映画

マーキュリー・ライジング -設定は面白く、王道アクションサスペンスの強さはあるが、ストーリーがおろそか-

概要

NSA(アメリカ国家安全保障局)が作り出した暗号「マーキュリー」が、9歳の自閉症の少年サイモンに解かれてしまう。

NSAのクドローは、自身の手がけた計画の失敗が明るみになることを恐れ、秘密裏にサイモンを殺害しようと画策する。

クドローの送り込んだ殺し屋に殺されたサイモンの両親。その事件現場で隠れていたサイモンを見つけたのは、FBIで閑職に追いやられていたアートだった。

保護された病院で殺し屋に狙われるサイモンを、危機を察知し、駆けつけたアートが助ける。しかし、FBIはサイモンが狙われていることを信じず、アートは逆に指名手配されてしまう。

自閉症で上手くコミュニケーションが取れないサイモンをつれ、アートは事件を調査しつつ、サイモンが狙われる真相に迫っていく。

見る前ポイント

権力者の悪人と子供を守ろうとするFBI捜査官という明快な構図。ヒロイックな男が悪を打ち倒す王道ストーリー。上手くコミュニケーションが取れない子供と正義感の強いおじさんコンビ。追い詰められつつも周囲の人に助けてもらいながら真相に迫るサスペンスアクション。

レビューの印象

高評価

  • 自閉症の難しさと、それを見守る温かい目線が描かれている
  • 主人公のぶっきらぼうだが優しいキャラクターが魅力的(ブルース・ウィリスのハマり役)
  • 巨悪vs正義漢の王道ストーリーに、予測不能の自閉症の子供を掛け合わせた面白さがある

低評価

  • 登場人物たちの行動(特に悪役)に説得力がない
  • 暗号や自閉症、NSAなどの要素をむりやり組み合わせた、企画優先な印象
  • 国家機関が関わる話のわりに、スケールが小さい

ナニミルレビュー

・国家のために個人を殺そうとする国家機関VS個人を守るFBI捜査官。
・自閉症の子供と正義感は強いがちょっとガサツな中年男のコンビ
・国家が作った難攻不落の暗号を、9歳の少年が解いてしまうという事態

王道の対立をベースに、ギャップのある登場人物の組み合わせと、意外性のある事態をきっかけとしたストーリー展開。明快な設定で、乗りやすい映画だという印象。

退屈はしなかったけど、とはいえ「ここがすごく良かった」というポイントもなかった。

自閉症に対する啓蒙的な雰囲気があり、それは、このような明快な勧善懲悪ストーリーに組み込むのはアリだと感じた。その意味では何も残らない映画だとは思わない。

国家 VS 個人?

国家機密を守るため、殺し屋が罪のない少年を殺しにくる。

という大筋のストーリーを読むと、「国家VS個人」の映画なのかな、と思うのだが、実はこの映画はそうではない。

というのも、この映画の悪役は、あくまで自分の失態(暗号を破られた)を隠そうとするクドロー個人ということになっており、同じくNSAで働く彼の部下たちは善良側にいる。

だから「NSAという組織は必ずしも悪くないが、クドローは悪い」という構図になっていて、それはつまり、「国家権力は必ずしも悪くないが、その中に悪い奴がいた」という構図になっているということだ。

また主人公アートが所属するFBIも、終盤まではアートを助けることはしないから、NSAはダメだけど、FBIは良いということでもない。

つまり、国家機関が出て気はするが、国家を揺るがすような話は何もなく、実際には個人VS個人の意外とこじんまりした話になっている。

アートの内面ドラマは上手くいってない

アートのキャラクターとして、過去に行った潜入捜査で青年を死なせてしまい、そのショックが未だに彼を苦しめている、という設定がある。

この映画冒頭は、その潜入捜査の末路である銀行強盗のシーンから始まる。

正直、本筋とは直接関係のないエピソードを、ここまでしっかり描く手法は、今見るとやや変に見える。

ただ、冒頭の引きとして緊張感のあるシーンを見せつつ、正義感の強いアートの性格とその挫折を描き、これくらいの残酷なことが起こる映画だと観客に分からせる意味では、手法としてそれなりに機能していたんだろうと思う。

にしても、やはりストーリー的にはなくても(もしくは会話の端々に匂わせる程度で)成立する程度のエピソードであって、やっぱり、今現在の感覚で言うと蛇足に感じてしまう。

なんにせよ、アートはこのように挫折を経験し、さらに現在では閑職に追い込まれている、という不遇のキャラクターである。

それ自体はキャラクターの魅力に繋がっていると思う。

また、若い命を救えなかったというアートの自責の念は、周囲が反対しても、サイモンも救おうともがく動機付けにもなっている。

アートは過去の苦い経験を清算できないまま、「薬」(恐らく精神安定剤)を飲んでそれをやり過ごしている。

サイモンを救うストーリーを通して、アートはその薬を手放し過去を乗り越える、というのが恐らく作り手がやりたかったことだと思われる。

しかし、このアートの内面ドラマはかなり上手くいっていないと個人的には感じた。

サイモンとの行動中、コミュニケーションの成立しないサイモンとの会話にぐったりと疲れたアートは、薬を飲んで車中で眠る。

起きると、サイモンがおらず、アートは無責任な自分の行動を反省し、持っていた薬を車外に捨てるというシーンが印象的に描かれている。

この展開だけを見れば、アートの内面の変化にはそれありに説得力がある気がする。

だが、実際のストーリーで描かれる変化は説得力がない。なぜなら「薬」と彼の反省が上手く絡んでいないから。

というのも、サイモンを見失ってしまった原因は、「薬」を飲んだことではなく、眠ってしまったことだ。

アートが「薬」を飲んだせいで眠ってしまったのであれば、起きた後、薬を捨てる描写には説得力がある。

しかし、アートはただ疲れていたから眠っただけなのであり、薬は関係ない。

なぜそう言えるかというと、アートが自室で「薬」を飲むシーンがもっと手前で描かれているが、アートは「薬」を飲んだ後、眠ることなくバーへ出かけている。

さらにいえば、そのバーからサイモンの居る病院へ向かい、結果的にサイモンを救っている。

つまり、この「薬」に眠りを促す作用はない。むしろ彼の精神を安定させ、次の行動へと移らせる良い作用を果たしている。

だから、車中でアートが眠ってしまったことと、この「薬」の作用とは特別な関係はなく、アートが反省の証として「薬」を捨てるシーンには、なんの説得力もないのだ。

また、アートの内面の葛藤はこのシーンであらかた乗り越えられたことになっているが、「青年を救えなかった」苦しみを乗り越えるドラマにするのであれば、それは「サイモンを救えた」という場面で克服させるべきであるはずだ。

しかし、アートが「薬」を捨てるのはサイモンを探している途中であり、克服のタイミングとしてはかなり中途半端なタイミングである。

それに、青年を死なせてしまったことに心痛めているのであれば、自分に事情を説明しに来た若いNSA職員が目の前で殺されたことにも、もっとショックを受けるべきなのでは?と思ったりもする。

とにかく、サスペンスアクションと並走して描かれているアートの内面ドラマは、蛇足な冒頭シーンに始まり、とってつけたような悪夢と「薬」というアイテムで描かれ、中途半端なタイミングで、なんの説得力もなく克服される、という残念なものになっている。

サスペンス

本筋のサスペンスアクションはどうか。

・サイモンがNSA暗号を解く
・自分たちの作った暗号に問題があったとNSA職員が上司クドローに報告
・クドロー、サイモンを殺そうと殺し屋を派遣するも失敗
・サイモンは保護されるが、警察内部も信用できない
・アートは殺し屋の存在に気づき単独でサイモンを連れ逃げる
・一時サイモンの家に帰った際、アートはNSAとの繋がりに気づく
・NSA職員の協力もあり、アートはクドローが黒幕だと暴き、サイモンの安全を求め交渉
・クドローは交渉を飲むかに見せかけて裏切り、アートと決戦ののち、アートがクドローを殺す

シンプルな筋書きだが、観ているとやや不明瞭な印象がある。

というのも、クドローが黒幕なのかどうかは、かなり終盤まで分からない語り口になっている。

一応、クドローが黒幕だと示唆されるのは、NSA職員が殺されたからだ。しかし、それも観客からするといまいちピンとこない。

恐らく、アートと落ち合う連絡を盗み見れたのはNSAだけなので、そこで殺された=裏でクドローが糸を引いている、ということなのだろうが、それはNSA職員の推理なのであって、ストーリー上で間違いなく観客が読み取れる推理ではない。

観客にとってクドローが黒幕だと明快に示されるのは、死んだNSA職員の恋人がアートに彼の書いた手紙を手渡すシーンでだ。

これはクライマックス前の1時間25分くらいの場面で、さすがに引っ張りすぎなのでは。

そして、最初からクドローが黒幕だと分かっていようが分かっていまいが、特にストーリー展開的にはなんの違いもないのであり、むしろ黒幕だと分かっていた方が殺されるNSA職員の動きなどをもっとハラハラしながら見られたはずだ。

だから、このクドローを明確に悪役だと分からせないこの映画の語り口は、失敗だと言える。

ヒッチコックは、サスペンスを作るためには観客には全ての状況を分からせなければいけないと書いていたが、この映画はそれに失敗している。

クドローが黒幕なのかどうかが曖昧であるのは、ミステリーとしては機能するが、サスペンスとしては機能しない。この映画はミステリーではなくサスペンス映画なのだから、クドローは最初から一貫して悪役として登場すべきだったはずだ。

そして、クドローを曖昧な立ち位置にしてしまったことによって、彼の行動も意味不明になっている。

例えば、両親殺害が報道された新聞を見せながら、クドローは「多くのアメリカ人の命がかかっているから、この件を早く解決しろ」とNSA職員に怒っている。

この時点ではクドローが言っていることは比較的まともであり、彼が悪役なのか、国家を案じるまともな人間なのかが分からない。

そうすると、観客としては、あの殺し屋はクドローとは関係がなく、他国のスパイか何かなのかな、と思って見進める。

しかし結局、黒幕はクドローなのであり、殺し屋はクドローの部下だ。

正直言って、結末から振り返って見れば、この辺のクドローの行動は意味不明である。あそこでクドローがNSA職員に事情を説明する必要はない。

殺し屋はその後もサイモンを追いかけ殺そうとしており、どちらかといえば、職員に対してはこれ以上事情を知られないように異動させる方が賢い。

結局、職員たちは再度サイモンからの電話を受け、アートと繋がり、クドローの悪事を告発しようとして殺されてしまう。

クドローがあの2人の職員に何をさせたかったのか、全く見当がつかない。

むしろ、このようなストーリー展開にするために、クドローは不自然な指示を職員に出している。つまり、ストーリーを優先するあまり、ありそうもない指示をクドローは出しているし、そのせいでなんだかよく分からない時間がしばらく続く。

観客が分かるのは、殺し屋が追いかけてきていることと、クドローが問題を揉み消そうとしていることだけ。普通に考えてこの2つは繋がるから、クドローが黒幕なんだろうと想像はつくのだが、だったら最初から明確に黒幕だと説明してくれと思ってしまう。

そして、アートの方もかなり行き当たりばったりだ。

例えば、なぜアートは病院でサイモンを助けられたのか。

アートはその前バーで酒を飲み、サイモンのカードをめくって見ている。

そこからは、なぜアートが病院に向かったのか、明確な理由づけは読み取れない。

もちろん、このカードをサイモンに返そうと思ったのかもしれないが、だったらしみじみとめくってみる必要はない。カードに書かれた「熱いから危ない」という文言を見て胸騒ぎがしたのかもしれないが、それも観客が確実に読み取れる感情ではない。

とにかくここで、アートはただストーリーの要請に従って、特に根拠なく病院に向かって殺し屋と対峙し、サイモンを助けている。

その後、NSA職員と繋がるのもサイモンが自室でパズルを解いたからだが、部屋に戻ったのはサイモンが帰ると言ったからだ。正直、追われているのにサイモンの家に帰るのは普通に考えて危険だと思うけど、とにかく帰る。

そして、サイモンはまた同じパズルをやり、同じようにNSA職員の元に電話をかける。パズル好きの少年が、一度解いたのと同じパズルやるだろうか、という疑問も生じる。

その後、ある女性に助けを求めるのも、たまたまその場にいたから、という偶然だった。

そして、アートはNSA職員が書いた告発文を持ってクドローと交渉しに行くのだが、正直言って、ここでクドローと交渉する意味がよく分からない。少なくとも彼は部下を殺しているのだし、観客からすれば普通に逮捕されるべき男である。

にもかかわらず、アートはサイモンさえ救えばこの件は口外しないと言っていて、観客の期待を裏切っている。

結局、クドローは告発文のことは何も気にせず行動しているわけだし、最後は説得されたFBIの上司の協力を得て、銃撃戦の末クドローは殺される。

いや、なぜ交渉シーンなんて無駄な場面を挟んだのか。

ストーリー的には特に理由も正当性もない。単に、こういうシーンを描きたかったんだろうな、という感想しかない。

このように書いていけば、この映画を見ていて、シンプルな王道っぽいストーリーなわりに、何か不明瞭さがある理由が分かってくる。

とにかく、理に敵わない展開が多い。撮りたい場面が先にあって、キャラクターをそのように行動させるために、根拠のない行動を取らせている。

いわゆるご都合主義というやつである。

良いところ

いいなと思ったところも書く。

まず、「NSA」とか「自閉症」とか、そういった言葉を観客に伝えようという意図を感じる映画である。

だからこそ、クドローはストーリー上必要がないにもかかわらず、NSA職員に向かって、自分たちのやっている仕事の重大さを語って見せたりするわけである。

これは明らかに、観客に対して、「NSAとはこういった機関なんですよ」と説明するためのシーンだと思われる。

また、自閉症に関しても、クドローが職員に怒るシーンで、「自閉症だからと言って知能が低いとは限らない」と説明さえたり、アートがサイモンを説明するときに、「普通の人とは違った見方をする」とか、「少し違うだけで、大体同じだ」とか、そのような啓蒙的な語りをしたり、周囲の人々を通して、自閉症の子供に対する接し方のお手本を見せようとしたりしている。

(ただ、心優しい両親があっけなく撃ち殺されるのは、正直どうかと思ったけどね。まあ、ストーリー上そうせざるを得ないのは分かるのだが・・・。)

これらの要素は、実際は浮いて見えたりして、あまり上手くいっているとは思わない。が、そういう何か伝えたいということがあって、それをストーリーに組み込んでいるのはいいなと思った。

また、一応ヒロインと思われるステイシーはとてもよかった。

正直、1時間を過ぎてから新キャラ出してくるなよ、と思ったし、彼女のキャラクターの掘り下げは不十分だと思う。かなりストーリーに都合よく登場している不自然さはある。

が、彼女の佇まいから、たしかに「無理なお願いを聞いて損をするタイプの良い人だ」というニュアンスが伝わっていて、とても良いキャラクターだと思った。

関連作品

アジョシ

一見何者でもない男が、知人の少女のために戦うストーリー

マイ・ボディガード

凄腕だが精神を病んだ男。男を立ち直らせた少女が誘拐され、復讐に燃える男のストーリー

ザ・シューター/極大射程

巨悪に嵌められた凄腕スナイパーが、黒幕に反撃していく痛快アクション映画

ダイ・ハード

孤軍奮闘するブルース・ウィリス映画