラストだって、コンラッドを助けるのは例えばその場所にいた患者:エリザベスでも、娘:ジェシーでも良かったわけで、ピンチのコンラッドを助ける一発を撃つためだけに、彼女をストーリーに登場させ、それによって話をややこしくし、終盤でのモタつきに繋がっていると考えると、これはやっぱり失敗だったのではないか、と思ってしまう。
刑事ナシで、精神科医vs元銀行強盗団のシンプルな構図にした方が良かったんじゃないか、と思わずにはいられない。サックスも実は敵に操られていて・・・という展開も多分要らない。尋問の後なにも関わってこないのだから。
という感じで、本筋に関係なく感じる要素が多い映画だというのが大まかな印象。
個々のシーンを見せたいのは分かるし、実際個別で見れば悪くないのだが、ストーリーが緩んでいくのはもったいない。
無意味に感じる要素にはどういうものがあるか。
例えば、ジェシーを誘拐した強盗団が、実はすぐ上の階に潜伏していたという設定も、驚きはあるがストーリー上の意味は大してない。というのも、上にいると分かったところで、家に残された妻には何もできないわけだし、実際犯人には逃げられている。
妻がそれに気づいたことで強盗団は場所を移すと同時に妻を殺そうとするのだが、殺すのなら場所を移す必要はないだろ、とツッコまざるを得ないし、繰り返しになるけど、バレたからなんなんだ。
もともと妻は怪我をしていて無力だし、警察が来ても妻は誘拐事件のことを警察には言わない。そう、犯人グループは最初から妻から身を隠す必要はないのに、何かそれが重大なことのように振る舞っている。
さらに妻によって犯人グループは外に出ることになるのだが、それが犯人グループをピンチに追いやるというわけでもなく、だったら、妻との格闘劇は、シーンとしては迫力があっても、ストーリー的には退屈なものでしかない。
また、納得できない要素もある。
クライマックス前では、エリザベスから事情を聞き出したコンラッドがなぜか強気になって、逆に犯人にルールを言い渡したりしている。
しかし客観的に見て、状況は何も変わっていない。犯人がエリザベスの知る情報を知りたくて、それはコンラッドにしか聞き出せない、という状況は最初からそうで、クライマックス前でもそうなのに、なぜかコンラッドはクライマックスに向けて突然強気になっている。ここでコンラッドが強気に出ないとラストで墓地に主要人物全員を集めることができないから、脚本上の都合でそう振る舞っている。
ストーリーが進めば進むほど、一事が万事こんな感じで、とにかくアクションシーンを描きたい、こんな緊張感を演出したい、というその場その場のテンションを描くことに引っ張られて、ストーリー全体の整合性が無視されている。
クライマックスは、犯人グループが求める宝石の隠し場所である墓地で、コンラッド、誘拐されたジェシー、カギを握るエリザベスと犯人グループが全員同じ場所に集まって、展開していく。
そして、みんなの前でコンラッドがエリザベスをカウンセリングし、宝石を隠したある墓の場所を記憶の中から呼び覚ますことになる。
うん、たしかに、精神科医を主人公にして、鍵を握るのが精神疾患者の記憶なのだとすれば、カウンセリングが大事になるんだし、そこがこの映画の面白さだとは思う。
そう思うのだが、さすがにクライマックスでテンションが高まっている時に、みんなで輪になってカウンセリングなんかしているのは、あまりにもだるい。
なんともモタモタした絵になっている。もはや娘の誘拐はどうでもよくなっているし、妻もどうでもよくなっているし、刑事は周回遅れでついてきているだけ。
なんにせよ、ようやくエリザベスから隠し場所を聞き出し、そこに向かう。
よし、ここからどんどんスピード感が上がって大団円だな、と思っていると、実はそこは本当の場所ではないと分かる。おお、これで犯人がキレてドンパチアクションシーンか、と思いきや、犯人たちはコンラッドを連れて仲良くエリザベスの元へ帰っていく。激昂してエリザベスを怒鳴る犯人を前に、コンラッドが「逆に覚えていたんだ」とエリザベスの記憶違いをプロっぽく指摘。いやいや、それ、ここに戻ってくるまでなんで黙ってたの?そしてしげしげと次の場所へ行き、ようやくお宝をゲット。そこにようやくキャシディが現れるが、丁寧に警告をし、当たり前のように反撃されて負傷し、キャシディの役割はここでおしまい。そのあとコンラッドは形勢逆転するが、結局とどめを刺さないでいるうちにまた反撃され、その反撃も大した反撃ではなく・・・。
という感じで、とにかくまあ、クライマックスがモタモタモタモタしている。
いや、冒頭の銀行強盗のあのプロ感は? 手際よく娘を誘拐し、周到な計画でコンラッド夫妻を黙らせ、自分たちの言いなりにした、あの犯人グループが、なんで最後こんなグダグダなの。
とにかく、序盤は非常に面白く、中盤は迫力や緊張感を優先してストーリーがおざなりで、終盤はその緊張感すらなくなっていくという、正直ガッカリ感のある映画だった。
トラウマを背負った女性の記憶が、犯人グループの知りたい情報とつながっていて、だから精神科医が事件を解決する主人公として配役されている。
この設定自体はめちゃくちゃ面白いのに、ストーリーの詰めが甘かったという印象を受ける。
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