概要
ハモンドは、恐竜のDNAから恐竜を蘇らせ、ある1つの島を恐竜のテーマパークとして公開しようと準備している。
出資元から安全性の保証を求められ、ハモンドは、恐竜の化石を発掘中の学者アランとエリーに声をかけ、テーマパークの見学をしてもらう。
アランらがパーク内を見学している時、パークで働くエンジニアのネドリーは、恐竜の胚を密売するためパークのセキュリティを解除し、胚を盗んでパークの門を開く。
アランがシステムを切ったせいで恐竜たちを囲っている檻が機能不全を起こし、恐竜たちが脱走。見学中のアランらは恐竜に襲われてしまう。
レビューの印象
高評価
- 制御不可能なものを利用しようとする人間の業や、生命に対する向き合い方が描かれており、娯楽作品ながら古びないテーマで見応えがある
- スリリングなだけでなくコミカルさもあり、また異なる価値観のキャラクターたちによるドラマも描かれるので飽きずに最後まで観られる
- 恐竜をモンスターではなく、生物として描いており、パニック映画として新鮮
低評価
- 序盤に情報説明が多く、ストーリーとしてはやや退屈
- 恐竜から逃げるキャラクターたちの行動に説得力を感じなかった
- パニック映画としては、怖さの量が少ない
ナニミルレビュー
ポジティブ
恐竜が蘇り、まさに目の前にいる、という面白さを味わる。目の前に現れているシーンのスペクタクルもいいのだが、それ以上に、水面が揺れるシーンや、牛が餌として与えらるシーンなど、間接的な描写で恐竜のスケールを感じられる場面も良い。
この恐竜を見る楽しさが、テーマパークを作ったハモンド気持ちと共鳴し、だからこそ、悲劇を目の当たりにして葛藤するハモンドのドラマにも共感できる。ここに作り手のエゴと良心と倫理観の問題が象徴されている。
子供嫌いを克服するアランに加え、それぞれのキャラクターが勇気を出してそれぞれの役割を果たしていく展開も観ていて頼もしい。
ネガティブ
アランの子供嫌い克服がドラマ的には一番大きな要素になっているが、「子供嫌いを克服しなければならない」という必要性が弱いので、アランの成長に大きな達成感を感じにくいのが気になる。
一応、エリーが「子供は欲しい」と言っているけど、それが差し迫った問題という訳ではない。もうちょっとアランが子供嫌いであることで起きている問題を描いて欲しかった。
恐竜テーマパークのワクワク
絶滅した恐竜を蘇らせ、島1つをテーマパークにしている、という舞台設定は、それ自体でワクワクするもの。
このワクワク感は、テーマパークを作ったハモンドの気持ちそのものである。
ストーリー的に言えば、このテーマパークは倫理的にも安全性にも問題があり、作るべきではなかったもの、という展開になる。
しかし、ハモンドは悪者ではない。ハモンドは純粋に、恐竜に接する楽しさや興奮を多くの人に味わってもらおうと思っているだけだ。
ちなみにこれは、この映画を作っているスピルバーグ自身の気持ちとも重なっているはずだし、実際に観客はこの世界を味わうために映画というテーマパークに足を踏み入れている。
ハモンドが「インチキではなく本物を見せたかった」と述懐するシーンがある。ここは、本当に生き返った恐竜を撮影したかのような映画にしたかった、というスピルバーグの気持ちだろう。
ハモンドは、人を楽しませたいという純粋な思いと、危険性を指摘する学者たちの率直な意見との間で葛藤し、最後にはテーマパークの公開をやめる。
この展開にちゃんと意味があるのは、ハモンドと同じく、観客もまたこのテーマパークを楽しめたからこそだ。
憧れの恐竜を目の当たりにするシーン、恐竜を撫でて呼吸を感じるシーン、恐竜に餌付けをするシーンなど、ワクワク感のあるシーンがスリラーの中に差し込まれている。
またスリラーの場面であっても、地響きを立てる足音から恐竜のスケールの大きさを感じたり、人を咥えて振り回す圧倒的な力を感じたり、ティラノサウルスの強さを見ることができたり、現代にはいない生き物を感じる興奮やロマンちゃんとある。
このワクワク感があるからこそ、観客はハモンドの気持ちにも納得でき、彼の葛藤も説得力を持ち得ている。
アランの子供克服
この映画メインのドラマは、子供嫌いのアランが、半強制的に2人の子供を守る役目を担い、それによって子供嫌いを克服していく、というものになっている。
これは、アランが自分の中にある幼稚さを克服していくドラマである。
冒頭の発掘現場で、アランが、生意気を言う子供を恐竜の爪を使いながら脅かすシーンがある。
自分が研究している恐竜の魅力を否定されたことに腹立ち、子供を脅かすアランは、どう考えても子供っぽい。
自分の関心の対象に熱中し、社会的に未発達の部分があるというのは、大人になれない大人の典型だ。
アランはまさにそういうキャラクターとして登場する。
パークの中での非常事態に巻き込まれ、アランは襲われる子供たちを救うため救出に向かう。
アランは、恐怖のあまりもどしてしまったティムを慰め、木の上から降りられない彼に、「こうやれば大丈夫だよ」とお手本を見せながら、一緒に木から降りる。
そして恐竜を怖がるレックスに、怖がらなくても大丈夫な恐竜を丁寧に教え、優しく恐竜との交流を促す。これは恐竜に対して無理解な子供を脅かしていた冒頭とは全く違う対応だ。
アランは、怖がる2人の子供の命を救う、という極限状況に置かれたことで、子供嫌いを克服し、精神的に成長する。
それぞれの勇気
それぞれのキャラクターは勇気を持って役割を果たす。
数学者のイアンは、アランが子供を助ける時間を稼ぐため、体を張って恐竜をおびき寄せる。
エリーは、「男の自分が行くべきか」と言うハモンドに、「やめてよ」と言って、停電を解決するために森の中へ出ていく。
そして子供たちも、食事中恐竜に襲われ、レックスはティムを救うために物音を立てて恐竜をおびき寄せ、ティムは勇気を振り絞って恐竜を冷凍庫の中に閉じ込める。
この映画は、恐竜と戦うストーリーではない。
恐竜は圧倒的な強さで人間を襲い、基本的にキャラクターたちはそれから逃げる。
しかし要所要所で、キャラクターたちは恐竜や、恐竜に襲われる恐怖に立ち向かいながら、問題を解決していく。
メインで描かれているアランの成長だけでなく、キャラクターそれぞれの成長が散りばめられていることも、ストーリーの面白さにつながっている。
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