概要
シーヘブンと呼ばれる島で暮らす会社員のトゥルーマン。明るい性格でご近所とも仲がよく幸せに暮らしているが、青春時代に出会った女性が忘れられず、彼女が住んでいるフィジー諸島に行きたいと思いながら日々を過ごしている。
一見、郊外に住む普通の男であるトゥルーマン。しかし、彼は生まれた頃から今まで、人生を全てテレビ放映されているリアリティー・ショーの主役だった。
だがトゥルーマン自身は、自分がショーに出ているとは気付いていない。
シーヘブンは人工的に作られた巨大スタジオでいたるところにカメラが仕掛けられ、常にトゥルーマンの姿を追っている。周囲の人々は妻や友人を含め、全員が彼の人生の登場人物を演じる役者であり、常にプロデューサーたちの指示を受けながら、この世界が作り物だとバレないように動いているのであった。
彼の番組は休むことなく1万日以上放映され続け、全国各地の視聴者が彼の生活を覗いている。
ある日、トゥルーマンは死んだはずの彼の父親(もちろん役者)を街で見かける。そして彼が父に駆け寄ろうとした途端、謎の通行人たちが手際よく父を連行し、バスに乗せて走り去る。
またある日、車のラジオを聞いていると電波が混戦し、まるで自分の動きを中継しながら人々に指示するかのような音声が流れてくる。
こうした事件に日に日に疑いを深めていくトゥルーマン。同時にフィジーへ行きたい思いも募っていく。
あの手この手でトゥルーマンの野心を萎えさせようとする製作サイドと、この作り物の世界に疑いを抱き、少しずつ自分の置かれた状況を理解し始めるトゥルーマン。
ついにトゥルーマンは、監視の目をくぐり抜け、船に乗って島を抜け出し、ひたすら外に向かって進路を取る。
レビューの印象
高評価
- 「もし自分の現実が作られた物だったら」という設定が面白く、エンタメながら考えさせられるストーリー
- どの登場人物の視点に共感するかで、いろいろな見方ができる
- 主人公が主体性を獲得し、脱走する物語として勇気がもらえる
低評価
- 主人公が不憫で嫌な気持ちになる
- 設定にリアリティを感じられず、ストーリーに乗れない
- 設定が分かった時点でオチが想像でき、意外性に欠ける
ナニミルレビュー
もし世界が偽物だったら
「世界の中で自分だけが生きている存在で、周りが全て偽物なのかもしれない」と考えたことがある人は多いだろう。
この映画は、まさにそんな状況の中で30年弱生き続けてきたトゥルーマンのストーリーである。
この妄想を、現実的に達成しうるとしたらどうなるか。それはテレビ番組になるのではないか、という切り口が面白い。
巨大なセットを作り、大量の役者を集め、小さな国のような空間を作る。その中で、孤児であったトゥルーマンを誕生のときから撮影し続ける。
この巨大な番組を実現させるための、さまざまなディテールも面白い。
このバカみたいに予算のかかりそうな企画を実現するため、番組内で登場する物は全て商品であり、時々会話の中に商品の説明やキャッチコピーが混ぜられるのをコミカルに描いている。
セットは島の形を取っているから海に囲まれており、トゥルーマンは水にトラウマを持っている。幼い頃に父と船に乗った際、水難事故で父が死んたからだ。そして、もちろんこの事故も作り物である。
さらに、幼い頃からトゥルーマンが外の世界へ興味をもつ度に、それを徹底的に否定するような教育を行い、外の世界を知る親友に「ここが一番いい場所だ」と語らせている。
この設定が実現されるため、どのようなスタジオがあり、どのように人々が働き、どのようにトゥルーマンが扱われているのか。
そのディテールの面白さが、この映画の大きな見ドコロのひとつになるだろう。
世界に疑いを持ったトゥルーマンのドタバタ
だんだんと不審な出来事が積み重なり、世界への疑いを募らせるトゥルーマン。
彼は、この世界が本物かどうか確かめるため、予定調和で動く世界を撹乱する行動を取り始める。
普段のルーティーンなら絶対に行かないビルの中に入ったり、自宅の前の通りを長時間観察して人々の行動パターンを分析したり、何の前触れもなく車でひたすら道を突っ走ったり。
これらのシーンは、ジム・キャリー節が炸裂するドタバタコメディになっていると同時に、だんだんと狂っていくトゥルーマンの姿が痛々しく感じる場面でもある。
狂気とギャグがないまぜになったドタバタコメディ。笑えつつ、切ないものであり、トゥルーマンの心情が変化していき、クライマックスの大脱走へと繋がっていく。
トゥルーマンの本当の人生
トゥルーマンはもう20代後半だ。青春を過ごし、結婚もし、人生をそこそこ生きてきた男だ。
しかし、彼がストーリーの中で気づく通り、彼の人生は誰かに振り付けられ、彼の選択は誰かの意図に沿ったものだった。妻でさえ、制作陣が用意した役者なのだ。
それでもそこそこ幸せに生きていた。だからこそ、その歳まで彼はこの島の中だけで暮らし続けることができたんだろう。
しかし彼は真実を知り、危険な海の中を進む。人生で初めて、世界の意図に反して、自分の選択のために行動する。
この映画の設定、どう考えても、現実的な視点で見れば人権的にアウトだろう。
だからこれは、寓話のようなお話だと思って観る方が見やすい。あまり真面目に見ると、トゥルーマンを騙すキャラクターたちに対しての怒りが高ぶりすぎるかもしれない。
その上で、トゥルーマンの創造主(神)として描かれるクリストフは、凶悪な人物として描かれるより、トゥルーマンに愛情を持つ人物として描かれる。トゥルーマンの寝顔を画面越しに撫で、彼に苦難を与えると同時に、「島にいたほうが幸せだ」と優しくトゥルーマンを諭す。
しかしトゥルーマンは島を出ることを決意する。これは真実を求めて、虚構の楽園(エデン)を自分の意思で去っていく物語だ。
このクラシックなテーマを、現代的な「テレビ番組」という設定で描いているところに、この映画の面白さがある。
そして、パラダイスよりトゥルーを求めた男のショーとして、この番組はエンディングを迎える。
番組終了後のラストシーンで、「終わったぞ、番組表をよこせ」と言って違う番組を探し始める視聴者たちを描いて、ちょっとニヒルな空気で終わっているのも、とても良い。ここは観客に対する忠告だろう。
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