概要
稀覯本の売買を生業とするコルソ。ある日、コレクターのバルカンに呼び出され、『影の王国への九つの扉』という、世界に3冊しかない本を見せられる。
バルカンは、この3冊の中に偽物があるかもしれないとコルソに話し、それを調査するため、残りの2冊と自分が持っている本を見比べて来てくれという依頼をコルソにお願いする。
事情を飲み込みきれないコルソだったが、多額の報酬もあり、仕事を引き受けることにする。あまりに貴重な本のため、知り合いの古本屋に本を預けるが、その知り合いが殺されてしまう。
危険を感じて依頼を断ろうとするコルソだが、バルカンはそれを認めず、彼はしぶしぶ他の本を見るため外国へ飛ぶ。
尾行の影に怯えながらも、コルソは残りの2冊の持ち主であるコレクターの元へ向かい、それぞれの本を見比べることで、この本の新事実を発見する。しかしこの2人のコレクターも殺されてしまい、コルソは本を盗まれてしまう。
その事実を知ったバルカンは怒り、不穏な言葉をコルソに言う。コルソは身の危険を感じながら、本を盗んだ犯人を追いかける。
レビューの印象
高評価
- ストーリーや映像がミステリアスで、不思議な世界観を味わえる
- キリスト教と悪魔のモチーフが興味深い
- 独特なロードムービーとしての面白さがある
低評価
- 淡々としてパンチが足く、突出した面白さのないストーリー
- 主人公に感情移入できない
- ラストがよく分からない
ナニミルレビュー
オススメ度:B
こんな気分の時オススメ:ミステリアスな雰囲気を味わいたい時。オカルチックなストーリーを見たい時。現実とファンタジーが混ざったような世界観を見たい時。
ポジティブ
ミステリアスなトーンで進行する不思議な雰囲気がまずいい。ホラー・ミステリーなんだけど、ロマン・ポランスキー監督ならではの、妙にどこか間の抜けた感じ。リアルというよりは少しファンタジックな雰囲気。
そして、主人公のコルソは古物商なんだけど、ストーリー的には探偵物的な面白さがある。謎の依頼を受けて調査を進め、その中で謎解きが進行しつつ、自分に危険が迫ってくる。
探偵物でありながら、アドベンチャー的な要素も入っていて、不思議な物語の世界を味わえる。
ネガティブ
エンディングに向かうに従って、話がだんだん飲み込みづらくなる。特に、ラストのコルソの行動に乗り切れるかどうかで映画の感想が大きく変わりそう。
また、物語として興味深い一方で、展開としては、とにかく依頼主の要請を受けて主人公が動いていくストーリーなので、ドラマ的な面白さはあまりなく、ストーリーにグングン引き込まれる感じはあまりしなかった。
解かれる謎も驚くほどのものでもないし、そもそもキャラクターたちの動機に感情移入しやすいタイプの物語でもない。
どちらかというと、不思議なキャラクターたちとか、妖気をはらむアイテムの魅力で世界観に浸らせるタイプの映画という印象。
世界に3冊しかない本という設定の面白さ
この映画に物語的な面白さを感じるのは、やっぱり「世界に3冊しかない本を訪ねて回る旅」という、ちょっとファンタジックですらある設定のお陰なのではないかと思う。
この設定を取り巻く古物商やコレクター、学者というキャラクターたちも面白いし、アンティークな本の手触りも視覚的な快感になっている。
そして、この稀覯本が雑に扱われているところに、謎の色気を感じる。
普通に考えて、100万ドルする本をめくりながら、タバコを吸ったり酒を飲んだりする古物商はいないだろう。
でもこの映画では、この世界に3冊しかない本は、ものすごく雑に扱われている。なんなら、タバコの灰がカバーに落ちるシーンさえある。その灰も手でぱぱっとはたいておしまい。
このラフな感じが、逆に本のアンティークとしての魅力を高めているように感じる。なんというか、本当に質の良い丈夫なものだから、これくらい雑に扱っても大丈夫、という感じ。
もしくは、希少なものであるにも関わらず、それを雑に扱ってしまうことを通して、キャラクターたちにとって、希少品が日常であるという、一種のプロフェッショナルな雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
なんとも言語化しにくいのだけど、そういう色っぽさが終始映画の中に漂っている。
悪魔崇拝のミステリー
ストーリーは基本的に、本に隠された謎を解明していく謎解きになっている。
俯瞰してみると、悪魔の魅力に取り憑かれたセレブたちがこの本の教義を軸にアレコレしているところに、主人公のコルソは巻き込まれる形になっている。
そもそも、この本にはどういう意味があるのか、依頼主のバルカンは何を知りたがっているのか、その謎が解けると何が起こるのか。
「悪魔」というモチーフを軸に、パズルを説くように情報を集め、真相に迫っていく。
ストーリー内で明かされる謎もあれば、はっきり明かされない謎もある。何となく答えを想像でいるものもあれば、完全に謎のままになっているものもある。
オカルトなテーマを扱いながら、しっかりとした演出で雰囲気を高め、ある結末を迎えつつも、完全にスッキリとはしない終わり方になっている。そこも含めてこの映画の面白さとして受け入れられる人には、堪らない映画だろう。