概要
ある日、サンフランシスコの豪邸で元ロックスターのジョニーが殺される。刑事ニックと相棒のガスは、事件の日、被害者と行動をともにしていたという恋人のキャサリンを容疑者として捜査を始める。
キャサリンは資産家の美しい女で、心理学に精通したミステリ作家。物的証拠はなく、動機も不明だが、当夜のアリバイはない。また、彼女の小説に書かれている殺人の場面が、ジョニー殺害の様子と極めて類似しており彼女への疑いは高まっていく。
キャサリンは連行され取り調べを受けるが、余裕の表情で刑事らを煙に巻く。確かな証拠や動機もなく、結局キャサリンは解放される。しかしニックだけは彼女の関与を確信し、独自に捜査を進める。
謎の多いキャサリンだが、調べると彼女の周りでは多くの殺人事件が起きており、彼女の友人は前科のある者ばかりだと分かってくる。彼女は小説のネタにするためにそのような人間関係を気づいているといい、次の小説の題材はニックだと宣言して彼と関係を持ち始める。
レビューの印象
高評価
- 答えの分からないミステリー、サスペンスの緊張感
- 周囲を完全に手玉に取るキャサリンの妖艶な魅力
- ミステリーに加え、アクションやベッドシーンなど見どころが多い
低評価
- 主要キャラクターがキャサリンに陥落されていくので、頭脳戦としては彼女以外のキャラクターに魅力が薄い
- キャサリンに都合の良すぎるストーリーで嘘くささがある
- ミステリーとしてはそこまでの内容でもなく、結末も消化不良
ナニミルレビュー
豪快なベッドシーンと凄惨な殺人のシーンから始まり、意味深なアイスピックの描写で終わるラスト。映像で観客を引きつけよう、楽しませよう、魅了しようという映画らしいストーリーテリングの面白さを突き詰めていると感じた。
また、登場人物や起こる事件(ミステリー)にしても、リアルさを追求するというよりは、あくまでも「キャラクター」として、「ストーリー』として面白さや魅力、良い意味での「分かりやすさ」を感じる設定になっている。
事件自体は不可解で、最後まで真実がボヤけたまま終わっていくのだけど、その「ボヤけ」自体は、明快に表現されている。
「犯人は誰なんだ」「この人が言っているのは本当なのか、嘘なのか」というサスペンスフルで興味を引く場面場面の展開こそが重要で、全体としての事件自体のリアリティはそこまで重視していない。
しかし、だからダメということではなく、2時間、観客の興味を引き続け、映画として、目と感情を楽しませ続ける。そんな意志を感じさせる作品だと思った。
この映画最大の魅力はファム・ファタールであるキャサリンの存在だ。
自分の恋人(セフレ)の死を聞いても冷静で、警察の取り調べに対しても超然とした態度を取り、追いかけても捕まらず、逆に追う側を魅了していく。
そのような非人間的な女性なのかと思いきや、親友の死に狼狽し、利用価値がなくなったと言って縁を切った主人公の元にまた戻ってくる。そういう弱さも見せながら、いやしかし、この弱さもすべて演技か、と思わせる。
この映画は、事件の真実も、最も焦点が当たるキャラクターである「キャサリン」という人間も分からないまま終わる。
この「分からなさ」こそが魅力的な映画。その上で、その「分からなさ」が「退屈さ」になってしまわないように、それぞれのシーンでは緊張感やエロティックさをしっかりと演出し、最後まで観客の興味を失わないようにストーリーが進んでいく。
殺人のシーン(未遂も含め)では、とにかく、犯人は見えているのに、顔だけが見えず、顔が見えないだけなのに、真実が把握できない。単にこれだけの仕掛けなのに、ストーリーがねじれていって、最後まで煙に巻かれ続ける。
あと1点だけ事実がわかればすべてがスッキリとするのに、その最後の1ピースだけが足りない。この謎、分からなさ、ミステリーがサスペンスを生み、そのサスペンスが観客を楽しませる。
そういうシンプルな強さを持ったストーリーにも関わらず、妙に内容は入り組んで感じるという不思議な面白さを感じる作品。
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