映画

キング・オブ・コメディ -妄想癖の夢追いコメディアンが一夜のチャンスに全てを賭ける-

概要

親のすねをかじりながらコメディアンを目指す34歳のルパート・パプキン。彼は大ファンであるテレビスターのジェリーを付け回し、どうにか彼にサポートしてもらおうと画策するが、結局はジェリーの怒りを買ってしまう。

ジェリーに協力してもらうことを諦めたパプキンは、ジェリーのストーカーをしている悪友マーシャと一緒に、ジェリーを誘拐し、一晩だけ彼の番組を乗っ取る計画を立てる。

みんなのレビューまとめ

高評価

  • 異常な自信と執着を持つ、しかし極悪人ではない、狂った主人公のキャラクターが強烈
  • 賛否が分かれる内容で、見応えがある。この映画について誰かと話したくなる
  • 主人公の行動は肯定できないながら、何かに打ち込む勇気をもらった

低評価

  • 主人公に迷惑をかけられる側が不憫で観ていて不快
  • コメディを期待していたのに、主人公の異常さが観ていて怖い

ナニミルレビュー

良い点!

夢と妄執に取り憑かれたパプキンの狂いっぷりが素晴らしい。アツい夢物語と、イタいクズ物語の境界はあってないようなものだと感じさせられる。

パプキンの行動に「おいおい」と思う気持ちと、こんなに何かに夢中になれるのって凄いな、という感動が同時に押し寄せてくるような不思議なストーリー。

パプキンが高校生だったら、これは普通にアツいストーリーになるかもしれない。しかしパプキンは34歳。そして実家暮らしでまともに働いていないダメ男。その人生のリアリティを、辛辣な空気感でオフビートに仕上げている。

現実なのか妄想なのか分からないラストシーンは、観客にパプキンの視点を追体験させ、夢を追うことの凄まじさや儚さ、素晴らしさと同時に残酷さを感じさせる、余韻たっぷりの名シーンになっている。

イマイチな点・・・

どうしてパプキンは下積みを嫌って、いきなりテレビに出ることしか考えられないのかがイマイチ分からない。

パプキンの傲慢さゆえなのだろう、と想像できなくはないが、アレほど演じることが好きなら、実家の部屋で一人芝居をする代わりに、プロデューサーの助言通り、小さなステージにでも立てばいいのに、と思ってしまう。

そして、いくらなんでも誘拐計画のずさんさが気にはなる。まあ、ギャグなんだからいいんだけど。

イタい夢追い人パプキン

パプキンは、自分にコメディアンの才能があると信じて疑わない男。

売れているコメディアンの芸を研究し、自宅でトークの練習を積み、有名なコメディアンを出待ちして、自分の芸を必死に売り込む。

客観的に見てみれば、自分を信じ、鍛錬を積み、行動力のある凄い男である。

きっと、多くの自己啓発本が、こういう人間になるように勧めているに違いない。

しかし、この映画の主人公パプキンは、全く観客に勇気を与えてくれるような男ではない。

彼は妄想癖があり、客観的に自分の状況を判断できない人間であり、社会性の希薄なちょっと狂った人物として描かれている。

「自分を信じて! 周りの言うことなんて気にしないで!」という安いポップソングを真に受けて頑張ってしまった悪い例のような男である。

 

本作は、そんなパプキンが有名コメディアンであるジェリーと接触し、そのことで彼の行動が過激化していく様子を冷淡に描いたコメディ/ホラーな映画である。

クライマックスまでは、とにかく夢追い人パプキンの狂気と、それに対する周囲の対応をオフビートな調子で描いている。

パプキンがレストランで夢を語っていると、背後で食事をしている男性がパプキンの身振りを真似してバカにする。パプキンがジェリーの事務所を訪ねると、何度行ってもそこの社員はパプキンの名前を間違え続ける。

ジェリーを誘拐し、プロデューサーを電話で脅迫するシーンさえ、グダグダで笑わせる演出になっていたり、その後スタジオに入っても、そこのスタッフにバカにされたりする。

最初から最後まで、とぼけたパプキンの行動と、それをバカにしたり迷惑がったりする周囲の空気感のギャップで笑わせるコメディが展開されている。

と同時に、このコメディが、パプキン自身には全く可笑しく感じられていないところが、パプキンの狂気である。

パプキンと周囲の人間のギャップをコメディとして描きながら、同時にこのギャップによって強調されるパプキンの真剣さをホラーとして描いている。

つまり、パプキンのイタさは、コメディであると同時にホラーである。そして喜劇であると同時に悲劇なのだ。

 

夢という呪いのパワフルさ

客観的に見ていると、どう考えてもパプキンはイタい男である。

と同時に、彼に寄り添って見てみれば、これほど強い思いで何かを追いかけていること自体は、とても凄いことだと言わざるを得ない。

普通の人は、彼ほど熱烈に何かに人生を賭けたりしない。というか、そんなものは見つからない方が普通だ。

だから、周りでパプキンに振り回されている人々を見ていると、同情すると同時に、でも彼らはパプキンほど熱く生きてはいない、という感情も生じてくる。

 

例えば、ジェリーの事務所でパプキンを迎える受付の女性。

彼女は明らかにパプキンを見下す側の人間である。ちゃんとした職につき、仕事をこなし、真っ当な生活を送っている。

でも彼女の毎日はいつも同じだ。パプキンが受付を訪ねると、いつも何かを書きつけて同じ動作をし、電話で内部とやり取りをする。

彼女はまともで真っ当な人生を送っている。がしかし、パプキンより充実した人生を送っているかは怪しい。

 

この映画は、間違いなく夢を追うパプキンを狂人としてイタく描いている。

しかし、「夢を追うなんて辞めた方がいい」というメッセージを押し出す映画かというと、そういう印象でもない。

というのも、そんな辛い状況のパプキンを、それほど惨めに描いてはいないからだ。

パプキンは、自分の欲しいものを知っている。そして、そのためにストレートに行動している。

特に、もう自分が逮捕されるとわかっている終盤が印象的で、FBIからの尋問に、彼は全く動じず、ただ淡々と、自分の出番の打ち合わせをしている。

そしてパプキンは、自分が望むものを手に入れる(少なくとも1度は)。

 

自分が本当に何を望んでいるのか、死ぬまで分からずに終える人も多い中、彼は少なくとも、1度は自分の望むものを手に入れたのだ。

だから、この映画で描かれていることは、悲劇でありながら充実感に溢れている。

がしかし、やっぱりパプキンは異常だし、客観的に、彼は不幸に見える。

「それでも夢を追う覚悟はあるか?」と問い詰められているような気持ちになる。

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